ホーム > 畜産 > 畜産の情報 > 中国牛肉産業の現状と課題
中国では、年間約8800万トンの食肉が消費され、人口が13億9300万人と世界全体の18.3%を占める中、食肉消費量は全世界の28%を超えている(注5)。統計の取り方が若干異なるが、多くの統計を統合すると、2014〜18年の食肉消費量の平均は年間8930万トンであり、2019年は、アフリカ豚熱やこれに伴う食肉価格上昇などにより、2018年と比べて9%減の8130万トンとなった。
中国の年間一人当たりの平均食肉消費量は約50キログラムであり、米国の約99キログラム、EUの約70キログラムと比べると、個人消費が伸びる余地が大きいと言える。食肉消費を具体的に見ると、全体の約65%が豚肉、約21%が家きん肉、約8%が牛肉、約5%が羊肉となっている。米国では約50%が家きん肉、約26%が牛肉、約24%が豚肉であり、EUでは約47%が豚肉、約35%が家きん肉、約16%が牛肉、約2%が羊肉となっている。中国では、全体的に豚肉を多く消費しているが、近年豚肉の消費が減少し、牛肉の消費が増加している。
(注5) 「中国産業情報」(www.chyxx.com)の2019年「中国肉類生産量」、「輸出入量および消費量分析」から算出。
中国では、国内需要の大半を自国で生産しているが、国内生産が需要に追い付いておらず、多くの食肉を海外から輸入している。国内の生産を見ると、2019年は、豚肉の生産量が前年比22.0%減の4260万トンとなった。一方で、家きん肉の生産量は同6.5%増の2239万トン、牛肉が同3.6%増の670万トン、羊肉は同2.7%増の490万トンとなった(図1)。豚肉が全体の55.6%を占めるが、前年と比べて約7.0ポイント減少し、家きん肉のシェアは同4.9ポイント増の29.3%、牛肉は同1.3ポイント増の8.7%、羊肉は同0.9ポイント増の6.4%となった。2019年はアフリカ豚熱の影響を大きく受けているが、近年の傾向として、家きん肉、牛肉、羊肉の生産量と消費量が増えているのは間違いないと言える。
また、畜産物の生産状況を見ると、生産が特定の地域に集中している傾向がある。中国国家統計局によると、2018年は、生産量トップ10省の生産量が全体に占める割合は、豚肉の場合65.9%、牛肉では70.0%、羊肉は75.9%、家きん肉は72.3%となっている。
近年は食肉の輸入量が年々増加しており、2019年の輸入量は前年比58%増の484万トンとなった。その中で、豚肉は同68%増の200万トン、牛肉は同60%増の166万トン、羊肉は同23%増の39万トン、家きん産品合計は同58%増の79.5万トンとなっている。特に牛肉については、2020年は220万トンを超えると予測されている。全体的に牛肉の消費量の20%以上を海外からの輸入に依存しており、業界関係者によると、国内で流通している、肉に霜降りが入り、その市場価値が認められた高級牛肉については8割以上が輸入品であるという。
一方、中国海関総署(日本でいう税関)が取り締まりを強化しているものの、業界関係者の間では、一定量の食肉が密輸されていると言われている。
2019年末から拡大したCOVID-19が畜産業へ与える影響は小さくない。COVID-19の封じ込めのため、2020年1月23日から湖北省武漢市で都市閉鎖(ロックダウン)が始まり、全国的に人の移動制限、外食店の営業停止、休校などの措置が講じられた。その後、各地では感染拡大の度合いの違いから、多少なり早い時期にマスク着用および体温測定と、携帯電話GPSによる移動履歴の確認を前提に、移動制限が緩和されたが、武漢市の都市閉鎖は、4月8日までの76日間と長期に及んだ。
肉用牛産業への影響は「生産」と「消費」両面に及んだ。消費面では、外食店の営業停止に加え、多数の人が集まる場として、国民の多くが外食などの場を避けたことより牛肉消費は落ち込んだ。生産面では、飼料供給、従業員不足、資材供給制限による繁殖の遅れなどに加え、と畜場や生体牛取引市場などは、地域によって多少の差があるものの、2カ月程度の稼働停止を余儀なくされ、再稼働後も時間短縮営業や需要の低迷などにより、肥育農家の出荷延期など、経営に大きな影響を与えた。
