ホーム > 畜産 > 畜産の情報 > 中国における鶏肉調製品の生産・輸出動向
日本では、2019年は鶏肉を164万トン生産し、56万トン輸入している(図2)。これらの鶏肉を原料として日本産鶏肉加工品が生産され、2019年に加工用に仕向けられたのは、国産鶏肉のうち4万5649トン、輸入鶏肉のうち9541トンであった(図3)。
また、日本は多くの鶏肉調製品を輸入しており、同年の輸入量は製品重量ベースで51万トン(注1)であった(図4)。輸入先は、原料肉やその加工費が日本より安価なタイおよび中国が大半を占めている。輸出国で鳥インフルエンザが発生すると、その国からの鶏肉輸入は原則として停止されるが、鶏肉調製品は、輸出国の家畜防疫体制や、製品の原料となる鶏を飼養している農場、原料肉を扱う食鳥処理場および鶏肉加工施設が衛生条件を満たし、製品に一定条件下で加熱処理が施されていれば、発生いかんに関わらず、日本が認定する施設からは断続的に対日輸出が可能である(注2)。このため、タイおよび中国で、2004年1月の高病原性鳥インフルエンザの発生以降、輸出品を鶏肉から鶏肉調製品に切り替えたことにより、日本の輸入量は増加傾向で推移している。中国産鶏肉調製品はタイ産より安価であるが、中国で食品安全に関する問題(注3)が発生したことや、タイ産は日本の製品規格に合ったカットや調製方法などにより品質面で優位に立っているため、2019年の輸入量のシェアは、タイが約6割で中国が4割弱となっている。なお、仕向け先を見ると、中国産は主に外食など業務用に、タイ産は業務用に加え小売にも仕向けられる傾向があるとされている。
このように、鶏肉の加工用仕向量および鶏肉調製品輸入量は増加傾向にあり、鶏肉加工品の需要も同様に増加基調にあることが分かる。
なお、日本における鶏肉調製品の利用実態の詳細は、『畜産の情報』2015年9月号「鶏肉調製品の輸入および利用実態に係るアンケート調査の結果〜鶏肉調製品の輸入量は今後も増加と予想〜」(https://lin.alic.go.jp/alic/month/domefore/2015/sep/spe-03.htm)や、当機構ホームページの「サラダチキンの需給動向について」(https://www.alic.go.jp/r-nyugyo/raku02_000076.html)を参照されたい。
(注1) 統計品目番号1602.32−290の実重量であって、肉、くず肉または血の重量が全重量の20%を超えるものを指し、鶏肉以外のもの(串、野菜、調味液など)も含有された重量となる。
(注2) 日本が鳥インフルエンザについて清浄と認めていない国から鶏肉調製品などの加熱処理された家きん肉等を日本に輸出する場合は、原則として、(1)輸出国政府が鳥インフルエンザなどの疾病の国内の発生状況を把握している、(2)原料肉を生産する農場において、と殺前21日間は鳥インフルエンザが発生していない、(3)食鳥処理場や鶏肉を加工し調製品を製造する施設が日本国政府の指定を受けている、(4)家きん肉等の原料に供される家きんについては(3)の食鳥処理場で輸出国の政府機関の検査官が行うと殺の前後の検査により、伝染性疾病に感染している恐れのないことが確認されている、(5)(3)の施設において、一定の条件を満たす加熱処理をするーなどの条件を満たす必要がある。詳細は、日本の農林水産省動物検疫所ホームページ「家きん肉等の家畜衛生条件」(https://www.maff.go.jp/aqs/hou/require/chicken-meet.html)に掲載された各国の条件のうち、「下記の家きん肉等は、家畜衛生条件に従って加熱処理されたものに限り輸入することができます。」と書かれたものを参照されたい。中国の施設認定や製品の加熱条件については詳細を後述する。
(注3) 2007年12月から2008年1月にかけて発生した、ギョーザから有機リン系薬物メタミドホスが検出された「中国製冷凍ギョーザ事件」や、2014年7月に発覚した、中国の食品加工工場が製造した食肉加工食品に消費期限切れの鶏肉などを使っていた「食品消費期限切れ事件」など。「食品消費期限切れ事件」では、事件の原因となった工場で生産された食品が日本や米国など多数の国に輸出されており、世界の食品企業が取引を中止する事態となった。
中国の食肉供給を見ると、鶏肉やアヒル肉などの家きん肉は、豚肉に次いで多く生産されており、2019年の生産量は2239万トンであった。このうち約6割の1375万トンが鶏肉である。肉用鶏には、在来種である「黄羽肉鶏」と、欧米などから導入された外来種である「白羽肉鶏」の2種が飼養されており、鶏肉生産量のうち約7割が「白羽肉鶏」から生産された鶏肉(以下「白羽鶏肉」という。写真1)である(注4)。
これらの家きん肉は、生鮮肉を家庭や外食で調理して食すほか、伝統的にジャーキーなどに加工されてきた(写真2)。また、家きん肉の一部は、東南アジアなどに輸出されているが、国内で高病原性鳥インフルエンザなどが発生すると家きん肉の輸出が停止されてしまうため、近年は、疾病の発生に左右されずに輸出することが可能な鶏肉調製品の生産に力を入れている。
