(1)生産動向
豪州では近年の干ばつの影響により、2019年には牛飼養頭数が2619万頭と対前年比で7%減少した。地域別に見ると、同国最大の肉牛生産地域であるQLD州では、全飼養頭数の46%に相当する1130万頭が飼養されているが、2019年は対前年比で6%減少している。また、NSW州は豪州の牛の16%に相当する400万頭が飼養されているが、干ばつの影響が最も深刻であり、前年比14%減とかなり大きく減少している。豪州全土でも牛群の数が大きく減少しており、2020年の牛飼養頭数は、干ばつ前のピークであった2013年よりも16%少ない2460万頭と、過去20年間で最も少なくなることが見込まれている。
現在のところ、主産地である同国の東海岸で降水不足の地域はほぼ存在しないものの、降水量不足が牛肉生産に与える影響は大きい。豪州気象局(BOM)によると、2020年12月〜2021年2月の夏季の3カ月予報では、TAS州を除く多くの州で平年以上の降雨量となる確率は60〜80%であるとしているため、引き続き気象状況を注視していく必要がある。
(2)牛群再構築の動き
近年の干ばつの頻発により、牛飼養頭数は減少傾向にあったが、干ばつの解消など飼養環境の改善に伴い牛群再構築の動きが見え始めている。豪州の牛群の縮小や再構築に関する指標として、豪州統計局(ABS)が公表している年間の総と畜頭数に占める雌牛の割合(以下「FSR
(注1)」という)を見ると、2020年9月時点では52.4%となっている(図5)。過去20年で最も高かった2019年12月時点の57.0%に比べると、徐々に低下し牛群再構築に向けた動きが継続しているものの、その分岐点と言われる47%には達していない。豪州農業資源経済科学局(ABARES)が2020年9月15日に発表した「Agricultural Commodities」によると、中期的に牛肉価格は堅調に推移すると予想されるものの、COVID-19の影響により世界の牛肉需要が見通せないことから、生産者は牛群再構築に踏み切れない状況にあり、飼養頭数が増加に転じるのは2020/21年度の前半になるとしている
(注2)。
(注1) 同値が47%を超えた場合には牛群が縮小に向かうとされ、47%以下の場合、牛群が再構築段階に入るとされている。
(注2) 『畜産の情報』2021年1月号「成牛と畜頭数が減少する中、11月の肉用牛価格は最高値を更新」(https://www.alic.go.jp/joho-c/joho05_001461.html)を参照されたい。
(3)価格動向
豪州国内の多くの地域において、干ばつによる牛と畜頭数の増加を背景に、肥育農家や加工業者からの需要が高まっており、肉牛価格は記録的な高値となっている。肉牛取引の指標となる東部地区若齢牛指標(EYCI)価格は、2020年11月17日に829.25豪セント(655円)と最高値を更新している
(注3)。また、2020年11月の去勢肥育もと牛の価格も記録的な高値となり、全国平均で生体重1キログラム当たり433豪セント(351円)に達しており、10月以降は強い需要を反映して同400豪セント(324円)以上の価格で推移している(図6)。
(注3) 『畜産の情報』2021年1月号「成牛と畜頭数が減少する中、11月の肉用牛価格は最高値を更新」(https://www.alic.go.jp/joho-c/joho05_001461.html)を参照されたい 。なお、それぞれ当時の最新の為替レートを採用しているため、レポートごとに日本円換算後の数値が一致しないことに留意されたい。
(4)流通
2019年の豪州の牛飼養頭数は、2479万頭となっており、このうち91%が肉用牛、残り9%が乳用牛である(図7)。同年の成牛と畜頭数は850万頭であり、年間出荷頭数の87%を占めている。残りの13%(130万頭)は生体牛輸出頭数であり、肥育もと牛65%、肥育牛21%、繁殖牛13%で構成されている。これら生体牛の港からの船積みの割合は、QLD州が32%、NT州が30%、WA州が20%などとなっており、2019年の輸出先を見ると、インドネシア向けが52%を占めて最も多く、ベトナム向けが21%とこれに続いている。
