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米国農務省(USDA)は7月22日、家畜・食肉・家きん業界が関係する市場の公平性・競争性を確保する取り組みの一環として、牛肉価格と肥育牛価格の価格差に関する調査報告書を公表した。これは、タイソン社の牛肉加工処理施設の火災前後および新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の発生前と大流行期間における市場状況、肥育牛価格および牛肉価格、その価格差について調べたものである。
2019年8月9日に発生した火災によりカンザス州ホルコムのタイソン社の牛肉加工処理施設が4カ月にわたり閉鎖されたため、米国産牛肉の生産と販売を担う肉用牛市場と加工処理体制に混乱が生じた。同処理施設は米国の牛肉処理能力の約5〜6%を占めていた。火災発生後には、肥育牛価格とチョイス級の牛肉価格(カットアウトバリュー(注1))の価格差(以下「2点価格差」という)は、100ポンド当たり67.17米ドル(1キログラム当たり158円:1米ドル=107円)となり、現在の価格報告制度が開始された2001年以降で最大となった。
(注1) 各部分肉の卸売価格を1頭分の枝肉に再構成した指標価格。
本報告書では、火災前の牛肉市場の傾向や状況、9月の第1月曜日の祝日であるレイバー・デーを含む週末に向けた季節的需要、同処理施設の閉鎖に対するパッカー、生体牛販売業者、牛肉購入業者の反応、肥育牛価格とチョイス級の牛肉価格への影響が考察されている。
主な見解は以下の通り。
・火災が発生した8月上旬は、祝日であるレイバー・デー(9月2日)の週末に向けて牛肉に対する需要が季節的に増加する時期と重なっていた。通常、多くの小売業者は価格設定や販売促進の決定をレイバー・デーの数週間前に行う。
・肥育牛の先物価格が火災直後に大幅に下落した。その後、肥育牛市場も続いて価格が下落した。
・火災後、パッカーは主に土曜日のと畜シフトを追加することでと畜処理量を増加させた。
・火災直後、肥育牛の相対取引の件数と割合が著しく減少した。
・同処理施設の閉鎖は、牛肉価格と肥育牛価格の価格差に影響を与えていた。8月24日で終わる週の2点価格差は、100ポンド当たり67.17米ドル(1キログラム当たり158円)であったが、2016年から2018年の同期間の2点価格差の平均値は同27.66米ドル(同65円)であった。そのため、火災に関連した2点価格差は過去3年の同期間の平均値の2.4倍となった。
米国におけるCOVID-19は、肉用牛市場および加工処理体制に深刻な混乱をもたらし続けている。4月最終週の時点において、牛肉処理施設の従業員がCOVID-19に感染した影響により、ピーク時には米国の牛肉処理能力の約40%が休止状態に陥った。その結果、COVID-19が大流行した期間には、2001年に現在の価格報告制度が始まって以降最大となる、100ポンド当たり279米ドル(1キログラム当たり658円)超の2点価格差を記録した。
本報告書は、COVID-19発生前と発生中の市場状況、2020年1月1日から6月6日までの期間のデータに基づく肥育牛価格と牛肉価格に与えた影響をまとめている。
主な見解は以下の通り。
・3月のCOVID-19の大流行に対する市場の反応の特徴は、牛肉需要が急激に変化したことである。消費者による食料品店での生鮮牛肉の購入が増加し、外食需要は店内での飲食が中止されたため減少した。
・3月はパッカーがフル稼働し、牛肉価格は上昇した一方、肥育牛価格は大きく変動した。3月中旬から4月上旬にかけて、2点価格差は100ポンド当たり34米ドル(1キログラム当たり80円)から同66米ドル(同156円)に増加した。2016年から2018年の同期間の2点価格差の平均値は同21米ドル(同50円)を下回る水準であった。
・4月と5月は、多くの処理施設従業員がCOVID-19に感染したため、牛肉供給に深刻な混乱が生じた。処理施設の閉鎖や処理能力の低下は、牛肉生産やパッカーの肥育牛需要に悪影響を及ぼした。この肉用牛需要の減少が、肥育牛価格の低下を招いた可能性がある。
