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海外の需給動向【牛乳・乳製品/米国】畜産の情報  2020年11月号

乳製品需給、落ち着きを取り戻す

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生乳生産量、3カ月連続で増加
 米国農務省(USDA)が9月17日に公表した「Milk Production」によると、8月の生乳生産量は、前年同月比1.8%増の843万7000トンとなり、3カ月連続で前年を上回った(図15)。
 


 

 米国の生乳生産量は、搾乳牛(乳用経産牛)頭数および1頭当たりの乳量の増加を背景に、2020年4月まで10カ月連続で増加していた。しかし4月以降、新型コロナウイルス感染症(COVID−19)の拡大により外食産業の営業が制限され、ビザ店におけるチーズ消費などを中心に乳製品消費量が減少した。さらに、物流面での混乱により、生乳が処理できず農地への廃棄などが生じた影響で、5月は同0.5%減と11カ月ぶりに減産に転じた。
 また、USDAおよび米国乳製品輸出協会(USDEC)によると、協同組合をはじめとする乳業メーカーの供給過剰抑制措置(乳価の引き下げ。図16)などもあり、酪農家が、給餌量の調整による1頭当たりの乳量の抑制、搾乳回数の削減などを行った結果、1頭当たりの乳量がピークを迎える5月にあっても生乳生産量は抑制されたとしている。
 

 
 しかしその後、全米各地での経済活動の再開に伴い外食産業での需要が増加したこと、米国政府のコロナウイルス食料支援プログラム(CFAP)による食品買い上げ配給プログラム(注)が実施されたことなどから乳製品需給は改善され、生乳処理に係る物流面での混乱も解消されたことから、生乳生産量は再び増加基調へ転じた。
 なお、USDECによると、5月の減産は1頭当たり乳量の抑制が主因であるとしており、搾乳牛頭数は減少しつつもある程度維持されていたため、増産への切り替えは短期間に行うことができたものと考えられる。
(注) 詳細は、海外情報「米国農務省、新型コロナウイルス感染症に対する農業支援策を発表(米国)」(https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_002685.html)、海外情報「米国農務省は新型コロナウイルス感染症の影響を受けている生産者への支援策の詳細を発表(米国)」(https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_002709.html)を参照されたい。

チーズの卸売価格、急騰の後に落ち着き取り戻す
 USDAが公表している「Dairy Market News」によると、2020年8月のチーズの卸売価格は、前年同月比1.6%高の1ポンド当たり2.19米ドル(1キログラム当たり516円:1米ドル=107円)となった(図17)。
 

 
 チーズの卸売価格は近年、米国内外の好調な需要を背景に堅調に推移してきたが、COVID−19が拡大する中、ピザなどの外食消費が急減し、4月は15カ月ぶりに前年同月を下回った。
 しかし、外食産業の営業再開を受け乳製品需給をめぐる市場環境が好転したことや、旺盛な輸出需要(主にメキシコ、韓国、日本向け)の下、安価であった4〜5月のチーズ卸売価格を背景に、6月には過去最高を記録するなどチーズ輸出量が大幅に増加し(図18)、チーズ在庫量も月間の減少幅においては、記録的に減少した。この結果、チーズ需給は急激に引き締まることとなり、6〜7月の同価格は急騰を見せた。8月に入ると、チーズ需給は落ち着きを取り戻し、それに連動するように同価格も前年並みの水準まで低下している。
 

 
 なお、ホエイについては、USDECによると、「米中貿易合意の第1段階が完了し報復関税の応酬に終止符が打たれたこと、中国の豚飼養頭数が急拡大し、飼料用ホエイの需要が増加していることなどから、中国向け輸出が好調に推移している」とされている。

バターの卸売価格、依然として低迷
 他の主要乳製品価格について見ると、2020年8月のバターの卸売価格は、前年同月比23.4%安の1ポンド当たり1.50米ドル(1キログラム当たり355円)と13カ月連続して前年を下回り、依然として低迷している(図19)。
 

 
 脱脂粉乳については、前年同月比5.3%安の1ポンド当たり0.98米ドル(1キログラム当たり230円)と5カ月連続で前年を下回ったものの、ほぼ前年の水準まで回復した状況となっている(図20)。
 

 
 なお、USDECによると、「生乳のチーズ仕向け割合が増加していることから、バター、脱脂粉乳の生産量が減少している。脱脂粉乳については、昨年安価であったEU産脱脂粉乳の出回りが減少したため、米国産脱脂粉乳の東南アジア向けの輸出が非常に好調に推移している」としており、こうしたことも、脱脂粉乳の卸売価格を下支えしていると考えられる。
 

(調査情報部 藤原 琢也)