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特集:新たな酪肉近に対応した取り組み〜持続可能な酪農・肉用牛生産の創造に向けて〜畜産の情報  2021年3月号

高級豚肉ブランドと国産飼料〜高源精麦株式会社の経営展開〜

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秋田県立大学 生物資源科学部 教授 鵜川 洋樹
秋田県立大学 生物資源科学部 アグリビジネス学科 佐藤 未奈

【要約】

 高源精麦株式会社は岩手県花巻市にある企業養豚経営である。企業養豚としての飼養頭数規模は大きくないが、高級豚肉ブランド「白金豚」を確立し、飲食店など業務用に直接販売するなど特徴的な経営を展開している。「白金豚」の商品力の基盤となっているのはLWB品種、Non-GMO飼料、自社の食肉処理であり、国産子実用トウモロコシ利用がブランド力を高めている。これらの生産要素をブランド化に結び付けることができたのは、社内に養豚生産から食肉処理、流通・販売の部門を持つ、インテグレーション型の養豚経営だからである。ブランド力の一つである、国産飼料を継続的に利用するためには、耕種経営と畜産経営の連携の強化が重要で、具体的には国産飼料の生産費用を償う取引価格が求められる。そこにはトウモロコシの飼料価値に加え、耕種経営における堆肥利用や地域における認知度向上のメリットも加味することができ、中でも堆肥を媒介とする資源循環はSDGsに適合し、新たなブランド力になると考えられる。

1 はじめに 〜企業理念と経営概況〜

 TPP11協定(環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定)や日米貿易協定などの発効により、輸入される畜産物の関税は削減されていく。牛肉の世界貿易機関(WTO)加盟国に対する最恵国税率は38.5%だが、協定締約国については2033年に9%まで低下する。また、豚肉のWTO加盟国に対する最恵国税率は、輸入価格が分岐点価格(1キログラム当たり524円)以下の場合にかかる従量税最大同482円、超える場合にかかる従価税4.3%だが、協定締約国については、2027年に分岐点価格(同)以下の場合は従量税最大同50円、超える場合にかかる従価税無税まで低下する(部分肉ベース)。牛肉は1991年の輸入自由化(=輸入数量枠の撤廃)以来、関税率が徐々に低下し、輸入量が大きく増加したが、この間、牛肉需要量の増加や肉用牛経営における乳用種から交雑種への転換など輸入牛肉との差別化に向けた対応により、国内生産量は大きく減少することなく、ほぼ維持されてきた。一方、豚肉は、一般に牛肉と比べて輸入品との品質格差が小さいことから、今後の豚肉生産では牛肉のようなすみ分けができるのかがポイントであり、その鍵の一つがブランドによる輸入豚肉との差別化であると考えられる。
 本稿で紹介する、高源精麦株式会社(以下「高源精麦」という)は岩手県花巻市にある企業養豚経営である(写真1、2)。高源精麦は1910年に穀類の加工販売業として創業し、1962年から配合飼料の販売、1964年から養豚業に取り組んでいる。2020年2月決算時点の繁殖豚飼養頭数は632頭、年間出荷頭数は1万114頭であり、企業養豚としての頭数規模は大きいとは言えないが、「白金豚」という高級豚肉ブランドを確立し、飲食店やホテルの業務用に直接販売するなど特徴的な経営を展開している。「白金豚」は2017年の「日経MJ」ブランド豚肉ランキング(回答者は百貨店・スーパーなど精肉仕入れ担当のバイヤー)で第8位を獲得している。
 
 


 
 高源精麦の経営理念は「まごころの畜産」で、真心と高品質で地域の食に貢献することを目指している。そのため、次の五つに取り組んでいる。(1)LWB品種(注1)(交配)の豚肉生産(写真3)(2)非遺伝子組み換え(以下「Non-GMO」という)原料の配合飼料や国産子実用トウモロコシの給与(3)花巻のミネラル水や環境で育てる(4)毎日商品チェックをしてから主な販売先であるレストランや飲食店へ出荷(5)宮沢賢治の「フランドン農学校の豚」から着想した「白金豚」ブランドの展開。
 本稿では、こうした高源精麦の取り組み事例について、高級豚肉ブランドの展開と国産飼料の利用に焦点を当てて紹介する。