・4月には食料品店で牛肉不足が起こる可能性に対する消費者の懸念から、消費者の小売需要がさらに急増した。供給の混乱とさらなる需要の急増が、牛肉価格の急激な上昇を引き起こした可能性が考えられる。同時に、処理施設の閉鎖や処理能力の低下が拡大したため、パッカーは肉用牛の購入頭数を減少させた。4月上旬から5月の第2週にかけて、2点価格差は同66米ドル(同156円)から同279米ドル(同658円)に急拡大し、実に4.2倍となった。
・5月はレストランや他の経済活動が徐々に再開し、外食および小売食料品の牛肉需要が通常な状態に戻り始めた。また、処理施設の閉鎖や処理能力の低下も緩和された。牛肉価格は5月第2週にピークを迎え、同459米ドル(同1083円)となったが、6月第1週までに同298米ドル(同703円)まで下落した。肥育牛価格は、2020年の安値である4月下旬の同154米ドル(同363円)から、6月第1週には同179米ドル(同422円)まで上昇した。その結果、2点価格差は、5月中旬の同279米ドル(同658円)から6月初旬には同119米ドル(同281円)まで縮小した。2点価格差が今後も縮小し続けるかどうかを判断するには、時期尚早である。
本報告書の公表に当たり、USDAのパーデュー長官は、「カンザス州ホルコムにあるタイソン社の牛肉処理施設で起きた火災後の閉鎖とCOVID-19の大流行は、米国産牛肉の生産と販売を担う市場と加工処理体制を明らかに混乱させた。本報告書では、これらの経済的混乱や、火災やCOVID-19の結果として生じた牛肉価格と肥育牛価格の価格差の著しい拡大について調査を行った。本報告書を公表できたことを嬉しく思う一方で、パッカー・ストックヤード法(注2)に反する行為があるかどうかを判断するための調査を継続することを、生産者に保証する。何らかの不公正な行為が確認された場合は、迅速に法的措置を講じるだろう」という声明を出している。
(注2) 市場競争を阻害する不公平な家畜取引や価格形成などを禁止し、生産者と消費者の利益保護を図ることを目的として1921年に制定された法律
【参考】
大規模牛肉加工処理施設で火災発生(米国)(海外情報(令和元年8月22日発))
https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_002500.html
新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い牛肉市場は依然として混乱(「畜産の情報」海外の需給動向【牛肉/米国】2020年7月号)https://www.alic.go.jp/joho-c/joho05_001214.html
【国際調査グループ】
米国農務省農業マーケティング局(USDA/AMS)が公表している「National Summary of Meats Graded」によると、2019年度(2018年10月〜2019年9月)の肉質等級別牛肉格付実績(注1)(重量ベース)は、肉質等級の格付を受けた牛肉全体に占めるプライム級(最上位等級)の割合が8.8%(前年度比1.2ポイント増)と過去最高を更新した(表)。割合が最も多いチョイス級は73.4%(同0.3ポイント減)、次いで多いセレクト級は17.5%(同1.0ポイント減)となった。また、肉質等級の格付を受けた牛肉全体のうち、上位3等級(プライム級〜セレクト級)に分類されたものが99.7%、歩留等級の格付を受けなかったものが71.9%となった。なお、過去5年間では、プライム級が増加、チョイス級がおおむね横ばい、セレクト級が減少傾向で推移している(図1)。
歩留等級別牛肉格付実績は、歩留等級の格付を受けた牛肉全体に占めるY1(最上位等級)の割合が5.3%(同0.5ポイント減)、Y2が33.9%(同0.9ポイント減)、割合が最も多いY3が47.8%(同0.3ポイント増)、Y4が11.2%(同1.1ポイント増)、Y5が1.9%(同0.2ポイント増)となり、上位2等級(Y1、Y2)が減少、下位3等級(Y3、Y4、Y5)が増加した。なお、過去5年間では、いずれの等級もおおむね横ばいで推移している(図2)。