現地専門家によると、鶏肉調製品輸出量の7〜8割程度を占める日本向けの原材料は全て白羽鶏肉であるとのことであり、鶏肉調製品の生産動向は、白羽鶏肉の生産や国内消費動向に左右される。
(注4) 中国の鶏肉生産や消費動向、需給見込みについては、『畜産の情報』2020年5月号「中国の肉用鶏産業の現状と鶏肉需給の見通し」(https://www.alic.go.jp/content/001177622.pdf)を参照されたい。また、直近の需給動向については、本誌の需給動向(海外)「鶏肉供給体制は整うも、需要増により輸入量は大幅に増加」(P.53)を参照されたい。
鶏肉加工品は、鶏肉を仕入れて生産する専門企業もあるが、中国においても日本と同様に垂直統合が進み、大半を養鶏のインテグレーターが生産している。今回調査を行った鶏肉加工品生産企業3社は、国内仕向け用の加工品、輸出用の鶏肉調製品の両方を生産しており、鶏肉調製品専用の工場を所有していた。
また、3社ともグループ会社内に直営養鶏場だけでなく、飼料生産会社や種鶏(PS)生産会社、食鳥処理場を所有しており、安定的に原料となる鶏肉を調達できる体制を整えていた。このようなインテグレーターでは、輸送コストや衛生管理面の確保などの理由で、養鶏場や食鳥処理場などの関連施設を100キロメートル以内の近隣に配置しており、調査を行った3社は全て食鳥処理場と加工工場が隣接していた。
なお、このような工場は環境規制により都市部から離れた地域に立地しているが、周辺地域の農民を雇うことで従業員を確保するとともに、工場敷地内に食堂や寮も併設していることがある。このようにインテグレーターは農村振興を重視する政府の方針に従い、雇用創出や農民の収入確保による地域貢献にも取り組んでいる(写真3、4)。
現地専門家によると、中国国内で生産されている鶏肉加工品は、加熱品、熟成品、味付け品の三つに分類できる。加熱品は唐揚げ、焼き鳥、サラダチキン、ジャーキーなど多種にわたる。熟成品はハム・ソーセージ類を指し、味付け品は生鮮肉をタレや香辛料で下味付け(前調理)した商品である。今回調査を行った企業も唐揚げや焼き鳥などの加熱品を生産し、製品の一部を鶏肉調製品として日本や英国・オランダなどに輸出していた。当企業もインテグレーターであるため、養鶏場や食鳥処理場も自社で所有しているが、同社の鶏肉調製品製造工場内を訪問することができたので、その工程を報告する。
まず、隣接または100キロメートル以内にある食鳥処理場から鶏肉調製品用にカットされた鶏肉を仕入れる。工場内では、(1)商品に合わせて鶏肉をカットし、(2)必要に応じて味付け作業を行う(写真5)。(3)また、つくねや肉まんなどの加工度が高い製品を作る場合は、手作業で加工・成形作業を行う(写真6)。その後、(4)蒸す、油で揚げるなどの加熱調理を行い(写真7)、(5)個包装された後、(6)金属探知などの検査を受け(写真8)、合格したものが(7)冷凍保存され、出荷される(図5)。
各工程を行う作業エリアごとに温度と湿度が空調設備により徹底管理されており、作業に当たっては、工程ごとに作業員の中にグループリーダーや衛生管理職員を配置し、進捗確認および衛生管理を行っている。他にも、ISO 22000(注5)などを取得し、HACCPによる管理の下で生産するなど、衛生管理は徹底されている。
また、これら工程のほぼ全てを機械で行っている企業もあれば、(1)のカットや(3)の加工・成形の工程を全て人が作業している企業もあるが、近時の人件費の上昇が経営課題となってきており、新たな大型機械の導入を検討している企業も多い。
なお、鶏肉調製品を生産している工場やその原料肉を供給している食鳥処理場は、輸出施設認定を受けている。日本へ輸出する場合は、中国政府による輸出施設認定に加え、中国政府家畜衛生当局が、指定基準(注6)に適合すると認められる加熱処理施設を日本政府の家畜衛生当局に申請し、日本側の指定を受ける必要がある。また、鶏肉調製品は、(1)煮沸し、飽和水蒸気に触れさせ、又は食用油で揚げることにより、中心温度を1分間以上摂氏70度以上に保つ、(2)(1)に規定する方法以外の方法により、当該家きん肉等の中心温度を30分間以上摂氏70度以上に保つー必要がある。
これら衛生面や品質面の要件を満たすため、日本の輸入販売企業が中国側の工場の設備投資や作業員への技術指導を行っている事例もある。
(注5) 食品安全マネジメントシステムに関する国際規格。
(注6) 中国から日本への鶏肉調製品輸出に係る衛生条件に定められている「指定基準」は、「中国から日本国向けに輸出される加熱処理家きん肉等に関する家畜衛生条件案」(https://www.maff.go.jp/aqs/hou/require/pdf/cn_ht_chicken_meat.pdf)を参照されたい。