(注1) バークシャー種の父とランドレース種×大ヨークシャー種の母を掛け合わせた品種。

2 組織構成

 高源精麦の会社組織は四つの部門(養豚部、食肉販売部、直営店、本社事務所)から構成され、豚の飼養管理を行う養豚部のほかに食肉処理を行う食肉販売部を社内に持っていることが大きな特徴である(図1)。その他に、直営レストラン(ポパイ)を花巻市内で運営している。従業員は合計40名であり、その内訳は養豚部に正社員8名とパートタイマー6名、食肉販売部に正社員9名とパートタイマー3名、直営店に正社員3名とパートタイマー7名、本社事務所に正社員4名となっている。
 
 
 養豚部には三つの農場があり、第1農場は繁殖と肥育、第2農場は離乳と肥育を2サイト方式で管理している(表1)。第1農場の飼養頭数は繁殖豚552頭、肥育豚1000頭、第2農場は離乳子豚1300頭、肥育豚3000頭である。第3農場は、フリーストール畜舎で、繁殖肥育一貫生産を実施している。飼養頭数は繁殖豚80頭、肥育豚700頭である。
 食肉販売部は、と畜された肥育豚を食肉処理して精肉まで加工し、これを飲食店などに直接販売している。食肉処理量は年間約7800頭であり、高源精麦の全体の出荷頭数の77%を占めている。そして、この自社内で食肉処理された精肉が「白金豚」ブランドの要件となっている。また、直営レストランは豚肉(白金豚)専門店であり、年間消費量は約500頭分と少なくない。
 

3 給与飼料と調達

 高源精麦の取り組みの中で特徴的なことは、国産飼料の積極的な利用であり、それは「新星プロジェクト」と名付けられている。わが国の家畜の配合飼料は、その原料のほとんどを輸入に依存してきたが、このプロジェクトでは、(1)国産飼料の給与による輸入トウモロコシなどの使用量の低減(2)地元農家との有機的連携(水田のフル活用、飼料原料の購入、堆肥の還元による地域内循環で活性化を促進)―を目的にしている。これは地域内の連携からもたらされる新しい形の養豚飼料の供給のあり方を構築しようとする試みである。
 高源精麦が国産飼料の利用を考えた契機は二つある。一つは、白金豚ブランドは1997年にスタートしたが、わが国には多数の国産豚肉ブランドがあり、それらの多くがブランドを名乗りながらも汎用(はんよう)品化している中で、既存のブランドとの差別化を図る必要性を感じたことであった。もう一つは、東日本大震災の後で豚肉相場が低迷し、その対策として2013年に豚肉の輸出に取り組んだときに、現地(香港)の方に「世界のどこの豚肉だって安全・安心で高品質が当たり前。(中略)日本の豚肉がたくさん売れるとは思えません。種豚も飼料も輸入に頼っていて、他国の製品との違いが分かりません」[高橋(2017)]と言われ、国産要素を取り入れた商品力の訴求が求められたことであった。この二つの課題への回答が国産飼料利用であり、花巻市内に子実用トウモロコシ生産に取り組む耕種経営があったことがそれを可能にした[鵜川(2020)]。
 具体的な国産飼料利用はスマートフィーディング実証事業として取り組まれた。2013年から子実用トウモロコシの利用を開始し、翌年にはSGS(もみ米サイレージ)も加わり、以降、継続的に利用している(表2、写真4)。当初、子実用トウモロコシは乾燥調製されたものを利用していたが、カビの発生が問題になり、2015年からサイレージ調製に転換している。また、SGS利用については、国産飼料としての位置付けに加え、SGSを生産する地元の集落営農組織との共存共栄のビジネスを目指すものである。その結果、地元の市役所からの支援が得られ、畜産クラスター事業(第3農場の畜舎建設)の採択や白金豚がふるさと納税の返礼品に採用されることにつながっている。
 


 
 2019年の給与飼料の種類と調達量は表3の通りである。配合飼料はNon-GMOで、年間3500トンの利用である。Non-GMOとしたのは、販売先からの要望であり、白金豚ブランドを立ち上げる以前から利用している。購入価格は1キログラム当たり34.0〜46.0円で、遺伝子組み換え品種(GMO)に比べ同約4円高になっている。子実用トウモロコシ(サイレージ)の調達先は花巻子実コーン組合で、利用量は91トン、購入価格は同56.0円である。また、SGSの調達先は地元の集落営農法人で、利用量は15トン、購入価格は同12.6円である。
 
