鶏肉は台湾の人々にとって重要な食肉供給源である。行政院農業委員会(日本の農林水産省に相当)の農業統計年報によると、台湾産鶏肉の供給量は2015年の1億9700万羽から増加傾向で推移しており、2019年には2億4000万羽(1週間平均で460万3000羽)に達した(図1)。鶏肉需要が増加基調で推移する中、鶏肉の部位や製品に対する需要の変化や、COVID-19の流行が鶏肉消費市場へ及ぼす影響について、聞き取りおよびアンケート形式で調査を実施した。
鶏肉の生産・販売動向は鶏肉価格を反映
2020年第3四半期は需要が増加
台湾の主な鶏肉食鳥処理業者13社を対象に行ったアンケート調査によると、食鳥処理量にCOVID-19が与える影響について、変わらないと回答した業者が8社(46.2%)であったが、減少したと回答した業者はわずか3社(23.1%)であった(図2)。これは、COVID-19の流行により外食の頻度が減少したため、これら業務需要が減少したことが主な原因とみられる。また、台湾の主な加工食品業者7社へのアンケート調査では、いずれも、加工食品の需要はCOVID-19が原因で増加したと回答している。さらに、オンライン販売が鶏肉産業に与える影響について、鶏肉食鳥処理業者13社に行ったアンケート調査結果では、「与える」と「与えない」が同数となった(図2)。
※ALICにより一部追記
台湾最大の鶏肉供給業者である大成長城企業(以下「大成長城」という)によれば、「台湾産鶏肉の90%以上は新鮮な冷蔵鶏肉として供給された後、小売店で販売されるか、加工に向けられる。すなわち、食鳥処理量がほぼ台湾産鶏肉供給量と言える
(注1)。従って、需要が増加すれば価格は上昇し、価格はその時の鶏肉の生産・供給状況を反映している」と説明する。
大成長城が、小売などの販売業者に卸す際の卸売価格を通して2020年の鶏肉需給状況を分析したところ、同年第1四半期はCOVID-19の状況が深刻であったことから、外食市場が低迷し、全部位平均鶏肉価格は例年平均を10〜20%下回った。第2四半期に入ると、価格は緩やかに回復し、第3四半期には平均を10〜20%上回るようになった。特に骨付きもも肉は、例年の1キログラム当たり80台湾ドル(約314円)が、同年第3四半期には100台湾ドル(約393円)以上まで上昇したという。従って、鶏肉市場でのCOVID-19の影響は第3四半期には明らかに弱まり、鶏肉需要が回復したことがうかがえる。
(ALIC注記1 ) 台湾の鶏肉消費量のうち、台湾産鶏肉は約7割である。
近年、骨なし生鮮鶏肉、調理済みむね肉が消費者に最も好まれる商品に
同社によると、骨なし生鮮鶏肉に対する需要が増加を続けており、スポーツ・トレーニングブームがこの需要をけん引しているという(写真1、2)。生鮮むね肉の販売量が大幅に増加する中で、特に伸びているのが調理済みむね肉商品であり、2020年の増加率は前年比20〜30%程度である。台湾産鶏肉から製造された鶏肉製品は、輸入鶏肉の製品に比べて口当たりや質感が良いということで、消費者に人気がある。
鶏肉カット・加工業者12社に対する過去のアンケート調査への回答結果からも同様の状況であることが確認できる。販売量が増加している部位について、うち11社(シェア92%)が、骨なしむね肉の販売量と回答し、続いて9社(同75%)が骨付きもも肉、8社(同67%)がささみと回答した(図3)。このように、骨を取り除いた鶏肉の販売量が増加している。
オンライン店舗は、ブランドの知名度アップにつながる
オンライン販売が鶏肉産業に与える影響については、業者によって見方が異なることも明らかになった。また、オンライン販売に対する投資の意欲も両極化している。前述の大成長城は、オンライン店舗と実店舗を相補的に用い、インターネットを利用してブランドの知名度を引き上げれば、消費者が実店舗で買い物をする際、容易に消費者の目を引き付けることができると考えている。
同社では2020年、COVID-19の影響でオンライン店舗での販売量が著しく増加した。生鮮食品の販売量は約2〜3割、調理済み食品は約4〜6割増加し、今後も販売量が好調であると見込まれているという。台湾産鶏肉の加工と販売を行う
沅泰食品有限公司も、利便性があり、高い調理技術を必要としない調理済み食品は、オンライン販売で一定の顧客を有しており、今後も販売量は増加して行くことが予想されると述べている。ただ、鶏肉は高い利益の得られる製品ではなく、冷蔵や冷凍での配送コストは業者にとって重い負担にもなるという。
台湾ではCOVID-19がある程度制御されたことから、2020年第2四半期以降、外食や観光業は徐々に回復に向かい、鶏肉関連製品に対する需要も次第に回復した。一方で、鶏肉商品のオンライン店舗での販売量が急増する中で、情報があふれ消費者が簡便かつ短時間で商品を購入できるようになった現在では、オンライン市場も競争が激化している。すべての鶏肉関係業者は、いかにして多元的な販売ルートを開拓し、新たな製品を開発して販売経営の柔軟性を増し、販売機会を増やすかといった直面する課題に、引き続き対処して行かなければならない。