(1) 概要
株式会社アグリ&ケアは技術者派遣事業を営む株式会社アルプス技研によって2018年に設立された、農業部門および介護分野へのアウトソーシング事業を行う人材派遣企業である。アルプス技研は新規事業として農業への人材派遣を行うこととし、2017年に北海道帯広市に拠点を設置、同年から十勝地域の酪農業へ人材派遣を開始した。農業参入に当たっては、十勝地域でコントラクター会社を設置することも検討されたが、機械への設備投資が膨大なため困難と判断された。翌年に資本金1億円で子会社であるアグリ&ケアとなり、2019年には上士幌町にオフィスを設置した(写真3)。現在は神奈川県相模原市に本社を構え、上士幌町と愛知県名古屋市に拠点が置かれている。他にアルプス技研が全国に持つ28拠点(図3)がアグリ&ケアの業務をサポートしているため(写真4)、派遣先は全国に存在する。
アグリ&ケアには従業員170人が在籍しており、外国人材が主となっている。外国人材の内訳は特定技能56人、特区での派遣15人、高度人材77人である。現状の派遣先は農作業のみである。なお、アルプス技研グループ全体の従業員数は5303人であり、農作業のウエイト(現在のアグリ&ケアのグループ全体に占める従業員数割合)は約3%となっている。
派遣スタッフは正規雇用(無期雇用契約)で同社に通年雇用される。月給制で賞与があり、社会保険も完備している。同社では登録者を案件があるときにのみ雇用する、いわゆる「登録型派遣」は行っておらず、派遣契約は数カ月単位での契約となっている。派遣契約がいったん終了した後に同一人物を派遣できる保証はないため、同一人物の確保を希望する場合には通年での派遣となる。
アグリ&ケアの派遣スタッフとして農業に従事することのメリットは、就業先の異動が直接雇用に比べれば容易であることである。農業経営に直接雇用されてミスマッチが生じた場合は、転職すなわち退職と就職活動の両方を行わなければならなくなる。それに対してアグリ&ケアのスタッフは、派遣先とミスマッチが生じた際は別の派遣先に変更することも可能である。
農業派遣事業には「アグリ」と「アグリテック」の2種類がある。「アグリ」は露地・ハウスでの農作業や畜産・酪農の飼養管理を業務内容とする。「アグリテック」の業務内容は、農業機械や植物工場での機械操作・制御、生産管理および土壌分析を含む研究・開発関連業務である。
派遣に際して、就業条件は同社の基準もしくは受入農家の規制と比較し決定され、突発的な時間外労働は代休や追加料金(時間外手当)で対応することも可能である。派遣料金は時間単価での精算を基本とするが、日単位・月単位の料金体系もあり相談可能である。派遣社員の技術向上や作業範囲の拡大があれば料金は改定される。また、住居は原則同社が確保するが、派遣先が所有する社宅や寮を借用する場合もある。特定技能人材を受け入れる際、過去5年間で6ヵ月以上の社員の継続雇用の実績がなければ、受け入れ農家は「派遣先責任者講習」(半日、札幌市開催)を受ける必要がある。
北海道における同社の派遣先は現状では畜産業(酪農業含む)のみであり、渡島、胆振、十勝、根室、オホーツク、宗谷で9人が農作業に従事している。耕種農業については、アルプス技研の沖縄拠点との連携による夏期の派遣を検討したことがあった。具体的には夏期は十勝の畑作に派遣し、冬期は沖縄県のサトウキビ製糖工場へ派遣することで、通年の仕事を確保する取り組みである。しかし、日本人派遣社員の場合、特に既婚者については半年ごとに居住地が変わることは困難であった。また、外国人材の場合には農作業(十勝畑作)から製造業(沖縄製糖業)へ派遣先を変更するためには、在留資格の変更が必要となるため、こちらも困難であった。さらに転勤の費用負担の問題もあり、コスト面でも折り合いが付かず、実現には至らなかった。
人材派遣に対する依頼は多く全道から問い合せがくるものの、人手が不足しているため完全に応じることはできていない状況である。2020年は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による入国制限があり、外国人材が来日できなくなったことも影響している。外国人材が入国できるようになれば人手不足は改善するものと同社は見通している。また、人材育成のため協力牧場を募り、そこで社員に研修を実施することを構想中である。
(2) 農作業オペレーター派遣について
農作業オペレーターは、宗谷のTMRセンターに対して1人を派遣している。40歳代の男性社員であり、2018年に同社に中途入社した。入社以前は農業法人で農作業に従事していたが、農機のオペレーターではなかった。入社後、沖縄県石垣島の肉牛農家に派遣され、牧草収穫作業に従事した。このときに機械作業の技術を習得した。その後、石垣島での派遣期間が終わったため、事例のTMRセンターに派遣されることとなった。
事例のTMRセンターでは、オペレーターの作業圃場の状況把握を重視して同一人物を確保するために通年で契約しており、夏期は牧草収穫作業のオペレーター、冬期は酪農ヘルパーとして従事している。沖縄とは異なり、宗谷では冬期の圃場作業は不可能であるため、派遣受け入れに当たって酪農ヘルパーの業務を用意した。このように夏期と冬期で従事する業務が異なるため、その都度契約を更新している。派遣料金を確認したところ、コントラクターが現在雇用しているオペレーターに支払っている賃金の範囲内であった。