ホーム > 畜産 > 畜産の情報 > 新型コロナウイルス感染症がEU畜産業界に与えた影響について〜グリーンリカバリーと見直される農業のあり方〜
欧州委員会は、外食産業の営業停止は豚肉や鶏肉よりも高価格帯で取引される牛肉の消費に大きな影響を及ぼしたとした。特に、枝肉の総価値の3割程度を占める高級部位の需要減少による影響が大きいとされる一方、低級部位は主に南米から継続して輸入され、前年から低水準であった牛枝肉卸売価格は2020年3〜5月の間に4.5%下落した(図1)。同価格は5月中旬に底を打った後、外食産業が徐々に再開したことで7、8月と前年水準まで回復するも、その後再び前年を下回っている。
同年の牛肉生産量は、COVID-19による影響が大きかった4、5月に食肉処理場の操業停止や天候不順で前年を大きく下回ったものの、欧州委員会が10月に公表した短期的需給見通しによれば、下半期は安定的に推移し、通年では前年比1.4%減にとどまると見込まれている(図2)。輸出量が4、5月の減産期を除けばおおむね順調に推移している一方、輸入量は外食需要の減退により3月以降前年を下回るも、その後徐々に回復傾向にある(図3、4)。
投資の進展などから生産量も輸出量も堅調に推移したものの、豚枝肉卸売価格は3〜10月の間に26.6%下落した(図5)。この要因として、食肉処理場の操業停止などの影響もあるが、欧州委員会は、アフリカ豚熱の発生状況や国際貿易の影響が今後強まるとみている。一部の加盟国では2度目のロックダウンが実施されるなど、COVID-19とアフリカ豚熱の影響が相まっている状況にあり、現地関係者はEU養豚業界の混乱の可能性を指摘している。
アフリカ豚熱については、9月にドイツの野生イノシシで発生し、その後、最大の輸出先である中国をはじめ多くの国でドイツ産豚肉の輸入規制が行われた。2020年のEU総生産量は前年比0.5%減と見込まれているものの、EU最大の豚肉生産国であるドイツでのアフリカ豚熱発生は市場にかなりの不確実性をもたらすとみられている(図6)。
輸入規制を行っている国々への輸出については、ドイツ以外の域内からの代替の動きも一部で見られている。一方、ドイツのEU域外輸出に関しては、感染を封じ込め、発生地域がこれ以上拡大しないことが最も重要であるが、最大の輸出先であり、自国内でのアフリカ豚熱発生により輸入量を増やしていた中国向けが制限される中にあって、中国をはじめ相手国が地域主義(注)の適用によって、アフリカ豚熱発生国からの輸入停止を疾病発生地域に限定するかどうか、その地域をどのように定めるかに注目する必要がある(図7)。なお、豚肉輸入量は輸出量に比べると極めて少ない(図8)。
(注) 地域主義とは、疾病発生国であっても、清浄性(当該疾病の感染の可能性がないこと)が確認できる地域からの輸入であれば認めるもの。
(参考)
海外情報「野生イノシシのアフリカ豚熱、2州に拡大。豚価は下落後、低迷続く(ドイツ)」
(https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_002814.html)
外出制限は、家庭内消費の多い鶏肉需要の増加につながった。主要生産国であるポーランドでの投資の進展もあり、欧州委員会は2020年の家きん肉生産量を前年比1.0%増と見込んでいる(図9)。外食産業の営業再開は一時期下落した家きん肉卸売価格に一定の回復をもたらしている(図10)。なお、家きん肉の中でも、外食向けが主である鶏肉以外(カモ、ホロホロ鳥、ハト、ウズラ)は、減産がしばらく続くとみられている。
一方、輸出量は、2020年通年で同6.0%減と見込まれているが、現在、EU各地で鳥インフルエンザが発生しており、この見込みを下回る可能性も出ている(図11)。また、輸入量は、外食需要の低迷により2020年通年で同12.0%減が見込まれている(図12)。