令和3年3月の鶏卵卸売価格(東京、M玉基準値)は、1キログラム当たり220円(前年同月比23円高)と8カ月ぶりに前年同月を上回り、直近5カ年の3月の同価格を見ると最も高い水準となった(図29)。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)緊急事態宣言解除後の外食用需要の回復を見越した実需者側の手当てに加え、高病原性鳥インフルエンザの発生が続いたことにより需給が引き締まったことが、価格の上昇につながったとみられる。
同価格は、例年、最需要期の12月に向けて上昇した後、年明けに下落し、春先に向けて再び上昇する傾向がある。3月の同価格は、上旬の同210円から、下旬には同230円まで上昇し、1カ月間の上昇幅は同20円となった。
今後について、供給面は、高病原性鳥インフルエンザによる殺処分羽数が多くなっている影響などにより、供給量は抑えられるとみられる。需要面は、3月21日でCOVID-19緊急事態宣言が解除されたものの、新たに一部地域においてまん延防止等重点措置が講じられるなど外食需要の早急な回復は難しいとみられる。一方、2月の鶏卵の家計消費量(全国1人当たり)は、920グラム(同0.6%減)と、COVID-19の影響に伴う駆け込み需要により消費量が伸びた前年同月をわずかに下回ったものの、平年と比べると依然高い水準にあり、巣ごもり需要は継続するものとみられる(総務省「家計調査」)。
令和2年の鶏卵生産量は前年並み
鶏卵生産量は、これまで250万トン台前後でおおむね安定して推移してきたが、平成25年夏以降、家庭用、業務加工用ともに需要が旺盛であったことなどから、鶏卵卸売価格が堅調に推移したことで生産者の増産意欲が高まり、増加傾向で推移している。
農林水産省が令和3年3月24日に公表した「令和2年鶏卵流通統計調査結果」によると、令和2年(1〜12月)の鶏卵生産量は263万2882トン(前年比0.3%減)と前年並みとなった(図30)。
2年の鶏卵の月別生産量の推移を見ると、2〜4月の3カ月間を除く月で前年同月を下回った(図31)。
2年はCOVID-19の影響で業務・加工用需要が低迷したことで需給が緩和状態にあった中、5〜9月にかけて成鶏更新・空舎延長事業
(注)が発動するとともに、一般社団法人日本養鶏協会は会員に対し、需要に見合った生産に取り組むことを呼びかける通知を発出するなどした。2年の生産量が5月以降前年同月を下回ったのは、当該事業への参加や誘導換羽といった生産者の自主的な生産調整などによるものと考えられる。
(注) 鶏卵生産者経営安定対策事業の中の一つの事業。同事業は、鶏卵の標準取引価格(日ごと)が安定基準価格を下回った日の30日前から標準取引価格(日ごと)が安定基準価格を上回る日の前日までに、更新のために成鶏を出荷し、その後60日以上の空舎期間を設けた生産者に対して奨励金を交付するものである。
都道府県別の上位5県の鶏卵生産量を見ると、最大の生産地は茨城県で23万2686トン(前年比0.7%減)となった(図32)。同県の生産量は増減を繰り返しながら増加傾向で推移している。第2位は鹿児島県で、19万21トン(同1.2%増)となり、4年連続で増加している。第3位は千葉県で15万6998トン(同5.7%減)となり、減少傾向で推移している。第4位は広島県で14万323トン(同3.6%増)、第5位は岡山県で12万7841トン(同6.3%減)となった。
(畜産振興部 前田 絵梨)