牛肉価格、外食産業や観光業の営業再開により回復傾向
欧州委員会によると、欧州連合(EU)加盟27カ国の2020年9月の平均牛枝肉卸売参考価格(A/C/Z-R3)
(注1)(以下「牛枝肉卸売価格」という)は、前月比0.4%安、前年同月比1.7%安の100キログラム当たり351.7ユーロ(4万3963円:1ユーロ=125円)となった(図4)。牛枝肉卸売価格は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響を大きく受け、本年3月から5月にかけて急落した。しかし、4、5月と生産量が減少したことや、各加盟国がCOVID-19対策として規制していた外食産業や観光業の営業を再開したことなどにより、牛枝肉卸売価格は、5月中旬に底を打った後、前年と同水準近くまで回復した。
(注1) 参考価格(A/C/Z-R3)とは、EUにおける牛枝肉卸売価格の指標的な価格であり、A=若雄牛(12〜23カ月齢)、C=去勢牛(12カ月齢以上)、Z=子牛(8〜11カ月齢)のうち、R=形状と発達度合いに基づく枝肉の格付けが上(6段階評価の上から4番目)、3=脂肪の付着度合いが平均的(5段階評価の上から3番目)なものの加重平均価格である。
牛肉生産量、COVID-19と春季の乾燥気候の影響から回復の見込み
欧州委員会によると、2020年7月の牛肉生産量は、回復傾向にある需要にけん引されるなどして、前月比0.3%増、前年同月比0.3%減の57万8000トン(枝肉重量ベース)となった(図5)。4月および5月は、従業員のCOVID-19感染による食肉処理場の操業停止などの影響のほか、春季の乾燥気候による牧草生育不良のため、低体重での早期出荷が増えたことなどから前年同月を大きく下回ったものの、6月および7月には生産量が前年並み以上の水準まで回復している。
1〜7月の累計で見ると、EU全体で前年同期比2.2%減と、COVID-19などによる減産の影響が見られる(表2)。加盟国別に見ると、EU最大の生産国であるフランスが同0.2%増とわずかな増加にとどまったほか、同国以外のほとんどの主要国で前年同期を下回り、中でもイタリアは同14.7%減とかなり大きな減少となった。
欧州委員会が10月に公表した農畜産物の短期的需給見通し
(注2)によれば、COVID-19の影響からの回復がさらに進むことなどが期待され、2020年の牛肉生産量は前年比1.4%減まで減少幅が縮少すると見込まれている。
(注2) 詳細は海外情報「欧州委員会、食肉の短期的需給見通しを公表(EU)」(https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho1_002794.html)を参照されたい。
輸入量、外食産業の営業停止の影響を受け大きく減少
欧州委員会によると、2020年1〜8月の累計の牛肉輸出量(英国向けを除く
(注3))は、フィリピン、スイス、香港などの主要輸出先の需要増加により、前年同期比8.8%増の18万836トンとなった(表3)。欧州委員会によれば、英国のEU離脱(BREXIT)の移行期間終了後の貿易障壁の懸念から同国向け輸出量が減少する中、アイルランド、デンマーク、イタリア、フランス、ドイツなどがアジアを中心に英国以外の仕向け先への輸出量を増やしている。なお、EU全体の英国向け輸出量については、1〜7月の累計で同14.5%減の16万5479トンとなった。
一方、同年1〜8月の累計の牛肉輸入量(英国産を除く)は、外食産業の営業停止による需要減退の影響を大きく受け、同22.3%減の13万1573トンとなった(表4)。欧州委員会は、各加盟国で外食産業が営業再開されるなど規制緩和が徐々に進んだことから、需要の回復を期待している。しかしながら、10月に入り、一部の加盟国で再び外食産業の営業を停止とする規制強化が実施されるなど、今後の動向は各加盟国でのCOVID-19の感染拡大状況やその対策に大きく左右されることが予測される。
(注3) 英国は2020年1月31日にEUを離脱したものの、現在はEU法の適用下の「移行期間」にある。移行期間は同年12月31日に終了予定。EUと英国は移行期間終了後に向けた通商交渉などを行っている最中にある。
(調査情報部 国際調査グループ)