(2)食肉をめぐる情勢
ア 需要動向
2020年の総食肉生産量(枝肉重量ベース)は、前年比0.2%減の4394万トンと見込まれる(表3)。健康的なイメージと調理の利便性から家きん肉需要は高く、生産、消費、輸出で唯一成長する部門とみられる。2030年の同量は、育種改良などによる、より効率的な生産実現が想定されるものの、2020年比で1.9%減が見込まれる。なお、2030年までに1人当たりの消費量減、量は少ないものの生体家畜の輸出量減が高い確率で進む他、短期的には、アジアおよびドイツのアフリカ豚熱やCOVID-19による現在の世界的状況が域内および国際的な食肉需給に多くの不確実性をもたらすとした。
一方、消費量は、菜食主義者(ベジタリアン)の定着、健康志向や環境、アニマルウェルフェアへの配慮などによる植物性たんぱく質への移行や高齢化などで、2018年をピークに減少傾向が進むと見込まれる。2020年に68.0キログラムであった1人当たり年間消費量は、家きん肉が増加するものの牛肉、豚肉が減少し、2030年には同67.6キログラムになると見込まれる(図7)。
イ 牛肉の動向
(ア)生産および消費
2020年の牛肉生産量(枝肉重量ベース)は、前年比1.4%減の688万トンと見込まれる(図8)。輸出需要や飼料価格安、育種改良によると畜重量増も、2018年をピークに牛群縮小を伴う減少傾向は続き、2030年は2020年比6.2%減の645万トンと見込まれる。1人当たり年間消費量は、2020年の10.4キログラムが2030年には9.7キログラムになると見込まれる。
牛枝肉卸売価格は、ブラジル、米国、アルゼンチンの供給増で今後数年間、国際市場、EUともに下方圧力がかかる(図9)。一方、2025〜30年には世界的な減産により、2030年に1トン当たり3461ユーロ(45万3391円)まで回復すると見込まれる。
(イ)貿易
COVID-19によるロックダウンで減少した輸入量は、今後、関係国との自由貿易協定の発効に伴う関税割当の段階的引き上げに伴う増加が見込まれる。輸出量は、主に中東とフィリピンからの需要が増えるものの、牛群縮小による輸出余力の低下から成長は緩やかとなる。一方、量は多くないものの、生体輸出は、家畜輸送に対するアニマルウェルフェアに関する規制の強化などからさらに少なくなると見込まれる。
ウ 豚肉の動向
(ア)生産および消費
2020年の豚肉生産量(枝肉重量ベース)は、国際需要はあるも投資環境が及ばず、前年比0.5%減の2288万トンと見込まれる(図10)。2030年は2020年比で90万トン減となる4.0%減が見込まれる。豚肉生産は、環境問題、アフリカ豚熱リスク、消費者の需要変化により制約を受ける可能性が高いとみられる。消費量は、家きん肉にシェアを奪われ、2020年の1人当たり年間消費量32.7キログラムは、2030年に同31.9キログラムと見込まれる。
豚枝肉卸売価格は、中国需要で2019年に最高値となるも、COVID-19とドイツにおけるアフリカ豚熱発生が2020年に下落を招いた(図11)。国際競争によりさらに下落も、供給減により2030年には1トン当たり1600ユーロ(20万9600円)程度に回復するとみられる。
(イ)貿易
2020年の豚肉輸出量は、中国需要で前年比2.0%増が見込まれる。一方、2020年をピークに減少傾向となり、2030年輸出量は2020年比8.7%減と見込まれる。世界貿易量の4割程度のシェアは確保するも、中国やアジア諸国の自給率向上や、アフリカ豚熱リスクなどにより2019〜20年の記録的な水準までの回復は難しいとみられる。
エ 家きん肉の動向
(ア)生産および消費
2020年の家きん肉生産量は、健康的なイメージと調理の利便性や手頃な価格による需要で前年比1.0%増の1361万トンが見込まれる(図12)。食肉の中で2030年までの間で唯一成長する部門とされ、コスト面で有利な旧東欧諸国での大規模な投資などで、2030年は2020年比3.5%増の1408万トンが見込まれる。2030年の家きん肉卸売価格は1トン当たり2063ユーロ(27万253円)と見込まれる(図13)。
(イ)貿易
家きん肉輸出量は、アジアやアフリカ向け需要で2030年は2020年比9.8%増の257万トンと見込まれる。一方、輸入量は、ファストフードなど外食向け割合が高く、COVID-19で一時低迷も、2021年以降は回復に転じ、EUの関税割当数量 (2020年時点で約90万トン)に近づくとみられる。