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話題 畜産の情報  2021年7月号

食肉販売業、食肉処理業のHACCP義務化に向けた取り組み

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全国食肉事業協同組合連合会 専務理事 木村 元治

1  はじめに

 昨年6月に改正食品衛生法が施行され、1年間の猶予期間の後、本年6月にHACCP(Hazard Analysis and Critical Control Point)が義務化された。当初、全国食肉事業協同組合連合会(以下「全肉連」という)は、お肉屋さんに義務化などトンデモないとの立場から、HACCP導入には反対していた。
 しかし、義務化はあらゆる食品事業者が対象であり、加えてHACCPと言っても国際基準に沿った「HACCPに基づく衛生管理(基準A)」と弾力運用の「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理(基準B)」の2タイプがあり、その内容が明らかになるにつれ、少しでも早く、基準Bで言うところの「HACCPの考え方」を理解していただき、具体的な関心事項でもある「何をすればいいのか?」「どのような書類をつくればいいのか?」の周知が必要との立場から、平成29年度から関係食肉団体と協力してHACCPに対応した手引書の作成に着手、HACCP導入に向けたセミナーの開催などに取り組んできた。同手引書は、令和元年6月に公表した食肉販売業向け、小規模な食肉処理業向けの「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理(基準B)」と、本年公表予定の大規模な食肉処理業(従事者50人以上の施設)向けの「HACCPに基づく衛生管理(基準A)」の三つの手引書(図1)となるが、ここでは、前者(基準B)の手引書を中心にその概要と取り組みについて紹介したい。

2  HACCP って、なに ?

 手引書の多くが「HACCPとは何か」の説明が抜けていたり、説明があっても難解な用語が多く、「何だかよく分からない、大変そうだなぁ!」と思えるものが少なくない。一方、食肉販売業、処理業では、まず「HACCPの考え方とは何か?」について、パンフレットなどで分かりやすく解説し、周知に努めた。すなわち、HACCPとは、ゴルフ場でのハザード(池やバンカー)を例に「ハサップって、危険なところ(ハザード:注意すべき点)を見つけ出し、しっかり管理(コントロール)すること」とのそのコンセプトを記載し、また「いつも行っている一般衛生管理が基本、それに記録が重要」とことさら高度な衛生管理を求めるものではないことを強調した(図2)。
 加えて「見える化」の一環として、普段行っている一般衛生管理(手洗い、健康管理、温度管理など)のポイントを記したチェックボードや「衛生管理はABCDEで!」のchecKのKは確認、記録のKといった啓発ボード、さらに手洗い、服装・身だしなみマニュアルなどを作成した(図3)。



3  HACCP 手引書(基準B)のポイント

 以下、食肉販売業と処理業の手引き書について、共通部分が多いことから、最初に食肉販売業を、次いで処理業のポイントを紹介する。

(1) ねらいは「チェックして、ペンで記録!」
 手引書の表紙には、色違いでペンの図柄が描かれている。これは、「記録を残し、振り返る」ことで衛生管理のステップアップが図れるとの意味が込められている。すなわち基準Aが危害要因の分析、重要管理点の決定、記録など7原則12手順に関する文書化作業も含め、事業者自らが国際基準に則して大変な作業が求められるのに対し、基準Bは計画書、手順書のひな形を業界団体が定型化するなどして作成する。これにより作業が大幅に弾力化され、結果として、事業者自ら行う重要な手順の一つが「記録」ということになる。
 ちなみに、沖縄県のHACCPのちらし「HACCP、何ですかそれ?」の中に、HACCPとは「H:ほんとに、A:あぶないところは、C:ちゃんと決めて、C:チェックして、P:ペンで記録する」とあり、これなら余計な用語の解説なしに理解できる。ただし、この「チェックして、ペンで記録する」ことが、実は簡単ではなく、これまでも関係機関が繰り返し指導してきているものの、なかなか浸透、定着してないのが実態である。その意味で、基準Bの実効を上げる上での最大のねらい、そして取っ掛かりとするところは「記録」となり、記録の習慣化をねらいとして様式類もシンプルなものとしている。

(2) どのような衛生管理が必要か?
 食肉販売業を例に対象となる商品、衛生管理を示すと、商品は、食肉、食肉半製品(トンカツ材料、味付け肉など)、さらに惣菜(空揚げ、コロッケなど)となり、衛生管理は、食肉、食肉半製品のみの場合は、「十分加熱されたかどうか」の重要管理すべき工程は家庭などで、店舗では一般衛生管理のみ(食肉処理業も同じ)となる。一方、販売店で惣菜を扱う場合(飲食店営業)は、一般衛生管理に加え加熱調理に伴う重要管理が必要となり、こうした業態に応じて作成する書類も、食肉販売業・処理業は一般衛生管理計画書と記録書の2種類となり、食肉販売業で惣菜を扱う場合は、これに重要管理計画書が加わり3種類となる(図4)。

