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海外情報 畜産の情報  2021年7月号

コロナ禍での台湾における鶏肉流通の対応〜台湾中央畜産会による調査結果より〜

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財団法人台湾中央畜産会

【要約】

 台湾では2020年当初、新型コロナウイルス感染症の影響を受けて一時的に鶏肉需要が減少したが、同年第3四半期には回復した。この背景には、スポーツブームなどによるむね肉、特に調理済み商品の需要が増加したほか、オンライン販売の拡大があり、関係業者による商品開発や販売ルート拡大競争が激化している。オンラインによる販売では、実店舗による販売と比較して商品情報をより詳しく消費者に伝えることが可能であり、また、ブランド戦略として、ブランドと消費者をつなぐパイプラインとして積極的にインターネットを活用し、ブランドや商品の詳報の浸透を図るほか、消費者とのコミュニケーションによるブランドイメージそのものの向上を図っている。

1 はじめに

 台湾では1年間に2億4000万羽分の鶏肉が生産され、食肉消費において豚肉に次ぐ地位を占め、日常生活において欠くことのできない重要な食材である。2020年は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響を受け、消費者の消費習慣が変化し、オンライン販売やデリバリーなどの需要が増加した。企業も、このような状況に即して新製品の開発や販売ルートを拡大・多様化させるなど、リスクを分散しつつ多元的な取り組みで収入を確保する必要に迫られている状況にあることは、日本と同況にあると言えよう。
 台湾の財団法人台湾中央畜産会(以下「台湾中央畜産会」という)は、このようなコロナ禍において、販売ルートの拡大に関心のある業者が新製品の開発や販路拡大の参考にすることができるよう、現地コンサルタント会社(厚策思維有限公司〈食力:foodNEXT〉)に委託し、COVID-19の影響が懸念される台湾産鶏肉に係る調査を実施した。本稿では、台湾中央畜産会が取りまとめた調査報告(食鳥処理場編、オンライン販売編およびブランド戦略編)について紹介する。
 なお、本稿中の為替相場は、1台湾ドル=3.93円(2021年5月末日参考相場:3.9308円)を使用した。

 以下は、台湾中央畜産会機関紙「畜産報導」234号(2020年12月号)および235号(2021年2月号)に掲載された記事である。

2 食鳥処理場編

 鶏肉は台湾の人々にとって重要な食肉供給源である。行政院農業委員会(日本の農林水産省に相当)の農業統計年報によると、台湾産鶏肉の供給量は2015年の1億9700万羽から増加傾向で推移しており、2019年には2億4000万羽(1週間平均で460万3000羽)に達した(図1)。鶏肉需要が増加基調で推移する中、鶏肉の部位や製品に対する需要の変化や、COVID-19の流行が鶏肉消費市場へ及ぼす影響について、聞き取りおよびアンケート形式で調査を実施した。
 
 

鶏肉の生産・販売動向は鶏肉価格を反映
2020年第3四半期は需要が増加

 台湾の主な鶏肉食鳥処理業者13社を対象に行ったアンケート調査によると、食鳥処理量にCOVID-19が与える影響について、変わらないと回答した業者が8社(46.2%)であったが、減少したと回答した業者はわずか3社(23.1%)であった(図2)。これは、COVID-19の流行により外食の頻度が減少したため、これら業務需要が減少したことが主な原因とみられる。また、台湾の主な加工食品業者7社へのアンケート調査では、いずれも、加工食品の需要はCOVID-19が原因で増加したと回答している。さらに、オンライン販売が鶏肉産業に与える影響について、鶏肉食鳥処理業者13社に行ったアンケート調査結果では、「与える」と「与えない」が同数となった(図2)。

※ALICにより一部追記
 

 台湾最大の鶏肉供給業者である大成長城企業(以下「大成長城」という)によれば、「台湾産鶏肉の90%以上は新鮮な冷蔵鶏肉として供給された後、小売店で販売されるか、加工に向けられる。すなわち、食鳥処理量がほぼ台湾産鶏肉供給量と言える(注1)。従って、需要が増加すれば価格は上昇し、価格はその時の鶏肉の生産・供給状況を反映している」と説明する。
 大成長城が、小売などの販売業者に卸す際の卸売価格を通して2020年の鶏肉需給状況を分析したところ、同年第1四半期はCOVID-19の状況が深刻であったことから、外食市場が低迷し、全部位平均鶏肉価格は例年平均を10〜20%下回った。第2四半期に入ると、価格は緩やかに回復し、第3四半期には平均を10〜20%上回るようになった。特に骨付きもも肉は、例年の1キログラム当たり80台湾ドル(約314円)が、同年第3四半期には100台湾ドル(約393円)以上まで上昇したという。従って、鶏肉市場でのCOVID-19の影響は第3四半期には明らかに弱まり、鶏肉需要が回復したことがうかがえる。

