(1)酪農分野の概要
ポーランドの国土面積は約31万平方キロメートルと日本の約5分の4程度となっている。また、国土の47%が農地、31%が森林であり、農業環境にも恵まれている。総人口(約3797万人:2019年)の約3分の1が農村部に暮らしており、農家の規模は比較的小さい。
同国の2019年の農業産出額を部門別に見ると、生乳部門は16%と最も高く、酪農は主要産業となっている(図1)。
同国の2016年の酪農家戸数は約37万3000戸、乳牛飼養頭数は約225万頭であり、1戸当たり飼養頭数は極めて少ない。同国の生乳出荷量は年々増加傾向で推移し、2019年はEU加盟国の中で第4位であることから、欧州において重要な酪農国となっている(表1、図2、3)。
また、米国農務省(USDA)によると、同国では北東部にあるヴァルミア・マズールィ県、ボドラシェ県、マゾフシェ県で酪農が盛んである(図4)。
同国で飼養されている乳用牛(牛群検定参加牛)は、ホルスタイン(305日平均乳量8055キログラム)が97%とほとんどを占めるが、小規模農家においては、伝統的なレッドポリッシュ(同3523キログラム、0.29%)やシンメンタール(同6146キログラム、0.88%)も飼われている。同国では前述の通り飼養規模が極めて小さいものの、近年、徐々に規模拡大が進展している。2005〜13年の農地面積別の飼養頭数を見ると、30〜99.9ヘクタール層で増加している一方で、2ヘクタール未満〜29.9ヘクタール層で減少している(表2)。なお、2015年のEUの生乳クオータ制度の廃止により、さらなる集約化や適地生産化が進んでいることから、現在、この傾向はさらに進んでいると考えられる。
EUの教育助成プログラムである「ERASMUS+」によると、同国の酪農分野の長所と短所は表3の通りである。
(2)飼養方法
ポーランド乳業協会(以下「ZPPM」という)によると、一般に夏は放牧し、他の季節は舎飼いされているという。しかしながら、欧州草地連盟(European Grassland Federation)によると、ポーランドの放牧率は20%と比較的低く、また、放牧率は急速に低下しているとのことである。
(3)生乳の出荷先
ZPPMによると、酪農家が生産する生乳の70%は酪農協に、30%は乳業メーカーに出荷されている。なお、酪農家の直売は極めて少ないとのことである。
同国の制度においては、酪農家は出荷先を決めることができるものの、多くの農家が既存の出荷先に出し続けるとの選択をしているようである。
農家が出荷先を決めるに当たり、表4の要素を検討すると言われている。
ポーランドには約160カ所の生乳処理施設があるとされており、一つの地域の中にも、酪農協および乳業メーカーの両方がある場合がほとんどである。
(4)生乳出荷契約
ポーランドでは国内法の規定に基づき、収穫物などを販売する農家は、取引先と書面契約を締結しなければならないとされている。しかし、酪農協と組合員の取引は同規定の例外とされているため、一般に書面契約はなされていない。なお、酪農協は定款において、衛生条件を満たさない場合などを除いて、組合員(酪農家)が出荷する生乳はすべて買い取らなければならないと定めている。酪農協が組合員以外の酪農家から生乳を買い取る場合には書面契約が必要だが、こうした例は極めて少なく、この規定に基づいて書面契約を締結しているのは、乳業メーカーに生乳を販売している酪農家(全体の30%)のみと思われる。
しかし、酪農協でも承諾を確認するものとして、組合員である酪農家との間で生乳価格の計算法や特定の行為に対する罰金、支払いに関する取り決めに合意する文書を締結することはある。
(5)乳価の決定方法
生産者乳価は生乳の集乳量、乳脂肪やたんぱく質含有量、衛生品質要件や輸送コストに基づいて決定される。また、有機認証を取得している生乳に対してはプレミアムが上乗せされる。なお、ポーランドの生乳取引価格の推移は図5の通りである。また、同国の牛乳・乳製品の30%が輸出されているため、同国の乳価は欧州をはじめ諸外国の相場の影響を受けている。
(6)生産コスト
欧州委員会が2016年に公表した生産コストに関する報告書によると、生乳生産コストのうち飼料費が生産コストの約50%を占める。飼料費のうち、70%は購入飼料費、30%は自給飼料費となっている。その他の構成要素では、エネルギー、機械・建物の維持費および労働費がそれぞれ生産コストの10%を占めている。同国の生産費は低いため、粗利益
(注2)はEU13
(注3)のうち3番目に高く、1トン当たり109ユーロ(1万3734円)である(図6)。
また近年の推移を見ると、ポーランドの粗利益は、EU全体の生乳価格の変動に伴い推移していた。2009年に生乳価格が底を打って以降、粗利益は持ち直し、2014年にピークに達している(図7)。その後、2015年から2016年は低下した。なお、2015年から2016年にかけての低下は、2015年の生乳クオータ制度の廃止に伴う生産量増加が背景にある可能性がある。
(注2) 酪農部門の収益から生産コスト(労働、土地、資本に関するコストは除く)を差し引いた収益。
(注3) 同報告書内では、EU加盟国を2004年以前に加入していた15カ国(EU15)および同年以降に加入した13カ国(EU13)に分けている。