 
(3) HACCPって何をすればいいの?
 基準Bでは、(1)計画(2)実施(3)確認・記録(4)振り返り(見直しなど)のフロー図を示し、日々の確認・記録を通じて衛生管理のステップアップを図ること、そしてHACCPと言っても難しいことではなく、「計画書のチェックポイントを記録書で日々チェックする」ことであることを示した。さらに、本手引書では最初の数ページから計画書や記録書の記載例(図5、6)を示し、日々求められる作業を前広に「見える化」することで、基準Bの全体像(どのような計画をたて、どのような記録をすればいいのか)をイメージできる構成とするとともに、様式や記載例に沿って簡単に書類が作成できるようにしている。

ア 計画書(一般衛生管理と重要管理計画書)
 一般衛生管理計画は、(1)施設・設備の衛生管理、(2)従業員の健康管理など、(3)食肉などの衛生的な取り扱い、(4)器具の洗浄など、(5)異物混入防止、(6)アレルゲン管理などについて、いつ、どのように取り組み、また問題があった場合の改善措置等を示しており、いわばチェックポイントを記したチェックリストとも言える。この記載例では、該当箇所を丸で囲むことで計画書が簡単に作成できるようにしている(図5)。
 また、食肉販売業で惣菜を取り扱う場合の重要管理計画書では、商品の温度管理に着目して(1)加熱調理と(2)加熱後、冷却の二つにグルーピングし、チェック方法、問題が発生した場合の改善措置などを示した。日々のチェックでは、焼き上がりの触感や色など見た目で判断し、加熱調理工程(CCP)も、温度測定などの日々のモニタリングをなくし、定期的に試食や中心温度の測定などを行い、温度管理が適正かどうかを確認することとしている。


 
イ 実施記録書
 通常、重要管理を伴う手引書では、一般衛生管理と重要管理それぞれ少なくとも2種類の記録書を必要とするが、その場合、記録作業が煩雑となるばかりか、記録書を紛失してしまう機会も増え、習慣化した記録が途絶えてしまう可能性もある。こうした懸念から食肉販売業では、一般衛生管理と重要管理の二つを1枚に統合し、また問題があった場合のみチェックマークを付け、具体的な問題点については、特記事項に書き留めておく方式としている(図6)。


ウ 手順書例
 食肉販売業では、零細な店舗が多く、手引書では簡易な手順書例のみとしているところ、小規模な食肉処理業では、50名近くの規模まで幅があることを踏まえ、実態に応じて手順書例を選択できるよう、さらに衛生管理の水準をステップアップしていただくことを念頭に、他業種の手引書ではほぼ例がない簡易版と詳細版の2段階での手順書例を示している。

(4) 全肉連HPとのリンク
 計画書、記録書の様式および記載例、手順書例、ポスター、マニュアル類は、全肉連のホームページ上からダウンロードでき、実態に即して様式をアレンジできるようにしている(図7)。特に計画書では、一から作成せずとも、各事業者の実態に合わせ記載例をそのまま、または若干修正することで利用しやすくしている。

4 おわりに

 以上のように、基準Bでは様式などを簡素化するだけでなく、一方で食肉処理業の手順書例など緻密な構成にしている。その心は、改正食衛法で求められる衛生管理を、まずは記録を習慣化することで、無理なくスムーズに実践し、かつそこで満足することなく、さらにステップアップするとの趣旨からである。
 その延長線上で、現在、公表に向け最終段階にある食肉処理業向けの手引書(基準A)についても、自主的またはスーパーなどの取引先からの要請に応え、基準BからAへのステップアップ、さらには第三者認証規格の取得もにらんだ手引書としている。現時点(5月末)で、基準Bの手引書は114種類と多くの業種・業態で公表されているのに対し、基準Aでは4種類と、業種・業態も極めて限られたものとなっている。こうした中、基準Aの手引書(案)については、食肉処理業以外の他業態を兼ねる場合も勘案し、食肉処理工程を基本としつつも、HACCPの基本的なステップ、留意事項なども幅広く網羅し作成(例えば、参考として「施設・設備の構造などについて」、「衛生モニタリング」、「加熱工程のある製品について」などを記載)しており、関係者からは食品全体の参考となる手引書として大きな期待を寄せられている。いずれにしても、手引書の公表がゴールではない。「仏作って、魂入れず」にならないよう、その第一歩として記録の習慣化を念頭に、現場での導入、普及、定着に向け、地道な取り組みを引き続き進めていくことが重要と考えている。

(プロフィール)
昭和50年3月 大阪府立大学農学部農業工学科 修士課程修了
     現職 全国食肉事業協同組合連合会 専務理事