近年の運送業界は、長時間労働の改善対応やドライバーの高齢化など慢性的なドライバー不足により、円滑な業務の遂行が難しい状況の中で、委託先の民間業者から家畜輸送料金の改定を求められるなど、安定的な家畜輸送業務を行っていく上で大変厳しい状況が続き、家畜市場における前日搬入や土曜・日曜・祝日に家畜輸送を行うなどの状況が続いていました。平成15年2月のJA合併を機に既存の家畜運搬車(以下「運搬車」という)4台は全て売却し、家畜輸送業務は全て民間業者3社への委託により、当JAの統一料金を設定し、コストの低減を進めてきました。しかしながら、輸送業者の収益性を考慮し、20年に価格改定により料金を引き上げたものの、21年に民間業者1社が撤退し、さらに25年にも1社が撤退しました。それ以降は1社のみで輸送業務を行い、26年には原油価格の高騰、31年2月にも人件費の高騰により価格改定を行いながら対応してきました。こうした中で近隣の民間輸送業者を巡回し、業務委託の協力要請を行ったものの、いずれの輸送業者も人員の確保は難しく、また、牛などの生き物を扱うことの不慣れさもあり、常時運搬車を準備することは困難であるとの結論に達しました。
当JAは合併後の輸送エリアが広く東端の酪農家から西端の酪農家まで約70キロメートルと、牛の集荷だけでかなりの時間を要することもある点が、委託先が見つからない原因の一つでもありました。また、廃用牛を移動させるなどといった組合員の急な要望に対応しきれないことが増えてきました。そこで、今後の家畜輸送を見据えた場合、ホクレントラック事業
(注1)に参入するか、または当JAで運搬車を調達し、かつドライバーを雇用して家畜輸送を行うのか協議した結果、令和2年4月から前者による「ホクレントラック訓子府事業所」を設立し、新たに家畜輸送業務を行うこととなりました。
実際に業務を開始するに当たっては輸送に関する知識も少なく、事業所登録に至るまでさまざまな要件を満たさなければならないことから、事務所、駐車場、要領、車両管理、運行管理などの設定について、ホクレン農業協同組合連合会や関係業者の協力を得ながら準備を進め、訓子府事業所を開設しました。
同事業所では月1回の乳牛、肉牛それぞれの専門市場への輸送や、毎週火曜日には子牛や育成牛、経産牛、廃用牛とさまざまタイプの牛がセリにかけられるための輸送が必要となります。また、週2〜3回ほどある廃用牛や農家間の牛の移動なども担っています。さらに、北見市、訓子府市、置戸町には公共牧場が5カ所あり、それぞれの生産者の該当市町村の牧場に5〜10月の間預託することができるため、今年5月下旬には1000頭を超える牛の入牧が行われました。これらの運搬業務について、事業所内のドライバー調整で輸送計画を立てられることから、以前より効率的に輸送業務を行うことが可能となりました。
ドライバーはJAきたみらいの準職員であり、勤務時間は午前5時〜午後9時のうちの7時間(休憩時間1時間)となります。家畜市場開催日は、牛の集荷後に市場へ向かうので、早朝からの仕事とならざるを得ません。しかし、市場開催日以外は庭先移動が主なので、極端に始業が早くなることはありません。業務開始当初は運転経験の豊富なドライバーが必要だったので、青果物取引先の運送会社から2名に出向してもらい、2名のJA準職員と合わせて現在4名のドライバーによって輸送業務が行われています。なお、当JA内で7名の職員が大型運転免許を取得していることから、不測の事態が起こった場合に対応できる体制をとっています(表2)。
(注1) 農協の総合業務のうち、物流部門が組織的に独立した形態の事業。現在、全道では108JA中、34JAが事業に参入しており、家畜生体の輸送は生産者から家畜市場・畜産公社などへ輸送される。また家畜の運搬のほか生乳運搬と飼料配送も含まれる。なお、自動車共済はホクレントラックとして一括で加入し、共済掛金は業界一般と比較すると安価となるメリットがある。事業所の設立についても、JAで全てを行うのではなくホクレン支所からのノウハウが得られ、事業所をスムーズに開設することができる。