(ALIC注記1 ) 台湾の鶏肉消費量のうち、台湾産鶏肉は約7割である。
 

近年、骨なし生鮮鶏肉、調理済みむね肉が消費者に最も好まれる商品に

 同社によると、骨なし生鮮鶏肉に対する需要が増加を続けており、スポーツ・トレーニングブームがこの需要をけん引しているという(写真1、2)。生鮮むね肉の販売量が大幅に増加する中で、特に伸びているのが調理済みむね肉商品であり、2020年の増加率は前年比20〜30%程度である。台湾産鶏肉から製造された鶏肉製品は、輸入鶏肉の製品に比べて口当たりや質感が良いということで、消費者に人気がある。
 
 

  鶏肉カット・加工業者12社に対する過去のアンケート調査への回答結果からも同様の状況であることが確認できる。販売量が増加している部位について、うち11社(シェア92%)が、骨なしむね肉の販売量と回答し、続いて9社(同75%)が骨付きもも肉、8社(同67%)がささみと回答した(図3)。このように、骨を取り除いた鶏肉の販売量が増加している。
 

 

オンライン店舗は、ブランドの知名度アップにつながる

 オンライン販売が鶏肉産業に与える影響については、業者によって見方が異なることも明らかになった。また、オンライン販売に対する投資の意欲も両極化している。前述の大成長城は、オンライン店舗と実店舗を相補的に用い、インターネットを利用してブランドの知名度を引き上げれば、消費者が実店舗で買い物をする際、容易に消費者の目を引き付けることができると考えている。
 同社では2020年、COVID-19の影響でオンライン店舗での販売量が著しく増加した。生鮮食品の販売量は約2〜3割、調理済み食品は約4〜6割増加し、今後も販売量が好調であると見込まれているという。台湾産鶏肉の加工と販売を行う沅泰げんたい食品有限公司も、利便性があり、高い調理技術を必要としない調理済み食品は、オンライン販売で一定の顧客を有しており、今後も販売量は増加して行くことが予想されると述べている。ただ、鶏肉は高い利益の得られる製品ではなく、冷蔵や冷凍での配送コストは業者にとって重い負担にもなるという。
 台湾ではCOVID-19がある程度制御されたことから、2020年第2四半期以降、外食や観光業は徐々に回復に向かい、鶏肉関連製品に対する需要も次第に回復した。一方で、鶏肉商品のオンライン店舗での販売量が急増する中で、情報があふれ消費者が簡便かつ短時間で商品を購入できるようになった現在では、オンライン市場も競争が激化している。すべての鶏肉関係業者は、いかにして多元的な販売ルートを開拓し、新たな製品を開発して販売経営の柔軟性を増し、販売機会を増やすかといった直面する課題に、引き続き対処して行かなければならない。

3 オンライン販売編

 インターネットおよびスマートフォンの普及によって、オンライン販売はすでに人々の生活に必須の購入手段となっている。台湾経済部統計局によると、2020年上半期のオンラインによる売り上げは1587億台湾ドル(約6237億円)に達し、総売り上げの8.8%を占めた。また、COVID-19の影響を受けて、オンライン販売サービスを提供する小売業者の営業収入がこの1年で0.5%増加したのに対し、提供していない業者では5.4%の減少となった。以上から、多元的な販売ルートの構築が業者のリスク分散に貢献していることが分かる。
 また、COVID-19により消費者の外食機会が減少する一方、オンライン販売における生鮮および調理済み食品の販売量が目覚ましい伸びを示している。かつて1日に1万個の「即食鶏むね肉」(日本でいう「サラダチキン」)を売り上げた台湾ECサイト(電子商取引)を運営する「松果購物」から、鶏肉商品の販売状況とオンライン販売活動を行う際の実用的なアドバイスを聞き取ることができた。
 

