(1)温度、THI
冷却室内の温度、THIはいずれの期間も対照より低く推移し、温度は平均で2.0度、THIは平均で4.3低下した(図3、4)。
冷却室と対照の温度差の推移を示した(図5)。冷却室は対照に比べ最大で約5.1度、最小で約1.5度温度が低下した。
冷却室と対照のTHI差の推移を示した(図6)。冷却室は対照に比べ最大で約6.0、最小で約3.4THIが低下した。
床上からの高さが異なる地点での温度、THIの時間推移を図7および図8に示した。日が昇る6時ごろから気温、THIとも上昇し13〜17時の間は高いまま維持し、その後、日の入りとともに低下した。温度、THIとも床上から高いほど上昇したが、対照と比べるといずれの時間帯も低く推移した。
(2)採胚成績
当場が過去に行った採胚(n=725)では、暑熱期に正常胚数の減少が見られた(図9)。今回暑熱対策(冷却室+スポットエアコン)を行った場合の採胚成績を表3に示した。回収卵数、正常胚数、未受精卵数とも暑熱期は通常期と同様な成績であった。
暑熱対策を施した供試牛の過剰排卵のAI時の卵巣を示した(写真)。過剰排卵処理の反応も良く、多数の卵胞が存在しているのが分かる。また、暑熱対策を行った4頭の供胚牛からはいずれも移植可能な正常胚が回収できた。
(3)暑熱ストレス
2−チオバルビツール酸反応性物質(TBARS)は、酸化ストレスに応答して濃度が上昇する物質の総称で、脂質ヒドロペルオキシドやアルデヒドなどが含まれる。
TBARS濃度を処理開始日(0日目)と採胚日(21日目)で比較した。暑熱ストレスを受けるTBARS濃度は上昇するが、冷却室で連続クーリングすると、暑熱期においても採胚日のTBARS濃度は通常期と同様であった(表4)。
同時期に別の牛舎内の冷却室で実施した暑熱ストレスの試験では、採胚前の過剰排卵処理開始日、人工授精日および採胚におけるTBARS濃度はいずれもクーリング区が非クーリング区よりも低く、採胚日はクーリング区(7.15µM)が非クーリング区(8.62µM)より有意に低くなった(図10)。
(4)血液性状
血液性状の結果を表5に示した。血中グルコース濃度(Glu)はエネルギー代謝の指標であり、適正範囲以外の牛群では一般的に繁殖性が悪いと言われる。処理開始日は適正範囲以上であったが、採胚日には適正範囲内であった。
血中総コレステロール(T-cho)もエネルギー代謝の指標であり、乾物摂取量と正の相関がある。処理開始日、採胚日とも適正範囲内であった。
血中尿素態窒素(BUN)は、タンパク代謝の指標となり、適正範囲以下では発情兆候が微弱になり、また卵巣機能の低下を招く。処理開始日、採胚日とも適正範囲以下であったが、採胚日のBUN値は適正範囲により近づいた。
γグルタルトランスフェラーゼ(GGT)は肝細胞が破壊されると血中濃度が高まることから肝臓障害の指標として用いられる。処理開始日は適正範囲以上であったが、採胚日では適正範囲内となった。
グルタミン酸オキサロ酢酸トランスフェラーゼ(GOT)は肝臓の実質障害の程度を知ることができ、急性の肝疾患により上昇する。処理開始日は適正範囲以上であったが、採胚日には適正範囲内となった。