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海外の需給動向【牛乳・乳製品/米国】 畜産の情報 2021年7月号

乳用経産牛飼養頭数と生乳生産量は引き続き増加、乳製品の輸出も好調

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乳価は上昇傾向、それに伴い経産牛飼養頭数と生乳生産量も増加
 米国農務省全国農業統計局(USDA/NASS)の「Agricultural Prices」によると、全米平均総合乳価は比較的堅調に推移しており、クラス別に見てもそれぞれ緩やかに上昇傾向にある(図19、20)。乳価の上昇に後押しされる形で、2019年夏以降、酪農家の増頭意欲が高まっているとみられ、20年7月以降、飼養頭数の増加が顕著になっている。
 USDA/NASSの「Milk Production」によると21年4月の乳用経産牛飼養頭数は3月から1万6000頭増加し、前年同月比1.2%増の949万頭となった(図21)。 
 



 
 

 また、21年1〜3月の生乳生産量の推移を見ると、前年同月比の増加率が緩やかになってきたが、乳用経産牛飼養頭数の増加に伴い、21年4月の生乳生産量は同3.3%増の875万2000トンとなった(図22)。トウモロコシなど飼料穀物価格が上向く中で、米国西部での干ばつから酪農主産地のカリフォルニア州では粗飼料への影響も懸念されているが、同月の1頭当たりの全米平均乳量が922キログラムに達したことも生乳生産の増加要因である。
 今後、飼料穀物相場の動向によっては飼料コストのさらなる増加も見込まれており、飼養頭数と生乳生産量への影響が危惧される。
 

乳製品輸出量は好調に増加
 米国農務省経済調査局(USDA/ERS)の「Dairy Data」によると、2021年3月の乳製品の輸出量は全体的に増加した。
 品目別に見ると、バターは前年同月比170.6%増の4200トン、脱脂粉乳は同38.9%増の8万6500トン、チーズは同10.6%増の3万6900トン、乾燥ホエイは同37.6%増の2万3900トン、WPC(タンパク質濃縮ホエイ)は同37.0%増の1万3400トンと増加した(表14、図23、24)。特にバターの輸出量が大きく増加している背景については、昨年7月に発効された米国-メキシコ-カナダ協定(USMCA)の下、カナダ向けが増加していること、昨年以来低迷を続けていた原油価格が本年に入り上昇し、乳製品需要が回復したサウジアラビア、バーレーン、エジプトなどの中東・北アフリカ向けが増加していることが挙げられる。
 




 
  21年第1四半期で見ても乳製品輸出は非常に好調であったとの見方が強い。これは20年末まで続いた新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響によるコンテナの滞留に起因する輸出の停滞が緩和されたことも要因の一つであるが、米ドル安で推移する為替相場などを背景に米国産乳製品に対する世界的な需要の高まりも要因として挙げられる。
 また、4月末現在、米国産乳製品の最大の輸出先の一つである隣国のメキシコでは深刻な干ばつが続いている。現時点ではメキシコの生乳生産量に影響は見られないが、今後の状況によっては飼料価格の高騰から生乳生産量の減少も危惧される。メキシコでは、COVID-19の影響から経済が回復しつつある中で脱脂粉乳を中心に米国産乳製品に対する需要は高まっており、引き続き米国産乳製品の輸出拡大の可能性も見込まれている。

米国国内需要の高まりにより乳製品卸売価格が上昇
 USDAの「DAIRY MARKET NEWS」によると、報告されているすべての乳製品について、2021年4月の卸売価格は前月から上昇した。特にバターの卸売価格の上昇が顕著で、チーズも上昇している(図25、26)。これは、COVID-19により自粛生活が余儀なくされる中で家庭内消費の増加に伴い小売売上高が高止まりしており、さらに、ワクチン接種が進むにつれ、COVID-19により低迷していた外食産業の売上高が急増するなど、米国内の需要が拡大していることが要因とみられている。
 



 なお、米国国勢調査局(USCB)によると、21年4月の米国民の外食・飲食店支出は前年同月と比較して119.8%増加した。一方で、COVID-19による家庭内消費の増加に伴う小売売上高の増加も好調を維持している。また、USCBの調査では、COVID-19の収束後も家庭内での食事の機会を維持するとの意向が大半を占めている。これらのことから、国内需要は今後も堅調に推移する見通しであり、USDAは大半の乳製品の卸売価格が上昇すると予測している。ただし、バターについては、需要は比較的堅調に推移するものの供給量の増加により価格上昇が抑制される見通しとしている。

バター在庫量は増加、チーズ在庫量は減少
 USDA/NASSの「Cold Storage」によると、4月のバターの在庫量は3月から1万2700トン増加し、前年同月比3.3%増の17万4800トンとなった(図27)。バターの生産量も増加している中で、COVID-19による各種規制や制限の緩和から外食・飲食店に客足が戻りつつあるものの、バター消費量の大きい高級レストラン需要の回復の遅れが大きな要因とみられている。
 4月のチーズの在庫量は3月から7200トン減少し、前年同月比1.8%減の65万9100トンとなった(図28)。バターと同様に生乳生産量の増加から家庭内消費や輸出増を背景にチーズ生産量も増加している。しかし、特にファストフード店での利用が多いチェダーチーズやピザ用として多量に消費されるモッツァレラチーズなどを中心に外食からの需要が急増したことが、在庫量を減少させた要因とみられている。
 



(調査情報部 岡田 卓也)