(1)方法
供試牛として、宮崎県畜産試験場で飼養されている黒毛和種雌牛9頭を用い、排卵同期化処置を行った。排卵同期化処置はCIDR-synch法で行った(図4)。まず、供試牛の黄体期に腟内留置型黄体ホルモン製剤(イージーブリードもしくはプリッドデルタ)を留置した(0日目)。イージーブリードを挿入した個体についてはエストラジオール製剤(オバホルモン2ml)を同日に投与した。そして、7日目に腟内留置型黄体ホルモン製剤を抜去し、同時にプロスタグランジン(以下「PG」という)(エストラメイト3ml)、9日目にGnRH(イトレリン3ml)を投与し、発情を誘起した。授精適期はCIDR-synch法のプロトコールに従い、GnRH投与から16〜20時間後と設定した。
PG投与を0時とし、80時まで4時間間隔でVER値測定および採血を行った。供試牛は、パドック付のフリーバーンで飼養し、VER値測定および採血の都度スタンチョンにけい留した。VER値の測定は前章と同様の方法で3回計測した平均をVER値とした。また、供試牛にはアクティビティメータを装着し、歩数データも採取した。
(2)結果と考察
すべての供試牛についてPG投与から64〜68時間目に直腸検査を実施し、発情確認を行った。その結果、1頭を除く個体で主席卵胞の発育が認められ、子宮収縮や発情粘液の流出が認められた。しかし、スタンディング発情が認められた個体は1頭であり、鈍性発情が多い結果となった。試験牛の平均年齢が9歳と高齢であり、その結果、鈍性発情が発生した可能性がある。
試験牛のVER値の推移を図5に示した。VER値はPG投与から有意に低下し、28時間目には最低値を示した。その後44時間目に有意差がなくなった後、再度有意に低下した。なお、最低値を記録した際、PG投与時からの低下率は0.74であった(253.3→188.5)。
VER値と歩数の推移を図6に示した。歩数は中心化移動平均(/24h)にて算出した値である。今回の試験では9頭中1頭しかスタンディングを示さない鈍性発情であったものの、行動量(歩数)は増加しており、歩数計により発情兆候は検知可能であった。歩数はPG投与から44時間目以降から徐々に増加し、68時間経過後に徐々に減少した。VER値は前述の通り、28時間目に最低値となり、44時間目に一過性の上昇を示した。つまり、VER値は外部発情兆候が表れる前から変化し始めるため、VER値をモニタリングすることで内部発情兆候を検知でき、人工授精適期を推定できる可能性が示唆された。
血中プロジェステロン濃度(P4)の推移を図7、血中黄体形成ホルモン濃度(LH)の推移を図8に示した。P4濃度はPG投与から有意に低下し、試験期間中、低い値で推移した。これにより、腟内留置型プロジェステロン製剤により、人為的に黄体期を作出できていたことが認められた。また、LH濃度は44時間目に上昇したものの有意な差はなく、今回の試験では明白なLHサージを引き起こせず、結果として鈍性発情になったのではないかと考えられた。
VER値とP4の推移を図9に示した。VER値はP4の低下に伴い、減少する傾向を示した。また、VER値とP4には正の相関が認められ(r = 0.49、P < 0.01)、VER値はP4を反映し、ある程度の発情周期の予測に活用できる可能性があると考えられた。
機能的な黄体を有する指標であるP4濃度1ng/mL以上と1ng/mL未満におけるそれぞれの平均VER値の比較を図10に示した。P4濃度が1ng/mL未満においては、1ng/mL以上の場合と比較して、VER値が有意に低い結果となった。このことは、機能的な黄体存在下ではVER値が高く、黄体の退行に伴いVER値が低下していることを示唆しており、繁殖雌牛の発情周期を把握する上でVER値活用の可能性を示している。