CDCは、2020年3月から4月にかけてサウスダコタ州のと畜処理場従業員の間でCOVID-19が流行した際に、処理場内で感染が拡大した状況に関する報告書を公表している。
発生の概要
施設Aは38部門で3635名の従業員を雇用し、1日2シフトで家畜のと畜および加工処理を行い、3シフト目で施設の消毒を実施していた。
3月16日に第1感染者と思われる従業員が発症してからの時系列は下表の通り(コラム2−表1)。
COVID‐19感染者の属性および臨床統計は下表の通り(コラム2−表2)。感染者の属性は従業員、従業員に関連する接触者、従業員および接触者以外で施設Aが所在する2郡に居住する地域住民という三つに分類された。
3月15日から4月25日までの期間、施設Aの従業員3635名のうち25.6%に当たる合計929名がCOVID‐19に感染し、うち895名(96.3%)が症状を呈した。従業員に関連する接触者2403名のうち、8.7%に当たる210件の感染事例が確認された。感染者全体のうち48名が入院し、内訳は39名が従業員で9名が接触者であった。死亡者は2名であり、接触者の死亡は確認されなかった。
従業員の年齢の中央値は42歳(18〜81歳)であり、接触者の年齢の中央値は29歳(0〜85歳)であった。COVID‐19感染者のうち、従業員34名(3.7%)、接触者6名(2.9%)、地域住民53名(4.9%)は無症状であった。今回の調査で最も早い発症日は地域住民の2月24日であった。
COVID‐19陽性の従業員のうち39名(4.2%)が入院し、入院患者の年齢の中央値は60歳(28〜73歳)であった。6月14日時点で、11名が退院し、入院期間の中央値は6.5日間(1〜69日間)であった。
COVID‐19陽性の接触者のうち9名(4.3%)が入院し、入院患者の年齢の中央値は64歳(23〜79歳)であった。入院日数の中央値は10日(1〜15日間)であった。
施設Aにおける従業員の職種、部門グループ、シフトにおける感染状況は下表の通り(コラム2−表3)。感染率が最も高かったのは、従業員同士が2メートル未満の距離で作業する生産ラインの部門であった。処理場従業員とその接触者間における感染件数は、処理場が閉鎖されてから7日間は1日当たり約10件減少した。
感染率に関して、パート従業員の感染率は26.8%、正社員の従業員は14.8%であった。正社員は、通常、他者との距離が保たれている労働環境を持ち、生産ライン上で他の従業員と近接して作業することはないため、パート従業員よりも感染率が低いと推察された。
部門グループごとの感染率は、カットが30.2%、加工製造は30.1%、と畜は29.4%となっており、多くの従業員がお互いに2メートル未満の距離で作業する傾向が高いグループで感染率が高くなった。また、異なる部門グループで働く従業員の感染は、カフェテリアやロッカールームなどの供用スペースにおける従業員間の接触や出退社時の移動手段の共用など施設外で感染が成立している可能性がある。処理場における COVID‐19感染リスクを軽減するために、従業員同士の距離を確保するための物理的なパーテーションや視覚的な表示などの技術的な感染防止策と、従業員の作業場における勤務時間をずらすなどの勤務管理上の感染防止策が重要であると考えられる。
1から3シフトの間で感染率に大きな違いは見られなかった。1シフトから3シフトの従業員のうち、3シフト目の従業員は作業時の従業員密度が最も低く、個人用保護具を着用していたが、他のシフトと感染率が変わらなかったことから、共用スペースまたは施設外で感染した可能性が考えられる。
調査が開始されてから最初の3週間は、感染率が1週間ごとに約5倍増加し、急速に感染が拡大した(コラム2−図)。4週目は従業員のCOVID‐19への感染が1日当たり平均67件発生した。施設の閉鎖を行ってから7日間は、従業員間の感染事例は1日当たり約10件減少しただけでなく、それより前に感染増加割合が鈍化する傾向が見られていたことから、施設Aの閉鎖前から感染防止策を実施していたことや施設A閉鎖後に従業員の検査件数が減少したことも、感染事例の減少に寄与した可能性がある。
まとめ
報告書は、以下の点を指摘している。
・雇用主は、業務上の感染リスクを軽減するために、公表されているガイドラインに沿った管理措置を確実に実施すべきである。
・感染拡大の要因として、作業場や共用スペースにおける従業員の密度の高さ、シフト中の従業員同士の長時間にわたる密接な接触および周辺地域社会での感染が示唆される。
・単一の感染防止策では感染を防ぐことが難しいことから、従業員同士の距離を確保するための作業場の改装や従業員の作業時間をずらすなどの複合的な感染防止策を実施すべきである。
・これらの感染防止策を実施しているにもかかわらず感染が拡大している場合は、施設を一時的に閉鎖することが、従業員およびその接触者間での感染の減少につながる可能性がある。
ただし、個々の従業員がウイルスに感染した場所は処理場内外のどちらかに特定できなかったことなどを、留意すべき点として挙げている。