2020年の牛肉生産量は4年ぶりに前年を下回る見込み
米国農務省海外農業局(USDA/FAS)によると、2020年のブラジルの牛肉生産量は、2018〜19年に繁殖雌牛の
淘汰が増加した結果、2020年のと畜対象頭数が減少したため、前年比1.0%減の1010万トン(枝肉重量ベース)となり、4年ぶりに前年を下回ると見込まれる(図5)。
2020年輸出量は引き続き増加の見込み。中国向けの割合は急速に高まる
ブラジル経済省貿易局(SECEX)によると、2020年1〜11月の冷蔵・冷凍牛肉輸出量は、前年同期比11.3%増の158万1881トン(製品重量ベース)と前年同期をかなり大きく上回った(表3)。これは、米ドルに対するレアル安の進行などを背景とした海外からの旺盛な需要によるものである。年間(1〜12月)の牛肉輸出量は、2017年以降前年を10%以上上回って推移しているが、2020年もこの傾向が続くとみられる。
近年の牛肉輸出は、アジア地域の旺盛な需要によりけん引され、特に中国向けは2015年6月の輸出再開以降大幅に増加している。中国向けは、2018年に同国で発生したアフリカ豚熱に起因する代替需要により、2019年後半に輸出が急増した(図6)。2020年になると、同国における新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大により、港湾での物流の停滞や外食を中心とした需要の減少により輸出量が一時減少したが、3月には回復傾向に転じ、5月以降、1カ月当たり7万〜9万トン台と高水準で推移している。この結果、同年1〜11月の中国向けの輸出量は、77万9826トン(同88.3%増)と大幅に増加した。ブラジルの牛肉輸出先は150カ国以上に及ぶが、同年1〜11月の中国向け輸出割合は、49.3%(香港向けを含めると61.6%)と前年同期を20.1ポイント上回り急速に高まっている。
一方、中国、香港に次ぐ輸出先であるエジプト(前年同期比23.9%減)、チリ(同21.4%減)、ロシア(同16.2%減)は前年同期を大幅に下回っている。
また、2020年2月21日に生鮮牛肉(冷蔵・冷凍)の輸出が再開された米国向けは、同年1〜11月に1万8889トンが輸出された。米国向け生鮮牛肉については、米国農務省(USDA)が2017年6月、食品安全上の懸念があるとして、ブラジルからの輸入停止を決定していた
(注1)。
このほか、2019年8月に解禁されたインドネシア向けは、同年1〜11月に4031トン(同14.0%増)となっている
(注2)。
(注1) 海外情報「米国がブラジル産生鮮牛肉の輸入を再開(米国、ブラジル)」(https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_002636.html)を参照されたい。
(注2) 海外情報「ブラジルからのインドネシア向け牛肉輸出が解禁」(https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_002511.html)を参照されたい。
肉用牛価格は中国向け牛肉需要を背景に2019年末から大幅に上昇
と畜向けの肉用牛価格は、中国向け牛肉輸出量の急増により引き合いが急速に強まったことから2019年11月に入って一気に上昇し、11月29日には過去最高の1キログラム当たり15.42レアル(約313円:1レアル=20.3円)となった(図7)。2020年には、COVID-19の影響により一時価格が下落したものの、その後は継続的な輸出需要に加え、出荷頭数が減少傾向で推移したことなどからさらに上昇し、同年11月11日には19.47レアル(約395円)を記録し、この1年間で約6割上昇した。
COVID-19が牛肉生産、消費などに影響
ブラジルにおけるCOVID-19は、欧米や日本より遅く2020年2月末に確認された。その後、4月にサンパウロ市などを中心に感染が急速に拡大し、7月末をピークに減少傾向となっているものの、依然として感染者が発生し続けている。サンパウロやリオデジャネイロ州などでは4〜5月に外出制限措置が講じられたが、6月以降段階的に解除された。なお、製造業や物流、生活必需セクターについては、企業活動が継続された。
ブラジル農牧食糧供給省農牧防疫局動物製品検査部(DIPOA/SDA/MAPA)の報告によると、4〜7月に確認されたCOVID-19に関連する牛肉処理施設の操業停止件数は、延べ58件(4月:27件、5月:28件、6月:2件、7月:1件)となった。各地で食肉処理場従業員の感染が確認されたが、その大部分は、労働公安省(MPT - Ministério Público de Trabalho)が、食肉処理場従業員の安全対策が不十分であるとして地方裁判所に告訴し、裁判所の決定により操業停止したもので、各食肉処理場の停止期間は状況により異なるものの14日間程度の場合が多い。なお、操業停止期間中のと畜処理は、他の食肉処理場で行われたため、これまでは農場における牛の滞留や大幅な生産減という事態には至っていない。
一方、消費面では、COVID-19の拡大による景気後退や外出制限などに伴い、外食を中心に消費が減少した。政府は、COVID-19対策として消費者に対する支援策を行っているものの、一方で牛肉をはじめ食肉の小売価格も上昇しており、国内需要は比較的単価の低い鶏肉や豚肉に移行している。ブラジルでは、国内でも大きな牛肉の消費市場を有しているが、上述のような国内の消費動向を反映して牛肉生産量に占める輸出の割合が高まっており、輸出市場の拡大を志向した牛肉生産が進んでいるとみられる。
(調査情報部 井田 俊二)