 
 子実用トウモロコシやSGSは、収穫・調製後にすべて高源精麦の農場に搬入・保管され、飼料タンクの中で配合飼料に混ぜて給与している。今後は子実用トウモロコシやSGS用のバラ積み車を購入し、そこから畜舎へ搬入する方式を検討している。給与対象は離乳後の子豚から肥育豚まで、給与量は飼料全体の15%以内としている。この上限値は飼料設計の変更が不要な範囲である。また、子実用トウモロコシやSGSは豚の嗜好性が良く、特段の問題はないとされている。なお、給与時期は秋から春先までで、二次発酵防止のため夏季は給与していない。
 高源精麦における子実用トウモロコシの評価は、配合飼料に比べ購入価格が高いことから経済合理性には課題があるとしている。購入価格については、配合飼料の1キログラム当たり40円程度に比べ高いと感じているが、価格設定の考え方はトウモロコシの生産費用を補償する水準を基本としている。つまり、生産費が1キログラム当たり50円、サイレージ調製費が同6円と試算し、現状では仕方がないと考えている。また、この経済性の中には、資金繰りの問題も含まれている。通常、配合飼料であれば、毎月の利用量に対しての毎月の決済であるが、子実用トウモロコシは収穫時に1年分の決済をしなければならず、そのための資金を準備する必要がある。また、保管場所にも苦慮しており、倉庫を建てる余裕がないため、屋外保管のためカラスやクマによる食害で二次発酵のリスクが懸念されている。
 一方、子実用トウモロコシの利用価値は高いと考えており、そのメリットとして、(1)ブランド価値の底上げ(2)地域や観光への効果(3)堆肥還元―を挙げている。(1)と(2)についてはすでに述べた通りである。(3)に関して、高源精麦におけるふん尿処理では、固形分は堆肥化して販売、液分は浄化して放流している。その中で堆肥の販売先の減少が課題になっていたが、子実用トウモロコシの生産者に堆肥を販売できるようになり、課題の解消につながっている。その堆肥販売量は全体の77%(ダンプトラック650台分のうち500台分)と多く、堆肥とトウモロコシを介した資源循環が構築されている。なお、トウモロコシ生産者への堆肥販売価格は他の販売先に比べ4分の1程度(ダンプトラック1台分で500円)と格安に設定され、耕種経営にもメリットがある。
 高源精麦にとっては子実用トウモロコシの購入費用を抑えることが課題であり、そのためには生産コストの低下が必要になってくる。その実現のため、畜産クラスター事業に参加しており、2023年には利用量を150トンまで増加させることを目標としている。また、SGSについては、積極的な増産は計画していないが、主食用米の減少に伴い、20トン程度まで増える見込みである。

4 飼養管理

 わが国の養豚生産では、繁殖性と増体性の高いLWD品種(注2)(交配)の利用が最も一般的であるが、高源精麦ではLWB品種を利用している。LWBは繁殖性や増体性はLWDに比べやや劣るが、食味が良いことが特長であり、これが白金豚のブランド価値を高めている。高源精麦における肥育豚の出荷日齢は200日、出荷体重は100〜120キログラム、枝肉重量は70キログラムとなっている(表4)。それぞれ全国平均の184日、114キログラム、75キログラムと比べると、増体性が劣ることは否めず、LWBの品種特性が現れている。また、繁殖成績を見ると、全国平均に比べ、1分娩当たり平均離乳頭数がやや少なく、ここにもLWBの品種特性が現れているが、それ以外はほぼ平均的な水準になっている。なお、子豚舎の事故率が全国平均と比べて高いのは、新築した第3農場のフリーストール畜舎で子豚の圧死が増加したことによるもので、現在では圧死は減少している。また、2019年は台風で畜舎の屋根が飛ぶなどの被害があり、成績の低下につながった。このように、高源精麦の飼養管理では繁殖率の改善と事故率の低減が課題であり、そのために養豚経営支援システム「Porker」やコミュニケーションツール「Talknote」を活用し、生産性の向上に取り組んでいる。また、安全性に関しては、農場HACCPおよびJGAPの認証取得に向けた協議が進行中である。

