英国農業園芸開発公社(AHDB)は3月8日、「EU離脱:短期的な影響と長期的な機会」と題し、英国の欧州連合(EU)離脱(BREXIT)の影響などについてウェビナーを開催した。
なお、BREXITの移行期間は2020年12月末に終了し、英国およびEU間では、自由貿易協定(FTA)として、原産地規則の充足を要件に、全品目で関税撤廃、関税割当無しの合意がされた一方、北アイルランドを除き、衛生植物検疫(SPS)措置として、段階的なシステム変更、衛生証明書の導入が計画されている。
ウェビナーは、AHDB市場分析部門のディレクターであるフィル・ビックネル(Phil Bicknell)氏が司会進行を務め、英国農業・食品業界の専門家らがそれぞれの部門、立場でBREXITの影響などについて講演を行った。
冒頭、ビックネル氏は英国が置かれている現状について、数十年にわたり良好な貿易相手であったEUとの関係が、BREXITによって食品サプライチェーン全体に多くの課題を抱えることになったと報告した。そのため、今回のような機会を設けて、実際にそれら諸課題に直面している業界の専門家に、どのような対応状況にあるのか聞く機会は有用であるとした。また、長期的に見れば、それらを踏まえて、BREXITが英国の農業・食品業界にはどのような機会をもたらすのか、そのことについて考えることも必要ではないだろうかと述べた。
ウェビナーの中、食肉業界から唯一の講演者として出席した、ファーマーズ・ファーストめん羊生産者組合(組合員2700戸)ディレクターであるマイク・グッディング(Mike Gooding)氏は、BREXIT移行期間終了直後の状況は大変厳しいものであったと振り返った。
同氏は、移行期間終了後のルール整備が十分でなく、あってもその解釈に一貫性がないなど、業界の混乱は大きかったと説明した。その他、移行期間終了後に発生した膨大な書類作業などの障壁が存在していることを訴え、競合するニュージーランド産羊肉がその間に競争力を高めている現状にも言及した。
一方、直近では、ルール整備はいまだ十分ではないものの、輸出事業者らが書類作成作業などには慣れつつあるとした。そして、課題は残しながらも、数カ月をかけてようやく一定の落ち着きは取り戻しつつあるとの現状を報告した。課題については、変更されたルールなどの対応に自社内で多くの人員が必要となっていることや、作業ごとに求められる書類作成、署名などの書類関連の追加作業を挙げた。こういった作業の追加や、場合によっては国境検査官によって異なる諸規則の解釈が消費期限のある商品に大きな影響を与えるのみならず、競合国などの参入を許すことになると訴えた。
同氏は講演の最後に、BREXIT以前の貿易環境にまで戻すことを要望するも、現状でも5億人の消費者を抱えるEUとのビジネス機会が残っていることについては感謝すべき状況であると報告した。
さらに同氏は、他の講演者とのパネルディスカッションの中で、政府への要望という議題に対し、20年先を見据えた長期的なビジネス機会の拡大を訴えた。今後さらに強まるであろう業界の持続可能性などの社会的ニーズに応える必要性や、貿易交渉の推進によって世界中に英国産羊肉が届くようにするとともに、業界への投資の進展も必要だという見解を示した。
【国際調査グループ】