COVID-19による肉用牛産業への影響をいち早く調査した「国家肉牛やく(牛へんに毛)牛産業技術体系(NATIONAL BEEF CATTLE INDUSTRIAL TECHNOLOGY SYSTEM)」(以下「肉牛やく(牛へんに毛)牛体系」という)(注8)によると、2020年2月8〜11日の間、山東省の9地域35農場において、肥育用および繁殖用もと牛の調査が実施され、うち87.5%の農場に影響があったとしている。具体的には、車両の通行禁止や物流の停止により、購入した牛を輸送できず、繁殖・肥育農場における飼養頭数が、前年同期と比べて88.1%となったとしている。また、と畜・加工場の稼働停止により肥育牛の20%が出荷できず、飼料コストの増加や資金繰りの悪化など大きな問題を抱えているとしている(写真10)。労働力関連においては、他の地域から雇用している従業員が新年や春節休暇の帰省後、農場に戻れなかったことや、移動による感染を恐れて退職した者もいたため、34.3%の牧場で影響を受けている。うち2農場では、所在地域でCOVID-19が確認されたことで人の出入りが禁止され、多くの影響を受けたとしている。飼料調達では、トウモロコシや大豆かすなどの濃厚飼料、次いで乾草が不足し、飼料価格と輸送コストが上昇したことにより、94.3%の牧場が影響を受けた。また、物流制限により冷凍精液の調達が制限されたことから、87.5%の農場が繁殖業務に影響を受けたとしている。中には、種雄牛を購入して自然交配に切り替えたが、これよって繁殖成績の低下、家畜疾病の感染や飼料コスト増加などの負担が増加したということである。「肉牛やく(牛へんに毛)牛体系」はその後、
また、河北省保定市の高級肉用牛農場からの聞き取りによると、「と畜場の停止により、2月以降に2カ月以上全く出荷がなかった上、と畜場が再稼働してからも販売見込みが立たず、出荷頭数を調整せざるを得なかった。飼料費や人件費など余分なコストがかかり、全体的に経営を圧迫することとなった。種付けも2カ月間は停滞し、総合的に見て、経営に大きな影響がある」とのことである。一方、繁殖を主とする内モンゴルの草原地帯では、COVID-19による移動禁止措置が取られたものの、肉用牛経営には大きな影響がなかったという。以上から、放牧中心の経営や、COVID-19発生前である秋から冬に飼料調達を済ませた農場での影響は軽微であるものの、舎飼い中心の経営では、飼料調達、飼料費上昇などの問題に直面したと言える。
このような状況を受け、各地域政府は、マスク着用、体温検査や移動履歴の確認などを前提に飼料や家畜の物流などの物流規制の撤廃や、肉牛生体取引市場の再稼働などの対策を講じることにより畜産業全体の再起に努めた。
(注8) 「国家肉牛やく(牛へんに毛)牛産業技術体系(http://www.beefsys.com/)」は、主に中国の肉牛産業の繁殖分野に技術問題の解決、または養殖農家へに繁殖に関わる全面的技術指導、肉牛業関係の調査などを実施している組織である。
近年、鳥インフルエンザやアフリカ豚熱の発生により、鶏肉や豚肉の生産は大きな影響を受け、供給不足分を輸入で補う必要があるが、国際関係や疫病防止など貿易上の課題に直面している状況にある。このため、中国政府は、国内生産増加支援に加え、各国に対して経済発展支援を含めた農畜産物の国際貿易の拡大にも力を入れている。一方で、COVID-19の発生は輸入食肉にも大きな影響を与えた(写真11〜13)。先述したように、牛肉生産、消費への影響のほか、海外でのCOVID-19の拡大により、輸入食材への安全・安心への関心が高まった。中国海関総署は2020年2月から、輸入業務を妨げないという前提のもと、輸入冷凍・冷蔵食材に対し新型コロナウイルスに係る抜き打ち検査(核酸検査)を実施しており、7月の記者会見では検査継続の必要性を強調した。また9月には「中華人民共和国海関総署公告(2020年第103号)」において、冷凍・冷蔵食材を媒体として新型コロナウイルスが中国へ侵入するリスクを防止し、消費者の健康と安全を守ることを目的に、新型コロナウイルスが検出された外国企業の冷凍・冷蔵食品について、1回もしくは2回目の検出の場合は1週間、3回目以降の検出の場合は4週間、それぞれ停止させることとした。また、2019年から、一部の都市において輸入食品に対するトレーサビリティシステムの義務化の動きが強まり、現在はいくつかの地域で試行されている。このように外国産農畜産物に対する検査が今まで以上に厳格化され、今後も継続するものと推察される。