(1)豚飼養頭数の変化
中国では、大規模な集約化養豚モデルの普及に伴い、養豚業は順調に発展してきた。この20年間において、年末時点の豚飼養頭数
(注4)は4億1000万頭〜4億4900万頭の間で安定している。このうち、1999〜2007年の年末時点の豚飼養頭数の平均は4億2346万3000頭だったが、2008〜2014年の飼養頭数は増加して4億4680万4000頭に達した。しかし、2015〜2018年の飼養頭数は若干減少傾向となり4億4247万頭としている(図1)。
過去20年間における出荷頭数
(注5)の推移を見ると、前半は増加、後半は減少しており、その変動状況は次の三つの段階に区分することができる。
第1段階は、1999〜2006年の継続的に増加した時期である。出荷頭数は5億1977万2000頭から6億1209万3000頭まで伸びた。
第2段階は、2007〜2014年の反落後に急速に増加した時期である。2006年の繁殖雌豚頭数の減少と豚肉消費量の減少により、翌2007年の出荷頭数は5億6640万9000頭まで落ち込んだ。その後、増減を繰り返しながらも、2014年には7億4951万5000頭まで増加した。
第3段階は、2015〜2018年の継続的に減少した時期である。2015年以降出荷頭数が継続的に減少し、2018年には出荷頭数が6億9382万頭まで減少した。
中国農業農村部により全国400県で実施されたモニタリング調査によると、アフリカ豚熱発生(2018年8月、以下同じ)前は、豚飼養頭数と繁殖雌豚頭数が共に安定的な水準を維持していた(図2)。しかし、アフリカ豚熱発生以降、いずれも大幅に減少している。繁殖雌豚頭数は2018年10月に前年同月比5.9%減とかなり減少し、その後アフリカ豚熱の流行拡大に伴い、翌2019年8月まで減少の一途をたどった。この動きに対し、中国国外のさまざまな研究機関により飼養頭数が予測され、数%〜50%の幅は生じているものの、いずれも2019年および2020年の飼養頭数は減少するとされている。
(注4) 豚飼養頭数には、種豚、繁殖雌豚、肥育豚、子豚が含まれる。
(注5) 出荷頭数は、飼養農場から出荷された頭数。大半がそのままと畜されるが、別農場に移送される豚も含まれる。なお、市場を通していない取引は含まれない。
(2)肥育豚の供給
アフリカ豚熱発生以降、生体豚
(注6)および豚肉製品
(注7)(以下「豚等」という)の移動制限が、疾病のまん延を抑制する重要な手段の一つとなった
(注8)が、同時に、国内の需給不均衡をもたらした。2019年2月18日、農業農村部が『全国アフリカ豚熱等重大動物疫病地域的予防方案(意見募集稿)』および『全国アフリカ豚熱予防工作方案(2019年)(意見募集稿)』を公布したが、その付録に、各省の肥育豚の年間出荷頭数ならびに純入荷頭数と純出荷頭数が掲載されている。以下に、中国の地理区分方式に基づき、各省を七つの地域に区分
(注9)して需給動向を分析した(図3)。
(注6) 生体豚には、種雄豚、繁殖雌豚、肥育豚、子豚が含まれる。子豚の多くは肥育もと豚である。
(注7) 豚肉製品とは、と畜・加工後の製品を指し、豚肉、内臓、骨、皮などを指す。
(注8) 主なアフリカ豚熱対策については、海外情報「アフリカ豚コレラ続発も豚肉価格の変動は小さく、輸入量は減少」(https://www.alic.go.jp/joho-c/joho05_000523.html)を参照されたい。
(注9) 各7地域に含まれる省・自治区・直轄市は、以下の通り。統計によって地域区分が異なるが、本稿では後述の区分に統一して分析した。
東北地域(遼寧、吉林、黒竜江)
華北地域(北京、天津、河北、山西、内モンゴル)
華中地域(湖北、湖南、河南、江西)
華東地域(上海、江蘇、浙江、山東、安徽)
華南地域(広東、広西チワン族、福建、海南)
西南地域(四川、重慶、貴州、雲南、チベット)
西北地域(陝西、新疆、甘粛、寧夏、青海)
分析に当たり、地域内の肥育豚および豚肉製品(以下「肥育豚等」という)の生産頭数が需要頭数を満たせるか否かを基準ラインとして、肥育豚等の生産地域を出荷地域と入荷地域に区分すると、出荷地域(供給超過地域)は東北地域、華北地域と華中地域となる(表1)。これら3地域の余剰頭数および余剰頭数の需要頭数に対する割合(充足率)はそれぞれ751万7000頭(13.3%)、221万3000頭(3.8%)、4123万4000頭(26.0%)と、供給過多となっている。一方、入荷地域(需要超過地域)は華東地域、華南地域、西北地域、西南地域であり、これら3地域の不足頭数および不足率はそれぞれ1852万8000頭(13.3%)、605万1000頭(6.2%)、230万8000頭(8.3%)、1814万2000頭(11.5%)と、かなりの供給不足となっている。このことから、仮にアフリカ豚熱が発生せず、2019年の各地域の肥育豚等の需給に変化がなかった場合、全国には総出荷頭数0.9%に当たる593万5000頭の余剰生産能力があったはずであり、各地域の肥育豚等の需要を基本的に満たすことができた。しかし、アフリカ豚熱が発生し、豚等の移動が制限されたことにより、地域間の需給ギャップを埋めることは困難となった。
