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話題 畜産の情報 2021年4月号

京都市中央食肉市場の和牛輸出の取り組み

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京都食肉市場株式会社 代表取締役 駒井 栄太郎

1 はじめに

 京都市中央食肉市場は、1909年に開設された「京都市立と畜場」を前身とし、1969年、現在地にと畜場を併設した食肉専門の中央卸売市場として開設され、京都の豊かな食肉文化を100年以上の長きにわたり支えてきています。
 2015年、当市場は開設から50年近くが経過し施設が老朽化していたことから、施設の再整備に着手しました。市場の将来的な取引の活性化を図るため、和牛の輸出に取り組むことが整備の基本方針に盛り込まれ、2年半の工事期間を経て、2018年4月に新たに稼働しました。
 

2 和牛輸出戦略に基づいた輸出の取り組み

 再稼働に先立ち、京都府をはじめ全国から集荷する日本産の和牛を世界に発信するために、同年3月、京都市が中心となって市場関係者とともに「京都市中央食肉市場和牛輸出戦略」を策定しました。
 この輸出戦略は、新施設稼働後初年度(2018年度)のタイ、マカオの輸出施設認定の取得に始まり、2年目にはシンガポール、3年目には米国、EU、香港へと認定を受けた輸出先国を広げていき、輸出の取扱量を着実に増やしていく計画であり、2022年までの5年間の輸出施設認定取得のスケジュールや目標数量などを定めています。
 2018年4月の新施設稼働後は、輸出戦略に基づいてタイ、マカオ向けの輸出施設認定を同年11月に取得しました。当市場からの輸出第一号としてタイ向けに「Kyoto Beef 雅」(京都府内産和牛の輸出ブランド)を出荷した際には、これを記念して出発式を開催しました。この式典では京都市長をはじめ、京都市会議長や京都府知事から輸出への取り組みに対する激励をいただきました。また、マスコミ各社にも取り上げられ、華々しく輸出をスタートすることができました。
 




 
 本格的に輸出に取り組むことになった2019年は、当市場が内臓肉の処理施設としての認定も受けていることから、タイ向けにブロック肉とともに内臓肉も輸出することで、輸出実績を伸ばすことができました。
 輸出戦略では、2019年にシンガポール向けの輸出施設認定を取得し、アジア圏の輸出実績を伸ばすことを想定していましたが、国からの助言もあり、シンガポールに加え米国・EU向けの輸出施設認定を1年前倒しで取得することになりました。
 米国・EU向けの輸出認定を取得するに当たって懸念したのは、と畜方法の変更です。従来は牛を寝かせた状態で放血していましたが、牛をつり下げた状態で放血しなければなりません。また、HACCP導入による作業工程の見直しや新たな検査項目の追加など、体制強化や経費の負担増につながる見直しもありました。放血方法の変更に当たり、安全性と作業精度を確保するために必要となる設備改修(放血場所への新たな設備導入)について、当市場と京都市とで連携を図りながら検討しました。その中で大きな課題と考えられたのは、輸出認定を取得している先行施設では、つり下げた状態での放血に変更した場合、シミ(多発性筋出血)の発生が増加するということでした。シミが発生すると枝肉の商品価値を大きく損なうため、出荷者に対して一定の補償が求められます。このため、京都市と協議の上、同年11月に補正予算を成立させ、施設の改修が行われました。当初は安全で効率的なと畜作業が継続できるのか不安がありましたが、作業担当者も徐々に新たな作業工程に慣れ、シミの発生率も全国平均とされている割合よりもかなり低く抑えられています。
 そして社員一丸となった取り組みや京都市の支援により、2020年1月に米国、3月にシンガポール、4月にEU向けの輸出認定を取得することができました。全国の食肉の中央卸売市場では初めての取得となり、大変喜ばしく思っております。

3 新型コロナウイルス感染症の影響と輸出先国の拡大

 ところが、これから輸出促進に取り組んでいこうという矢先に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的な感染拡大の影響を受け、輸出の商談が止まってしまいました。国内の卸売販売も低迷する中、場内の感染防止対策も講じなければならず、6月までは先行きの見えない状態が続いていました。
 そのような中、幸いにもシンガポールに販売拠点を持つ取引先がいたことから同国向けの輸出を継続することができました。これにより、現在では当市場の主要な輸出先国となっています。7月ごろからは徐々に輸出の商談が再開し、8月にはEU向けとして初めてフィンランドに輸出することができました。9月には日本初となるキプロスへの直行便での輸出に成功し、続いてドイツ、イタリアにも輸出し、きめ細かいオーダーに応じることができた上、EU向けも着実に実績を積むことができています。また、米国向けについても11月に初めて輸出し、2021年1月からは毎月定期的な輸出を行っています。
 2020年度の輸出量は、COVID-19の拡大の影響を心配していましたが、7月末時点ですでに前年度の実績を上回り、現在も順調に引き合いをいただいています。
 取引先からは、香港・台湾への輸出を望む声をいただいており、香港の輸出認定は本年2月に取得できましたので、残る台湾が取得できた暁には主要輸出先国の認定が出そろい、より一層輸出しやすい環境が整うものと考えています。今では輸出を契機とした新規取引の依頼もあり、和牛輸出に対する食肉業界での注目度の高さと期待の大きさ、そして輸出事業が有している可能性に改めて驚かされているところです。
 結びに、当市場では、と畜作業の効率化やシミの発生率の低減、輸出用加工の業務体制の拡充など、課題が山積していますが、国内への食肉の安定供給とともにマーケットとして無限の可能性を有する輸出事業を新たな収益の柱に位置付け、京都のブランド力を活かしながら、関西圏における和牛の輸出拠点としての役割を果たすために適切に取り組んでまいりたいと考えております。

(プロフィール)
昭和54年3月 佛教大学社会学部社会学科卒業
昭和54年4月 株式会社京都中央畜産(現 京都食肉市場株式会社)入社
平成23年7月 営業・業務部長(執行役員)就任
平成24年6月 取締役就任
平成28年6月 代表取締役就任