このような状況を踏まえ、北農5連
(注1)では、JA等による代替人材確保に向けて、主に四つの取り組みを進めてきた。
(1) 北農5連JA営農サポート事業の実施
令和元年度から実施している北農5連JA営農サポート事業
(注2)のうち、農業人材確保支援事業を「新型コロナウイルス感染症に係る農業人材確保特別対策事業」に組み替えて、北農5連で1億円の独自予算を用意した。事業対象となる取り組みについては、JAによる求人サイトなどを活用した募集広告の取り組みや市町村と一体となった従業員向け居住施設等の整備、政府の水際対策の影響を受けた監理団体JA等の掛かり増し経費の助成などとした(図1)。
申請のあったJAでは、求人サイトを活用した募集活動の取り組みや技能実習生の渡航中止に係る送出機関への入国前講習費用の支払い、産地間連携による季節就労人材確保の取り組み、生産現場の労働環境改善の取り組み(簡易トイレの設置)、新規就農希望者向け居住施設の整備などの取り組みを行っている。
(注1)北海道農業協同組合中央会(JA北海道中央会)、北海道信用農業協同組合連合会(JA北海道信連)、ホクレン農業協同組合連合会(ホクレン)、北海道厚生農業協同組合連合会(JA北海道厚生連)、全国共済農業協同組合連合会北海道本部(JA共済連北海道)の5団体で構成。
(注2)北農5連で「北農5連JA営農サポート協議会」を構成し、当該事業を実施。
(2) 北海道援農推進連絡会議の取り組み
新型コロナウイルス感染症は、飲食業界や宿泊業界等へ大きな影響を与えた。休業や休職を余儀なくされた方々と人手を必要としている農業者をマッチングさせるため、令和2年5月、北海道農政部が中心となり「北海道援農推進連絡会議」を立ち上げた。同会議には、北海道農業協同組合中央会(以下「本会」という)などの農業団体や経済団体、観光業界団体などが参画し、農業分野でのマッチングの取り組みを進めてきた。この結果、全道で294人のマッチングを行うことができた(2年10月現在)。294人の方々は、全道各地で主にブロッコリーなどの葉物野菜の収穫作業、てん菜のほ植作業、ばれいしょの収穫作業などに従事した。
また、北海道経済部が立ち上げた「北海道短期おしごと情報サイト」とも連携を図るなど、円滑な人材確保に向けて行政と農業団体が一体となって支援体制を構築した(図2)。
(3) パラレルノーカーの取り組み
新型コロナウイルス感染症の拡大に伴う社会変容により、生産現場では、飲食業や宿泊業に勤めている方や農業以外の仕事に従事されていた外国人など、これまで以上に多様な人材が農作業に従事する事例が増えつつある。この流れを加速するべく「農業には多様な働き方があること」「より多くの方々に農業に携わってもらうこと」を通じて、将来的に農業を仕事の選択肢として前向きに考えてもらうため、本会独自の情報発信の取り組みとして「パラレルノーカー」を立ち上げた。
パラレルノーカーは、複数の仕事を持つという意味のパラレルワーカーから生み出した造語である。サラリーマンや主婦、学生など本業を持ちながら農作業に従事している方をパラレルノーカーと称し、農作業従事に対するハードルを下げ、気軽に農業に関わってもらうことを目指している。
具体的な取り組みとしては、特設ウェブサイトを新設し(図3)、道内出身の著名人によるテレビCMやウェブ広告、ソーシャルネットワーキングサービス(SNS)を活用したPRなどを通じて、当該ウェブサイト内に掲載している既存の農業系求人サイトへの誘導を進めている(図4)。この他、実際に複業として農業に従事した方のインタビューページや1日の仕事紹介などのコンテンツを掲載している。既存の求人サイトは、北海道短期おしごと情報サイトのほか、「第一次産業ネット」や1日バイトアプリ「daywork」、「あぐりナビ」、「アルキタ」のバナーを掲載している。
実際に、新型コロナウイルス感染症の影響で就労先を失った障害を持った方が農作業に従事する事例などが出てきており、結果的に農福連携の推進にもつながるなど副次的効果も得られた。
また、旅行会社に勤務している方が農業現場でミニトマトやピーマンの収穫に従事する事例も出ており、前述の特設ウェブサイトで紹介している。この方は、旅行会社で収穫体験ツアーを企画・販売する業務を行っており、今回の就労を通じて、「生産者の大変さや苦労を身をもって体験することができた」「今後の営業活動にも役立てていけそう」と述べている(写真)。
実際にパラレルノーカーとして就労している方は、コロナ禍で縮小した本業の就労日の合間を縫って農作業に従事される方々が多く、コロナ禍において農業を複業先の一つとして考えてもらうきっかけになったものと考えている。
(4) コロナ禍における特定技能外国人材の受け入れセミナーの開催
コロナ禍が長期化する懸念がある中、外国人材の渡航リスクを減らし、今後の特定技能外国人材の受け入れをより円滑に進めるため、令和3年2月にJA等を対象としたセミナーを開催した。
セミナーでは、外国人材の受け入れに精通した弁護士による留意事項の説明のほか、特定技能外国人材を通年派遣、季節派遣している事業者の説明を行った。この結果、一部のJAでは、特定技能外国人材による産地間リレー派遣の取り組みを検討する動きが見られており、主に選果作業の従事を想定している。
北海道内の多くの耕種地域では、従来からJAを監理団体として1号技能実習生を受け入れてきた。当該地域で受け入れる技能実習生は毎年2月以降に入国し、農作業実習後の11月ごろに帰国、翌年新たな技能実習生が入国している。こうした地域の労働力は、コロナ禍による水際対策の影響を受けることから、国内に在住している特定技能外国人材による産地間リレー派遣の取り組みが広がることで、渡航リスクを低減させる効果が期待される。