COVID-19の影響でオンラインによる鶏肉商品の売り上げが大幅増加

 「松果購物」では、出店業者にオンライン販売プラットフォームを提供し、業者が消費者に販売を行うB to B to C営業モデルを採用している。同社のプラットフォームには消費者のフィードバックによる商品の点数評価システムが設けられており、AIビッグデータと組み合わせて、消費者の評価点が高い商品からお薦めリストに自動表示される仕組みになっている。また、消費者の閲覧履歴に応じて適切な消費グループを設定し、自動的に消費者に情報が送信される仕組みとなっている。
 同社によると、COVID-19の拡大で多くの出店業者の鶏肉販売量が明らかに増加したという。元来、鶏肉商品は温めるだけでよい調理済み食品が主流であったが、COVID-19拡大後は複数社において、手間をかけずに食べられるという意味で「即食鶏むね肉」と命名された商品の売り上げが同時にトップ100入りすることが多くなった。開封すればすぐ食べることができ、さまざまな味付けがそろうブランドが消費者に最も好まれている。一方、調理済み食品は、便利で少人数家庭に合うものが人気となっている(写真3)。また、最近のノンフライヤー鍋(油を使わずに揚げ物調理が可能な調理器具)の流行も、こうした鶏肉食材の売り上げに一役買っていると考えられている。
 
 
 同社によると、オンライン販売は実店舗のような家賃コストがかからず、時と場所を選ばずどんな商品も販売することが可能である。また、プラットフォームを利用すると、一つのサイトでさまざまな種類の商品を同時に購入できるため、より幅広い購買層に商品を見てもらうことが可能となる。加えて、販促キャンペーンが継続的に展開されるため、マーケティング商品や強化ブランドをアピールする機会を増やせるという利点もある。
 

きめ細かな経営と情報の透明化が肝要

 同社によると、消費者がオンラインで鶏肉商品を選ぶ際に優先するのは、衛生検査報告書(注2)と政府認証マーク(注3)である。さらに、出店業者は、価格の合理性とブランドの優位性を維持する必要があり、だからこそ消費者もリピーターになると指摘する。このため、出店業者には、定期的に新商品を発売し、購買意欲と消費者のリピーター率を上げることを勧めている。また、出店業者と消費者の間で、商品分量や肉製品の品質などに関する認識の違いが発生することもあるので、商品表示は明確に、誇大表現は避けるようアドバイスもしている。
 オンライン販売が生活に必要不可欠な購入手段となった今、インターネットを利用した生鮮および調理済み鶏肉の購入はもはや珍しいことではない。消費者の購買習慣の変化、販売ルートの多元化にいかに素早く対応するかが、鶏肉業者の重要課題である。

(ALIC注記2 ) 台湾政府が定める「食品中微生物衛生標準」や「動物用薬残留標準」を満たすことを証明した検査報告書。

(ALIC注記3 ) 台湾産の農畜水産物とその加工品の品質を保証するマークで、CAS(Certified Agricultural Standards))マークと呼ばれる。

4 ブランド戦略編

 COVID-19の拡大による外食店の営業自粛や食材需要の減少などで、鶏肉の需給は一時的な不均衡を余儀なくされた。こうした中、影響を受けていないのが、早くからオンライン販売の経営に乗り出していた「十八養場」である(写真4)。実店舗、外食店、オンライン店舗という三つの販売ルートを同時に所有する「十八養場」から、COVID-19における鶏肉商品販売の構造変化と、鶏肉業者とのブランド戦略、オンライン販売における注意事項を聞き取れたので紹介する。
 

  COVID-19の拡大により、日常生活における人々の消費構造は変化した。外食自粛により、同社と提携している外食店の売り上げはCOVID-19拡大前との比較で20%まで減少した。一方、消費者の鶏肉需要がそのまま失われたわけではなく、インターネットでの購入に切り替わったため、オンラインによる売り上げは30%増加した。
 

飼養管理へのこだわりが、オンラインによる消費者とのコミュニケーションに

 無薬品飼養をベースとしたアニマルウェルフェアを理想に掲げる「十八養場」は、バイオテクノロジーの専門チームにより飼養管理を根本から見直した。同社によると、飼養する鶏には抗生物質や抗コクシジウム剤(注4)といった動物用薬を使用しておらず、飼料には非遺伝子組み換え作物に、粉砕した台湾産紅茶葉を加えるなど、鶏の健康面に重点を置いている。さらに、飼育密度を低下させIT管理を強化するなど、鶏がより快適で健康的な環境で成長するよう飼養することで食品としての安全を確かなものとしている。
 また、オンライン店舗では、実店舗と比べてブランドや商品の情報をより詳しく掲載できる利点がある。同社は、ブランドと消費者をつなぐパイプラインとして積極的にインターネットを活用し、自社の飼養管理を伝え、消費者とコミュニケーションをとることでブランドイメージの向上を図っている。

(ALIC注記4 ) 鶏に急性の下痢を発症させる寄生虫による感染症の予防および治療薬。