(注2) デュロック種の父とランドレース種×大ヨークシャー種の母を掛け合わせた品種。
 

5 ブランド

 高源精麦の白金豚は商標登録されたブランドであり、ブランドを名乗るための要件は(1)LWB品種であること(2)Non-GMO飼料を給与していること(3)社内の食肉販売部で精肉加工され販売されたもの―となっている。白金豚の特長は、(1)きめ細やかな肉質と優しい歯応え(2)脂に甘みがあり、すっきりとした味とうま味(3)新鮮さ―である。この中の(1)はLWB品種の特性、(2)のすっきりとした味はSGS、うま味は子実用トウモロコシ給与の効果、(3)は社内で食肉処理を実施していることから実現している。
 既述のように、白金豚の出荷頭数は約7800頭で、主な販路である業務用の他、直営レストランへの出荷と一般向けの通信販売がある(表5)。業務用の販売先は首都圏のホテルや飲食店が多いが、地元で認められ、食べられるものが全国や海外で支持されるとの考えから、50%は県内で販売すると決めている。販売価格は年間固定価格の定価販売が基本で、相場の6割高(枝肉1キログラム当たり800円程度)と高価格販売を実現している。海外(香港)には、福岡まで陸送し、福岡から空輸(コンテナ)で輸出しており、販売先は現地の卸売会社である。輸出量は1回当たり500〜800キログラム(部分肉ベース)で年間10回程度となっている。なお、2020年は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響でホテルや飲食店における需要が減少し、高源精麦も影響を受けたが、一方で通信販売の売り上げが急増した。このような需要構造の転換が継続すると見込み、今後は、企業間取引(B to B) から企業−消費者間の取引(B to C) へシフトし、通信販売に注力することとしている。
 
 
 高源精麦で生産される肥育豚のうち白金豚以外の豚が約3000頭あり、そのうち格付けされた2000頭は大手食肉加工メーカーなどの卸売会社に固定価格で販売している。残りの1000頭は格付けが等外になった豚で、これらは市場に出荷している。LWB品種は厚脂になりやすく、等外になる割合が高いとされている。
 堀田(2006)を基に、高源精麦におけるブランド化の効果を整理すると、表6の通りとなった。「品質標準化」(品質を一定レベル以上にすること)については、(1)養豚部(現場生産担当者)におけるモチベーション上昇(2)食肉販売部における品質管理の厳格化(3)消費者の価値観を知ること―につながっている。「法的保護」(ブランドの信頼の保護)については、商標登録済みとなっている。「品質明示」(品質の良さが消費者へ伝わる)については、自社ホームページへの問い合わせが週1回以上あり、生産部門にフィードバックしている。「付加価値」(普通豚肉との価格差)については、既述のように、直接販売の割合が77%と高く、相場の6割高の価格を実現しており、また、ふるさと納税の返礼品に採用されるなど地元からの支援につながっている。今後は直接販売100%を目標にしている。
 

6 経営課題と展開方向

 高源精麦における豚肉の生産と流通の経路を模式化すると図2のように整理することができる。生産要素として、LWB豚とNon-GMO飼料(配合飼料および国産飼料(子実用トウモロコシとSGS))を調達して肥育豚を生産し、社内の食肉販売部で食肉処理し、ブランド豚肉「白金豚」として、飲食店やホテルなどに直接販売し、直営レストランの運営や通信販売にも取り組んでいる。この中で、三つの生産要素が白金豚ブランドの商品力の源泉になっている。それを可能にしているのは、この経路における主要な組織が内部組織であるからと考えられる。つまり、社内に農場と食肉販売部、直営レストランがあることは、一種のインテグレーションであり、6次産業化と呼ぶこともできるが、生産要素を直接的にブランド化につなげることができるからである。また、既述のように、ユーザー(最終需要者)の評価を生産部門にフィードバックすることも容易であり、ブランド管理にも適している。
 
