ホーム > 畜産 > 畜産の情報 > 「次世代」に向かうEU農畜産業の2 0 3 0 年展望〜EU農業アウトルック会議から〜(前編)
<農村部を魅力的で活気ある場に>
ボイチェホフスキ委員は、「若手生産者への適切な世代交代の確保が、EU農業の将来と食料安全保障に重要」とし、「多くの農地が後継者不足や高齢生産者により十分に活用されていないことは大きな課題」との認識を示した。一方、CAPによる若手生産者への支援は継続した上で、「農村部をより魅力的で活気のある生活の場にする必要がある」とし、積極的な財政支援が必要とした。また、多くの農村部で未着手のITインフラ整備について、作業効率向上に資するものとして直ちに対応したいとした。
<サプライチェーン短絡化の重要性>
同委員は、危機対応力の向上策として、Farm to Fork(農場から食卓まで)戦略による「サプライチェーン短絡化の奨励」を挙げた。また、同戦略に基づき、地域振興に資する「地理的表示(GI)制度、検討中のアニマルウェルフェア表示などの普及の推進」を図る一方、畜産部門の「飼料輸入や外部市場への過度な依存」を今後対応すべき課題の一つとして挙げた。
<若手生産者へのメッセージ>
次世代のEU農業について、自身もベルギーで酪農経営を行う若手生産者である欧州青年農業生産者協議会(CEJA)のヤネス・マース(Jannes Maes)会長が講演した(写真5)。
同会長はまず、画一的な生産者支援に対し懸念を示し、若手生産者約200万人を代表する組織での活動の中で「生産者の多様性を認識している」とし、多様な生産者に対応した支援の必要性を訴えた。また、若手生産者に必要なのは、「自分の農場の中で、状況変化に対応する適応力を持つことである」とし、具体的に、新たな社会的要請などに対応するために「技術力と財政的なリスク対応力」が必要だとした。そして、「適応力がわれわれの新たな未来を築くことができる!」と多くの若手生産者に力強くメッセージを発信した。
<「持続可能性」と「世代交代」〜直接インタビュー〜>
講演後、若手生産者の課題について、マース会長にリモートで話を伺った。
同会長はまず、「政策提案は、トレードオフの可能性を理解し、全体的なアプローチであるかの確認が必要」だとした。また、「日本も同様と記憶しているが、われわれは世代交代に大きな課題を抱えている」とした上で、「若手の新規参入や規模拡大の最大障壁は農地取得である」とした。そして、「減農薬、減肥料、有機推進、非生産地域確保などの圧力が強まれば、農地取得競争にはさらに圧力がかかり、最も財政力の弱いわれわれ若手生産者の農地取得がさらに困難となり、この結果として、政策は集約農業をより後押しすることになる」と指摘した。また、「つまり、若手生産者の農地取得という課題の答えを見つけられない政策は成功しない」とし、「環境機能と生産を両立する生産者への適切な支援が重要ではないだろうか」とした。
欧州委員会は、「われわれは、次の危機に対し、何を備える必要があるか」というアンケートを行った。回答数の多いものがモニターの中心部に大きく表示されるシステムであったが、結果として表示されたのは「より短いサプライチェーン(shorter chains)」と「適応性(Flexibility)」であった(写真6)。欧州委員会は、COVID-19がオンラインも含む産直や地産地消などのサプライチェーンの短絡化という従前からあったトレンドを加速させたとした(参考4)。この要因として、食料不足への懸念や健康、環境配慮が一般的に言われているが、関係者によれば、外出規制などの中、生産者の顔が見えることで、地元経済や社会とのつながりを強く求める消費者に再評価されたこともその一つに挙げられている。生産者らはこの変化に適応し、次の危機に備えてサプライチェーンの短絡化を図るであろう。
(参考4) 『畜産の情報』2021年2月号「新型コロナウイルス感染症がEU畜産業界に与えた影響について〜グリーンリカバリーと見直される農業のあり方〜」 4 変わる消費者行動:強まる地産地消の動きと見直される農業(https://www.alic.go.jp/joho-c/joho05_001494.html#title7)
(大内田 一弘(JETROブリュッセル))