2019年度の格付実施率を見ると、若齢肥育牛(去勢牛・未経産牛)の95.6%、経産牛の0.9%が、肉質等級、歩留等級の両方、もしくはいずれかの格付を受けた。また、若齢肥育牛の肉質等級、歩留等級の格付実施率はそれぞれ95.1%、27.2%となった。
(注1) 米国では、肉質等級(プライム〜キャナーの8段階)と歩留等級(Y1〜Y5の5段階)の2種類の格付が存在し、USDAの検査官によって実施されている。肉質等級は、成熟度(月齢)や脂肪交雑の度合いで格付され、プライム級を最上位等級としている。歩留等級は、生体重量に対する精肉歩留まりの割合を示しており、Y1を最上位等級(52.3%以上)としている。詳細については「米国における牛肉生産の産業構造〜消費・輸出入の動向まで〜(畜産の情報2016年11月号)」(https://lin.alic.go.jp/alic/month/domefore/2016/nov/wrepo02.htm)を参照されたい。
USDA/AMSが毎週公表している「National Steer & Heifer Estimated Grading Percent Report」によると、プライム級の週別の割合は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で米国内の食肉処理場の稼働率が大きく落ち込んだ2020年4月下旬以降、高水準で推移しており、5月中旬(5月17日〜23日)のピーク時にはセレクト級の割合(12.28%)を上回る12.55%を記録した(図3)。一因として、食肉処理場の稼働率低下を受けたフィードロットでの出荷遅延に伴い、肥育期間が長期化したことなどが影響しているとみられる。肉質等級は脂肪交雑が多ければ上位になるため、肥育期間が長い方が上位等級になる傾向がある。
また、プライム級に加え、チョイス級の割合も前年を上回って推移していることから、セレクト級はその分大きく減少し、4月下旬以降、前年を大きく下回って推移している(図4、図5)。
USDA/AMSが毎週公表している「Comprehensive Boxed Beef Cutout」によると、肉質等級の上位3等級(プライム級〜セレクト級)の牛肉卸売価格は、等級間の価格差が増減を繰り返しながらも、おおむね連動して推移している。等級別の卸売価格を2019年の年間平均で見ると、プライム級は100ポンド当たり247.1米ドル(1キログラム当たり577円:1米ドル=106円)、チョイス級は同219.7米ドル(同513円)、セレクト級は同205.4米ドル(同480円)となり、等級間価格差では、プライム級とチョイス級の価格差は同27.4米ドル(同64円)、チョイス級とセレクト級の価格差は同14.3米ドル(同33円)となった(図6)。なお、等級間の価格差は、肥育期間などの収益性に関わる経営判断のための指標の一つとされており、価格差が大きいと長期肥育へのインセンティブが高まる傾向がある。
直近の牛肉卸売価格を見ると、COVID-19の影響で食肉処理場の稼働率が落ち込んだことにより、2020年5月中旬をピークに急騰し、その後、稼働率回復に伴って急落した(注2)。急落以降は、フィードロットで出荷待ちの牛が多いことに加え、外食需要の減少が続いていることなどから、前年を下回って推移している。
(注2) COVID-19が米国の牛肉卸売価格に与えた影響については、「米国農務省、牛肉加工処理施設火災と新型コロナウイルス感染症の牛肉市場への影響調査結果を公表(海外情報2020年8月5日発)」(https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_002757.html)、「牛肉市場、新型コロナウイルス感染症に伴う異例の混乱から回復(畜産の情報2020年8月号)」(https://www.alic.go.jp/joho-c/joho05_001263.html)を参照されたい。
【調査情報部 河村 侑紀】