ホーム > 畜産 > 畜産の情報 > 生乳生産量は増加も生乳価格は高値、乳製品輸入は増加
生乳や乳製品は需要増により増産
中国では従来より、製品中に含まれる良質なたんぱく質や、発酵食品の免疫力増強効果への期待から、牛乳・乳製品需要の高まりが見られる中、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の発生以降、ヨーグルトを中心とした需要増を背景に、生乳や乳製品の増産機運が高まっている。
中国国家統計局によると、2020年の生乳生産量は前年比7.5%増の3440万トンとなった(図19)。これは、増産に向けた生体牛輸入の増加などにより搾乳牛頭数が増加したことや、飼料の品質向上や飼養管理により1頭当たりの泌乳量が増加したことによる。
また、同年の乳製品生産量は同2.4%増の2881万6100トン(製品ベース)となり、このうち、牛乳やヨーグルトなどの生鮮乳製品は同3.3%増の2599万4300トン、全粉乳や脱脂粉乳は同9.4%減の101万2300トン、チーズやバターなどの乳製品は同3.1%減の180万9500トンとなった(図20)。生鮮乳製品の増加基調は、COVID-19により健康志向が高まり、還元乳から、より加工度が低く新鮮なイメージがある牛乳やヨーグルトに消費がシフトしてきたためであると言われている。このため、乳業メーカーは生鮮乳製品の生産に注力するようになり増産した一方で、その他の乳製品の生産が減少したと考えられる。
生乳価格は需要期後も高値を維持
生乳は増産されているものの高まる需要に追いつけず、春節期間(2021年は2月11〜17日)の需要期を過ぎても生乳価格は高値を維持しており、同年3月の乳価は1キログラム当たり4.3元(74円:1元=17.1円)と、2020年11月以降、4元台が常態化する状況にある(図21)。
乳製品輸入量は引き続き増加
2020年の乳製品輸入量については、全粉乳、脱脂粉乳およびヨーグルトが減少した(表11)。
前述の通り消費者がより加工度の低い新鮮な牛乳・乳製品を求めるようになったことから、全粉乳や脱脂粉乳の輸入量が減少した。また、より新鮮だと考えられている国産ヨーグルトの増産により、ヨーグルトの輸入量も減少したと考えられる。一方、牛乳の輸入量の増加は、国内で要冷蔵牛乳が増産されたことで相対的に常温での長期保存が可能なLL牛乳の生産が減少し、輸入品による代替の必要性が高まったためであると考えられる。
チーズは、主に子ども向け製品の需要が増加したため輸入量が増加し、また、外食やパンなどで消費されるバターも、コロナ禍で外食が自粛されたにもかかわらず輸入が増加した。ユーロモニターインターナショナル社によると、ニュージーランドのフォンテラ社が、中国でソーシャルネットワーキングサービス(SNS)によりインフルエンサーを活用してホームベーカリーを普及させたことに伴い、家庭でのバター消費が増加したとしている。
育児用調製粉乳(以下「育粉」という)も増加傾向にあるが、ウクライナ産の輸入ホエイに新型コロナウイルスの遺伝子が含まれていたと報道されたことを受け、消費者がホエイを原材料に使用した輸入育粉を回避する動きが生じることを懸念する現地関係者もいる。
さらに、輸入品の約7割が飼料用に向けられるホエイの輸入が大幅に増加している。現地関係者によると、飼料用ホエイの主要輸入先は、主に米国とアルゼンチンなどの南米諸国であり、中でも米国産の約8割は飼料用に仕向けられる。米国産ホエイの輸入増は、2020年2月以降連続して子豚の飼養頭数が増加している(注1)こと、2020年3月からホエイの追加関税が免税された(注2)ことが要因として挙げられている。一方、育粉、ベーカリーやお菓子などの加工食品の原料となる食品用高品質ホエイの輸入先はフランスやドイツなど欧州諸国である。国によってばらつきはあるものの、これらの国からの輸入もおおむね増加している。
(注1)豚飼養頭数の推移についての詳細は、『畜産の情報』2020年12月号「豚飼養頭数が回復する中、輸入量も長期的には落ち着く見込み」(https://www.alic.go.jp/joho-c/joho05_001427.html)を参照されたい。
(注2)米国産ホエイの輸入関税の免税については、海外情報「多品目の米国産農産品の追加関税の免除を公表(中国)」(https://www.alic.go.jp/chosac/joho01_002635.html)を参照されたい。
(調査情報部 寺西 梨衣)