(3)生体豚の価格
農業農村部により全国500カ所の集貿市場(地方で定期的に行われる市)で実施されたモニタリング調査によると、アフリカ豚熱発生前は、子豚の農家販売価格の全国平均価格は下降傾向にあった(図4)。これは、この時期の中国の養豚産業が盛んで子豚の出荷が旺盛だったことを示している。その後2019年2月までは、一時的な上昇は見られたものの、下降傾向は続いていた。しかしながら、同年3月以降、アフリカ豚熱の影響が表れ、肥育豚および子豚価格に顕著かつ継続的な上昇が見られ、2020年2月にはいずれも2010年以降の最高値に達している。
地域ごとに見ると、アフリカ豚熱発生前は各地域の肥育豚価格に差はなく、すべて上昇傾向にあった。しかし、アフリカ豚熱発生後は、市や県などの行政区分をまたぐ豚等の移動が禁止され、各省で豚等の移動が地方政府の管理下に置かれた結果、肥育豚価格に大きな地域差が出現するようになった(図5)。その差は、拡大、縮小、再び拡大という三つの段階を経ている。
第1段階(2018年8月〜2019年1月)においては、各地域の需給不均衡が深刻で、価格差が拡大した。華南および西南地域は全国でも肥育豚価格が上昇した地域で、とりわけ西南地域の肥育豚価格は1キログラム当たり17元(270円)以上に達した。主にこの2地域では1人当たりの豚肉消費が多く、他の地域から肥育豚等を入荷
(注10)しなければ需要を満たせないため、供給が不足したことで肥育豚価格も上昇した。一方、東北および華北地域は、肥育豚価格が低迷した地域となった。このうち、東北地域では2019年始めの肥育豚価格が1キログラム当たり8元(127円)を割っている。これは、主にこの2地域では1人当たりの豚肉消費が少なく、地域内の肥育豚等の供給が需要を上回っていることによる。また、華東、華中および西北地域の価格も、下げ幅は小さいものの低下傾向にあった。これらの地域では、消費者のアフリカ豚熱に対する認識不足により、流通している肥育豚等の安全性に懸念があるとみなして豚肉消費を控えたことで、地域内の肥育豚等の供給が需要を上回ったためと考えられる。
第2段階(2019年2〜5月)では、各地域の肥育豚価格は3月に高騰した後、安定して推移しているが、各地域の価格差が縮まっており、豚肉需給は比較的バランスが取れていたと言える。これは、アフリカ豚熱が収束せず全国的なまん延が続いたことで、全ての地域で豚の飼育頭数と繁殖雌豚頭数が減少し、肥育豚の供給が減少したためである。
第3段階(2019年6〜8月)では、各地域の肥育豚価格は軒並み上昇し、地域差も再び拡大した。2019年6月、西南地域以外の6地域では急速な上昇傾向を示し、その後、同年7月には華南地域で肥育価格が高騰した。
(注10) 中国では、豚を生産した省内の食肉処理場でと畜し、豚肉製品を消費地の他省に運搬する場合と、肥育豚を生体のまま運搬し、他省でと畜する場合がある。
(4)養豚経営の収益
肥育豚とトウモロコシの価格比(以下「豚飼料比」という)は、肥育豚価格を主要飼料原料であるトウモロコシ価格で除したもので、養豚経営の収益を評価する重要指標の一つである。国家発展改革委員会、財政部、農業部、商務部、工商局および国家質量監督検験検疫総局が2009年1月に合同で公布した「肥育豚価格の過度の下落防止調整対策(暫定)」の目標では、豚飼料比5.5以上を目指すとし、この豚飼料比を次の五つのゾーンに区分している(表2)。なお、一般的に、5.5が養豚経営の損益分岐点と見なされており、零細農家は豚飼料比 が5.5を下回ると繁殖雌豚を処分する一方、6.0を超えると繁殖雌豚を導入するとされる。
アフリカ豚熱発生後は、2018年8月から2019年6月の間は全体的に上昇傾向にあり、2020年2月時点では17.5と、かなりの高利潤状態を呈している(図6)。
また、損益分岐点を独自に設定している民間証券会社である東方財富のデータベースによると、アフリカ豚熱発生後、全国の豚飼料比の変動は次の3段階に区分することができる(図7)。
第1段階(2018年8月〜9月26日)では、豚飼料比が5.5から5倍後半で変動した後4.8まで急落し、損益分岐点を下回った。
第2段階(同年9月27日〜2019年1月30日)には、豚飼料比は5.0〜5.5の間を変動した後、1月30日に最低水準となり損益分岐点に達した。
第3段階(同年2月1日〜7月31日)では、豚飼料比は変動しながら上昇傾向を示している。7月31日には7.9まで上昇し、損益分岐点との差も拡大した。