高源精麦の取り組みの中で特徴的なことは、国産飼料の積極的な利用であり、それは「新星プロジェクト」と名付けられている。わが国の家畜の配合飼料は、その原料のほとんどを輸入に依存してきたが、このプロジェクトでは、(1)国産飼料の給与による輸入トウモロコシなどの使用量の低減(2)地元農家との有機的連携(水田のフル活用、飼料原料の購入、堆肥の還元による地域内循環で活性化を促進)―を目的にしている。これは地域内の連携からもたらされる新しい形の養豚飼料の供給のあり方を構築しようとする試みである。
高源精麦が国産飼料の利用を考えた契機は二つある。一つは、白金豚ブランドは1997年にスタートしたが、わが国には多数の国産豚肉ブランドがあり、それらの多くがブランドを名乗りながらも汎用(はんよう)品化している中で、既存のブランドとの差別化を図る必要性を感じたことであった。もう一つは、東日本大震災の後で豚肉相場が低迷し、その対策として2013年に豚肉の輸出に取り組んだときに、現地(香港)の方に「世界のどこの豚肉だって安全・安心で高品質が当たり前。(中略)日本の豚肉がたくさん売れるとは思えません。種豚も飼料も輸入に頼っていて、他国の製品との違いが分かりません」[高橋(2017)]と言われ、国産要素を取り入れた商品力の訴求が求められたことであった。この二つの課題への回答が国産飼料利用であり、花巻市内に子実用トウモロコシ生産に取り組む耕種経営があったことがそれを可能にした[鵜川(2020)]。
具体的な国産飼料利用はスマートフィーディング実証事業として取り組まれた。2013年から子実用トウモロコシの利用を開始し、翌年にはSGS(もみ米サイレージ)も加わり、以降、継続的に利用している(表2、写真4)。当初、子実用トウモロコシは乾燥調製されたものを利用していたが、カビの発生が問題になり、2015年からサイレージ調製に転換している。また、SGS利用については、国産飼料としての位置付けに加え、SGSを生産する地元の集落営農組織との共存共栄のビジネスを目指すものである。その結果、地元の市役所からの支援が得られ、畜産クラスター事業(第3農場の畜舎建設)の採択や白金豚がふるさと納税の返礼品に採用されることにつながっている。
2019年の給与飼料の種類と調達量は表3の通りである。配合飼料はNon-GMOで、年間3500トンの利用である。Non-GMOとしたのは、販売先からの要望であり、白金豚ブランドを立ち上げる以前から利用している。購入価格は1キログラム当たり34.0〜46.0円で、遺伝子組み換え品種(GMO)に比べ同約4円高になっている。子実用トウモロコシ(サイレージ)の調達先は花巻子実コーン組合で、利用量は91トン、購入価格は同56.0円である。また、SGSの調達先は地元の集落営農法人で、利用量は15トン、購入価格は同12.6円である。
子実用トウモロコシやSGSは、収穫・調製後にすべて高源精麦の農場に搬入・保管され、飼料タンクの中で配合飼料に混ぜて給与している。今後は子実用トウモロコシやSGS用のバラ積み車を購入し、そこから畜舎へ搬入する方式を検討している。給与対象は離乳後の子豚から肥育豚まで、給与量は飼料全体の15%以内としている。この上限値は飼料設計の変更が不要な範囲である。また、子実用トウモロコシやSGSは豚の嗜好性が良く、特段の問題はないとされている。なお、給与時期は秋から春先までで、二次発酵防止のため夏季は給与していない。
高源精麦における子実用トウモロコシの評価は、配合飼料に比べ購入価格が高いことから経済合理性には課題があるとしている。購入価格については、配合飼料の1キログラム当たり40円程度に比べ高いと感じているが、価格設定の考え方はトウモロコシの生産費用を補償する水準を基本としている。つまり、生産費が1キログラム当たり50円、サイレージ調製費が同6円と試算し、現状では仕方がないと考えている。また、この経済性の中には、資金繰りの問題も含まれている。通常、配合飼料であれば、毎月の利用量に対しての毎月の決済であるが、子実用トウモロコシは収穫時に1年分の決済をしなければならず、そのための資金を準備する必要がある。また、保管場所にも苦慮しており、倉庫を建てる余裕がないため、屋外保管のためカラスやクマによる食害で二次発酵のリスクが懸念されている。
一方、子実用トウモロコシの利用価値は高いと考えており、そのメリットとして、(1)ブランド価値の底上げ(2)地域や観光への効果(3)堆肥還元―を挙げている。(1)と(2)についてはすでに述べた通りである。(3)に関して、高源精麦におけるふん尿処理では、固形分は堆肥化して販売、液分は浄化して放流している。その中で堆肥の販売先の減少が課題になっていたが、子実用トウモロコシの生産者に堆肥を販売できるようになり、課題の解消につながっている。その堆肥販売量は全体の77%(ダンプトラック650台分のうち500台分)と多く、堆肥とトウモロコシを介した資源循環が構築されている。なお、トウモロコシ生産者への堆肥販売価格は他の販売先に比べ4分の1程度(ダンプトラック1台分で500円)と格安に設定され、耕種経営にもメリットがある。
高源精麦にとっては子実用トウモロコシの購入費用を抑えることが課題であり、そのためには生産コストの低下が必要になってくる。その実現のため、畜産クラスター事業に参加しており、2023年には利用量を150トンまで増加させることを目標としている。また、SGSについては、積極的な増産は計画していないが、主食用米の減少に伴い、20トン程度まで増える見込みである。