国内でと畜される肉用牛のうち、64%は牧草肥育、36%はフィードロットなどにおける穀物肥育となっている。QLD州でと畜される肉用牛が全体の47%を占め、国内最多となっている。NSW州とVIC州は、それぞれ2019年にと畜された牛の22%と20%を占めている。
2019年の牛肉生産量のうち、26%が国内消費に向けられ、残り74%が輸出向けとなっている。主な輸出先は中国や日本である。国内市場においては、豪州の食肉小売業は集約化が進んでおり、大手量販店2社が食肉小売業の大半を占めている。豪州では、平均して食肉の約8割が量販店向けとなり、残りの約2割が精肉店向けとなる。しかし、今般のCOVID-19の流行により、不特定多数との接触の機会が比較的多い大型量販店は、地元の小規模な精肉店に市場シェアの一部を奪われており、COVID-19の流行前に比べて精肉店の市場シェアが2%増加している。
(5)輸出動向
豪州の牛肉輸出量は、2019年が前年比9%増の約130万トンとなったものの、生産量減少により、2020年は同17.3%減の102万トンと減少が見込まれている。2019年の輸出量を輸出先別に見ると、アフリカ豚熱によって豚の飼養頭数が大幅に減少した中国からの強い需要により、中国が33万3224トン(前年比68%増)と日本を抜いて最大の輸出先となった。同年における牛肉輸出量の輸出先シェアは、中国が27%、日本が23%、米国が22%などとなっている
(注4)。しかし2020年は、トランプ政権と中国との間で1月に合意した第一段階の経済貿易協定により、中国における米国産牛肉の輸入が増加傾向にある
(注5)。
このため、同年1〜7月には、牛肉輸出量のうち25%が日本向けに輸出され、最大の輸出先となったほか、米国向けの輸出量割合が22%となり、日本に次ぐ第2位の輸出先となっている
(注6)。また、前年に続き豪州産牛肉の輸入数量が中豪FTAに基づく中国の特別セーフガードの発動基準を超えたことから、関税率が生鮮・冷蔵の枝肉および半丸枝肉は8%から20%に、冷凍の枝肉および半丸枝肉は10%から25%に、その他の骨付き肉および骨付きでない肉は4.8%から12%にそれぞれ引き上げられている
(注7)。さらに、両国間の政治的緊張の高まりにより、6カ所の輸出用食肉処理施設で中国への輸出が制限されている(2021年1月18日現在)。このため、最近は豪州産牛肉の供給の減少により、中国ではニュージーランドや南米、米国へと調達先が変更されつつある。
(注4) 直近の輸出先別牛肉輸出量および輸出割合の推移は、本誌104ページを参照されたい。
(注5) 『畜産の情報』2021年1月号「堅調な牛肉需要により牛肉価格は高値で推移し、輸入量も増加」(https://www.alic.go.jp/joho-c/joho05_001462.html)を参照されたい。
(注6) 『畜産の情報』2020年10月号「6月の成牛と畜頭数、牛群再構築に向けた動きが継続し前年同月比13.7%減」(https://www.alic.go.jp/joho-c/joho05_001338.html)を参照されたい。
(注7) 海外情報「豪州牛肉に特別セーフガード発動(中国)」(https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_002506.html)を参照されたい。
(6)消費動向
豪州で生産される牛肉の3割弱が国内向けであり、残りの7割強が輸出されている。過去20年間で、豪州の年間1人当たりの牛肉消費量は減少傾向で推移しており、2000年の38キログラムから2020年には推定で22キログラムに減少している。また小売価格を他の食肉と比較した場合には、牛肉の単価が高いことから、2019年の食肉総販売額に占める牛肉のシェアは約35%と、牛肉が食肉の中で最も高いシェアを占めている。