以下、食肉販売業と処理業の手引き書について、共通部分が多いことから、最初に食肉販売業を、次いで処理業のポイントを紹介する。
(1) ねらいは「チェックして、ペンで記録!」
手引書の表紙には、色違いでペンの図柄が描かれている。これは、「記録を残し、振り返る」ことで衛生管理のステップアップが図れるとの意味が込められている。すなわち基準Aが危害要因の分析、重要管理点の決定、記録など7原則12手順に関する文書化作業も含め、事業者自らが国際基準に則して大変な作業が求められるのに対し、基準Bは計画書、手順書のひな形を業界団体が定型化するなどして作成する。これにより作業が大幅に弾力化され、結果として、事業者自ら行う重要な手順の一つが「記録」ということになる。
ちなみに、沖縄県のHACCPのちらし「HACCP、何ですかそれ?」の中に、HACCPとは「H:ほんとに、A:あぶないところは、C:ちゃんと決めて、C:チェックして、P:ペンで記録する」とあり、これなら余計な用語の解説なしに理解できる。ただし、この「チェックして、ペンで記録する」ことが、実は簡単ではなく、これまでも関係機関が繰り返し指導してきているものの、なかなか浸透、定着してないのが実態である。その意味で、基準Bの実効を上げる上での最大のねらい、そして取っ掛かりとするところは「記録」となり、記録の習慣化をねらいとして様式類もシンプルなものとしている。
(2) どのような衛生管理が必要か?
食肉販売業を例に対象となる商品、衛生管理を示すと、商品は、食肉、食肉半製品(トンカツ材料、味付け肉など)、さらに惣菜(空揚げ、コロッケなど)となり、衛生管理は、食肉、食肉半製品のみの場合は、「十分加熱されたかどうか」の重要管理すべき工程は家庭などで、店舗では一般衛生管理のみ(食肉処理業も同じ)となる。一方、販売店で惣菜を扱う場合(飲食店営業)は、一般衛生管理に加え加熱調理に伴う重要管理が必要となり、こうした業態に応じて作成する書類も、食肉販売業・処理業は一般衛生管理計画書と記録書の2種類となり、食肉販売業で惣菜を扱う場合は、これに重要管理計画書が加わり3種類となる(図4)。
(3) HACCPって何をすればいいの?
基準Bでは、(1)計画(2)実施(3)確認・記録(4)振り返り(見直しなど)のフロー図を示し、日々の確認・記録を通じて衛生管理のステップアップを図ること、そしてHACCPと言っても難しいことではなく、「計画書のチェックポイントを記録書で日々チェックする」ことであることを示した。さらに、本手引書では最初の数ページから計画書や記録書の記載例(図5、6)を示し、日々求められる作業を前広に「見える化」することで、基準Bの全体像(どのような計画をたて、どのような記録をすればいいのか)をイメージできる構成とするとともに、様式や記載例に沿って簡単に書類が作成できるようにしている。
ア 計画書(一般衛生管理と重要管理計画書)
一般衛生管理計画は、(1)施設・設備の衛生管理、(2)従業員の健康管理など、(3)食肉などの衛生的な取り扱い、(4)器具の洗浄など、(5)異物混入防止、(6)アレルゲン管理などについて、いつ、どのように取り組み、また問題があった場合の改善措置等を示しており、いわばチェックポイントを記したチェックリストとも言える。この記載例では、該当箇所を丸で囲むことで計画書が簡単に作成できるようにしている(図5)。
また、食肉販売業で惣菜を取り扱う場合の重要管理計画書では、商品の温度管理に着目して(1)加熱調理と(2)加熱後、冷却の二つにグルーピングし、チェック方法、問題が発生した場合の改善措置などを示した。日々のチェックでは、焼き上がりの触感や色など見た目で判断し、加熱調理工程(CCP)も、温度測定などの日々のモニタリングをなくし、定期的に試食や中心温度の測定などを行い、温度管理が適正かどうかを確認することとしている。
イ 実施記録書
通常、重要管理を伴う手引書では、一般衛生管理と重要管理それぞれ少なくとも2種類の記録書を必要とするが、その場合、記録作業が煩雑となるばかりか、記録書を紛失してしまう機会も増え、習慣化した記録が途絶えてしまう可能性もある。こうした懸念から食肉販売業では、一般衛生管理と重要管理の二つを1枚に統合し、また問題があった場合のみチェックマークを付け、具体的な問題点については、特記事項に書き留めておく方式としている(図6)。
ウ 手順書例
食肉販売業では、零細な店舗が多く、手引書では簡易な手順書例のみとしているところ、小規模な食肉処理業では、50名近くの規模まで幅があることを踏まえ、実態に応じて手順書例を選択できるよう、さらに衛生管理の水準をステップアップしていただくことを念頭に、他業種の手引書ではほぼ例がない簡易版と詳細版の2段階での手順書例を示している。
(4) 全肉連HPとのリンク
計画書、記録書の様式および記載例、手順書例、ポスター、マニュアル類は、全肉連のホームページ上からダウンロードでき、実態に即して様式をアレンジできるようにしている(図7)。特に計画書では、一から作成せずとも、各事業者の実態に合わせ記載例をそのまま、または若干修正することで利用しやすくしている。