 
 一方、経営課題として次のことが挙げられる。生産段階では、LWB豚の繁殖性や事故率、肥育成績の改善がある。また、国産飼料である子実用トウモロコシの購入価格の低減も課題とし、利用量の拡大が計画されている。流通段階では、生産量と需要量の変動にズレがあることである。飲食店やホテルにおける豚肉需要量には季節性があるのに対し、生産量は年間ほぼ一定であることから、需給調整が必要になり、営業努力や倉庫保管で回している。これは生産から流通・販売まで行うインテグレーション型経営の構造的な課題と言える。また、近年の人手不足による運送費上昇により西日本での販売がコスト増になること、2020年はCOVID-19の影響で対面での商談ができず現場の雰囲気が分かりづらいことが課題とされている。

7 まとめ 〜豚肉ブランドと国産飼料〜

 わが国には多くの豚肉ブランドがあるが、ブランドを名乗る基準となっているのは、「飼料」(81.4%)が最も多く、次いで「生産者」(69.5%)、「産地」(61.0%)となっている(日本政策金融公庫(2009)「牛肉・豚肉のブランド化への取り組みとその評価」)。なお、牛肉では「品種」(84.7%)が最も多く、「産地」(76.6%)、「格付け」(53.2%)の順であった。また、『銘柄豚肉ハンドブック2020』(食肉通信社編)によれば、わが国には420の豚肉ブランドがあり、そのうち「給与飼料」や「特長」として飼料用米を挙げているブランドが69と多い。地域別では、稲作主産地とされる東北や関東地域で多く、この2地域で38あり、半数以上を占めている。中でも山形県では豚肉ブランド14のうち6ブランドが飼料用米を特長としている。このように、わが国では豚肉ブランドの成立にとって、飼料用米は不可欠な存在になっている。
 高源精麦の白金豚ブランドは、「飼料」としてNon-GMO配合飼料や国産子実用トウモロコシ、SGSを利用するとともに、「品種」や「産地」によって商品力を高めている点は、牛肉ブランドに共通する戦略であり、これらが高級ブランドの基盤になっている。畜産経営が国産飼料を継続的に利用するためには、耕種経営に取引価格の低減を一方的に要求するのではなく、耕畜連携を基盤とした、両者の経営発展につながるような実践が必要である。耕種経営にとって、子実用トウモロコシは省力的な土地利用型作物として位置付けられるものであるが、その安定的な生産のためには、生産費用を償う取引価格が不可欠であり、さらに行政的な支援があることが望ましい。高源精麦が利用する子実用トウモロコシの取引価格が生産費用に基づいて算定されている点で、耕畜連携を促進する取り組みと言える。この取引価格の算定に、耕種経営における堆肥利用のメリットや地元からの支援を明示的に組み込むことができれば、国産飼料の生産と利用は一層拡大すると考えられる。また、堆肥と子実用トウモロコシを媒介とする資源循環はSDGs(持続可能な開発目標)に適合することから、新たなブランド力の一つとして前面に出すことも期待される。
 今後は各種貿易協定に基づき豚肉の輸入関税は徐々に低減することから、輸入豚肉価格も徐々に低下し、輸入量は一定程度増加するものと考えられる。近年の豚肉価格は、豚熱など疾病の影響で供給量が減少し、高値相場が続いているが、今後の輸入豚肉の増加を想定すれば、価格相場の低下は必至と考えられる。こうした中で、わが国の養豚経営の展開方向には、大きく分けて、低コスト化と高付加価値化の二つがあり、それぞれの経営条件に応じた選択が行われている。高源精麦の経営展開は規模拡大ではなく、LWB豚の生産効率と付加価値の向上が目標とされ、輸出の拡大も計画されている。輸入農産物に対するコスト競争ではなく、国産資源(飼料)利用に基づく高付加価値化という経営展開は、日本農業の生き残りにとって有力な選択肢と考えられる。

参考文献
・堀田和彦(2006):「日本における畜産物ブランド戦略の実態と今後の推進方向」『畜産の研究』,60(9〜10).

・高橋誠(2017):「海外輸出の可能性(第6回)白金豚のグローバル市場への挑戦」『養豚の友』(2017年1月号),44〜48.

・鵜川洋樹(2020):「子実用トウモロコシ生産の可能性と展開条件−都府県の耕種経営における大規模生産事例−」『畜産の情報』(2020年11月号),60〜74.

・幸田和也・宮路広武(2020):「国産子実用トウモロコシの積極利用と耕畜連携の取組」日本草地畜産種子協会『国産濃厚飼料の生産・利用に関する事例集』,135〜138.