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海外の需給動向【牛肉/アルゼンチン】 畜産の情報 2021年4月号

牛肉輸出量、中国向けを中心に5年連続の増加

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牛肉生産量は4年連続増加し2009年以来の水準
 アルゼンチン農牧漁業省によると、2020年のと畜頭数は前年比0.3%の1397万頭、牛肉生産量は同0.9%増の316万3000トン(枝肉重量ベース)といずれも4年連続で増加し、生産量は2009年以降で最大となった(図4)。これは、2019年に続き中国向け輸出需要が強いこと、国内の肉牛価格が高値で推移したこと、国内の多くの肉牛生産地域で乾燥気候となったことなどが要因であるとみられる。2020年のと畜頭数の推移を見ると、上半期は前年同期を上回ったが、下半期はと畜頭数が多かった前年同期を下回って推移した。と畜頭数に占める雌牛の割合を見ると、2019年は4〜6月に50%を超えるなど高い水準で推移しており、雌牛のと畜が進んだものとみられる(図5)。その後雌牛のと畜割合は低下傾向で推移しており、2020年12月現在では43.8%となり牛群を維持する水準にあるとみられる。
 
 


中国向け輸出量の割合は前年と同水準の76.2%を占める
 アルゼンチン国家統計院によると、2020年の牛肉輸出量は、前年比9.4%増の60万8745トン(製品重量ベース)とかなりの程度増加し、2016年以降5年連続で前年を上回った(表6)。

 
 輸出先別に見ると、中国向けは近年、経済発展に伴う所得の増加などにより牛肉の需要が増加していることに加え、2018年に同国で発生したアフリカ豚熱に伴う代替需要から大幅に輸出量が増加している。2020年は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響による同国港湾での物流の停滞や消費の落ち込みなどにより2〜3月には輸出量が減少したものの、その後回復に転じ、年間では同9.1%増の46万3788トンとなった。この結果、輸出全体に占める中国向けの割合は、前年度並みの76.2%と高い水準を維持している。一方、輸出額は、年初に同国向け輸出単価が大幅に低下したため、同16.4%減と大幅に前年を下回った。また、2018年12月に生鮮牛肉の輸出が再開された米国向けは、2万591トンと大幅に増加し第5位の輸出先となった。一方、ロシア向けは、同国が2018年11月にブラジルからの牛肉輸入停止を解除した影響で2019年には大幅に減少したが、2020年も同15.0%減と引き続き減少した。
 同国では、2018年以降、財政悪化に伴い米ドルに対してアルゼンチンペソ安が進み、さらに2019年8月に行われた大統領選の予備選挙でアルベルト・フェルナンデス大統領が圧勝したことを受け、政情不安から急激にペソ安が進んだ(図6)。また、2020年にはCOVID-19の影響により国内の経済状況がさらに悪化し、国内需要が弱くなっていることが好調な牛肉輸出の背景にあるとみられる。

 
1人当たり牛肉消費量は経済状況の悪化などを反映し引き続き減少
 アルゼンチン農牧漁業省によると、2020年の牛肉消費量(1〜12月の各月に公表される年間消費量の平均値)は、前年比2.3%減の1人当たり50.4キログラムとわずかに減少した(図7)。アルゼンチンは1人当たりの牛肉消費量が他国に比べて多いことで知られているが、食生活の多様化や経済情勢などにより減少傾向で推移している。このため2020年の消費量は、2001年の同63.1キログラムと比べて20年間で12.7キログラム減少した。現地報道によると、COVID-19の影響による経済状況の悪化に伴う購買力の低下や菜食主義者(ベジタリアン)などの増加などによる食の変化が影響しているとされている。牛肉が減少する一方で、利便性や価格面などにおいて優位性がある鶏肉や豚肉の消費量は、ともに近年増加基調で推移しているとみられる。
 

 
肥育牛(去勢)の出荷価格は2019年に続き上昇
 2020年の肥育牛(去勢)の出荷価格は、2019年に続き上昇した。肉用牛相対取引の指標となっているリニエルス家畜市場における2020年12月の出荷価格は、前年同月比72.7%高の1キログラム当たり143.15ペソ(約170円:1ペソ=1.19円)と2019年に続き大幅に上昇した(図8)。取引頭数は多いものの、輸出が大幅に増加していること、インフレの進行が続いていることなどから、現地通貨(ペソ)で比較した場合の肥育牛(去勢)の出荷価格は上昇しているとみられる。

 
(調査情報部 井田 俊二)