畜産施設から発生する臭気の問題は、畜産施設を取り巻く周辺の生活環境が大きく変化する中で、臭気の発生源での抑制、脱臭技術の向上などを含めその解決策が急務となっています。臭気対策を講じても畜産物の生産量や収益が増えるわけではなく、逆に臭気対策にかかる費用の分が収益には負担となりますが、周辺に迷惑をかけ続けると臭気による苦情が発生し、経営基盤そのものが脅かされてしまいますので、苦情が発生しないよう、過剰投資とならないよう種々の対策を講じながら経営することが必要です。悪臭防止法は苦情対策法ですので、苦情が発生しないような対策を行うことが求められます。環境3法ができたころは、堆肥化施設からの高濃度臭気が苦情対象でしたが、畜産農家(経営体)の大規模化、畜産農家近郊での宅地化、生活環境の向上などにより畜舎から発生する低濃度、大風量の臭気が苦情対象となってきています。畜舎から発生する臭気は、嫌気条件下で発生する硫黄化合物(硫化水素など)や低級脂肪酸が含まれ、これらの臭気は空気中にわずかに含まれていても人の嗅覚では不快臭と感じてしまう物質で、さらに空気より重いために地表面を漂うことが多いため、人の嗅覚に接しやすい特徴があります。堆肥化施設では、高濃度のアンモニアが主に発生しますが、堆肥化(好気性分解)がうまくいかず嫌気状態になってしまいますとこれらの物質が多く発生してしまいますので、堆肥化施設とはいえ適正な管理をしなければなりません。また、畜舎からの臭気が苦情の原因になりやすくなっていますが、その原因の一つに経営が大型化し、畜舎から排出される風量が大きくなると濃度が薄くても住宅地では苦情になりやすいと言われています。
それではどのように臭気対策をすればよいのか。まずは臭気の発生源をしっかり見極めることです。発生源を確認しないと適切な対策が取れないからです。畜舎内では清掃が第一です。湿ったところやふん尿で畜舎床面が汚れているとたまったふん尿が嫌気状態になって悪臭の発生原因となります。手間をかけても清掃することが必要です。また、原尿槽や固液分離機周辺も臭気の発生源となりやすい場所で、そのようなところは覆って(密閉して)臭気が外に漏れないようにします。場合によってはその部分だけを脱臭装置を使って脱臭します。規模拡大とともに臭気対策を施したバイオフィルターによる脱臭装置を設置したウィンドレス豚舎が普及しつつあり、臭気対策に十分配慮した農家が増えつつあります(写真1、2)。
堆肥化装置では、換気風量は豚舎に比べて少ないのですが、臭気濃度が高いために苦情が発生してしまうような施設があります。堆肥舎であれば密閉して換気空気をバイオフィルターなどで脱臭し、コンポのように排気管でまとまって排気されるところでもバイオフィルターを活用した脱臭装置に通して脱臭します。最近、芳香臭を使ったマスキング剤の利用が増えてきております。この資材は希釈して畜舎の上や敷地境界で噴霧します。高価な資材ですので、住宅地に臭気が流れるときに使用するとか、苦情が発生しやすいときに使うなど使用方法に工夫が必要です。芳香臭も強すぎると苦情になってしまいますので適切な管理の下で使うことが求められます。遮へい壁の設置も効果があります。設置方法は畜舎から畜舎の棟高さ分の離れた位置に軒高さ分の遮へい壁(防風ネットでもよい)を設置しますと、畜舎から排気された換気がいったん、畜舎と遮へい壁の間にたまり、遮へい壁の上部から徐々に薄まりながら大気に放出されることで苦情低減に役立てようとする方法です。これ一つで臭気対策が可能になるものではありませんが、清掃をはじめとする種々の臭気対策を組み合わせて臭気による苦情のない畜産経営としたいものです。
(注1) 生物化学的酸素要求量(Biochemical oxygen demand)は、生物化学的酸素消費量とも呼ばれる最も一般的な水質指標の一つ。一般にこの値が大きいほど、水質は悪い。
(注2) 有機物に含まれる炭素(C)含有率(%)と窒素(N)含有率(%)の比。有機物の種類によりさまざまな値をとるが、この値は有機物の微生物による分解の難易、肥料効果の表れやすさ、また堆肥の腐熟程度などを評価する場合の重要な指標である。
(注3) 施設の機能がどのように低下していくのか、また、どのタイミングでどのような対策を講じれば効率的に長寿命化できるのかを検討し、施設の機能保全を効率的に実施することを通じて、施設の有効活用やライフサイクルコストを低減するなどの取り組み。
参考文献
・「畜産環境をめぐる情勢」(農林水産省ホームページ)
・「確実な養豚汚水処理を目指して」((一財)畜産環境整備機構)
(プロフィール)
昭和48年3月 三重大学農学部卒
農業機械化研究所 研究第3部 家畜飼養管理・養蚕用機械研究員
61年10月 生物系特定産業技術研究推進機構
研究第3部家畜飼養管理養蚕用機械研究単位研究員
平成15年10月 独立行政法人農業・生物系特定産業技術研究機構
生物系特定産業技術研究支援センター
畜産工学研究部飼養管理工学研究単位主任研究員
18年1月 同 畜産工学研究部長
4月 独立行政法人 農業・食品産業技術総合研究機構
生物系特定産業技術研究支援センター 畜産工学研究部長
22年3月 定年退職
4月 (財)畜産環境整備機構 畜産環境技術研究所 研究開発部長
23年4月 同研究所 研究統括監
26年4月 ( 一財)畜産環境整備機構 畜産環境技術研究所 研究統括監
現在に至る