食肉は、若者からお年寄りまで食されている美味な食材である。また、食肉は、たんぱく質が豊富で、そのアミノ酸スコア
(注)も100であることから、たんぱく質の供給源として申し分のない食品である。私たちの体は、1万種類以上のたんぱく質で構成されており、筋肉、肝臓や腎臓といった臓器、骨、皮膚、髪の毛などの構造を支えるもの、α-アミラーゼ、リパーゼ、ペプシン、トリプシンなどの消化酵素、免疫に重要な抗体や酸素を各組織に運搬する血液のヘモグロビンなど、挙げれば限りがないほど多くのたんぱく質に守られて、健康を維持できている。病気などで食品からたんぱく質が取れなくなると、筋肉中のたんぱく質が分解され、アミノ酸が生命維持に必要なたんぱく質の原料となる。このことから、筋肉は「アミノ酸の貯金箱」と言えるであろう。アミノ酸の貯金箱である筋肉を大きくすることが、免疫力をつけ、現在流行している新型コロナウイルス感染症などの感染症に打ち勝つための最も重要なことであると考えられる。また、たんぱく質を十分に取り、運動することは、フレイル予防につながり、将来のロコモティブ症候群の
罹患 予防にも役立つのである。
食肉としては、牛肉、豚肉、鶏肉が主なものである。これらを調理したものは、100グラム当たり25〜30グラムのたんぱく質が含まれていることから、男性では1日当たり200グラム、女性では同170グラムほどの肉をメニューに取り入れれば、1日当たりに必要なたんぱく質量を満たすことになる(図)。
また、食肉にはたんぱく質以外に、ミネラルやビタミンも多い。どの肉でも、亜鉛やカリウムを多く含んでいる。また、牛肉には鉄、豚肉にはビタミンB1、鶏肉にはビタミンAが他の肉より多く含まれているので、1種類の肉だけを食べるのではなく、1週間で3種類の肉をバランス良く食べることが大切である。さらに最近では、食肉に多く含まれているイミダゾールジペプチドが、フレイルの予防につながる抗疲労効果や高齢者の認知症予防効果があることが分かってきた。
このように、食肉は、たんぱく質だけでなく、ミネラル、ビタミンが多く含まれていることから、毎日のメニューに必ず取り入れてほしい食材である。そして、毎日の運動を組み合わせてアミノ酸の大きな貯金箱を作ることが健康長寿の秘訣であると考えられる。もちろん、食肉だけでは健康維持を実現できない。最も大切なのは、食べ物をバランス良く食べることである。たんぱく質源としては、食肉に加えて魚や大豆も食べることの重要性は言うまでもない。さらに、野菜の摂取も不可欠であり、毎日350グラム以上の摂取が推奨されている。このようなバランスの良い食事を取ることで、2020年版食事摂取基準が目指している「国民の健康保持、健康増進、病気の予防、重症化予防」の実現につながることが期待される。
(注) アミノ酸は、人間の体内で作ることができない「必須アミノ酸」と体内で作ることができる「非必須アミノ酸」に分けられる。このうち必須アミノ酸は食事などを通して摂取する必要があり、摂取するべき必要量が定められている。この必要量を基に、各食品のたんぱく質に必須アミノ酸がバランス良く含まれているかを数値化したものがアミノ酸スコアで、最大値の100に近いほど質の良いたんぱく質を含んだ食品と言える。
参考文献
・七訂食品成分表2020、(香川明夫監修)、女子栄養大学出版部(2020)
・食品の保健機能と生理学(西村敏英、浦野哲盟編著)、アイケーコーポレーション(2018)
(プロフィール)
1979年 東京大学農学部農芸化学科卒業 (農学士)
1984年 東京大学大学院農学系研究科農芸化学専門課程(博士課程)修了(農学博士)
1985年 東京大学農学部 助手
1994年 広島大学生物生産学部 助教授
2000年 広島大学生物生産学部 教授
2002年 広島大学大学院生物圏科学研究科 教授
2008年 日本獣医生命科学大学応用生命科学部 教授
2015年 広島大学名誉教授(現職)
2017年 女子栄養大学栄養学部 教授(現職)