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話題 畜産の情報  2021年8月号

なかしゅんべつ未来牧場における新規就農の取り組み

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なかしゅんべつ未来牧場 専務取締役 友貞 義照

1 はじめに

 北海道東部に位置する別海町中春別地区は、昭和初期の拓殖時代の入植と、昭和30年代のパイロットファーム事業により開発が進んだ酪農専業地帯です(図)。
 

 JA中春別管内における生乳生産者は156戸、生乳出荷量は12万6600トン(令和2年度実績)と、生乳・個体販売高を含めた総販売額は169億円となっています。
 生乳生産者156戸の中には、昭和57年最初の新規就農者を皮切りに、現在までに26戸の組合員が新規就農者として生乳生産に取り組んでいます。
 従来、新規就農者の受け入れには、一定期間の酪農実習が必要であり、技術・知識を習得した酪農実習生を受け入れていましたが、その後、就農希望者の育成牧場として設立された、有限会社別海町酪農研修牧場での研修を終了した研修生を受け入れていました。
 JA管内では離農跡地に順次新規就農者を受け入れ、地域のコミュニティーを守りながら、生乳生産量の維持を図っていましたが、この地域でも今後何らかの理由により離農が避けられない状況を踏まえ、計画的な新規就農者を育成確保する体制整備が急務であると協議がなされました。
 こうした中、畜産クラスター事業において、JA管内でも地域クラスター協議会を立ち上げ、取り組みの中で新規就農者および後継者をはじめとする担い手育成確保、人材育成のための研修施設の充実を掲げました。また、JA自らこの取り組みを実施するため、直営育成牧場に搾乳施設の建設を計画し、新たに生乳生産と酪農研修事業による、担い手育成確保の取り組みを加えた事業の拡充を図るため、平成29年にJA出資による会社組織への事業移譲を実施し、なかしゅんべつ未来牧場を設立しました。

2 なかしゅんべつ未来牧場の概要

 JA中春別では、組合員からの哺育育成牛を中心とした預託事業を直営牧場方式で運営していましたが、受入頭数の増加に合わせ、さらなる事業の拡大を目的に、平成28年10月にJA出資による法人を設立し、29年4月にJAから育成預託事業を譲受し、同時に生乳生産・酪農研修事業を新たに加え、事業を開始しました。JA出資による研修機能を持ち合わせた生乳生産施設は、北海道内で数多く立ち上げられています。なかしゅんべつ未来牧場では、畜産クラスター事業で整備した酪農関連の最先端技術を駆使した研修施設が稼働しており、当該施設では、家族労働を中心に考え、地域の酪農経営に見合った規模にするため、自動搬送式のパイプラインミルカーによる80頭のつなぎ方式で搾乳機器を整備し、配合飼料の自動給餌機、餌寄せロボット、繁殖管理システム、搾乳舎内ではトラクター作業によるロールパックサイレージ給与など、省力化に向け機械化を進めてきました(写真1)。
 

 研修生には就農する場合、すべての就農候補地でこのような最新機器を導入できるとは限らないが、施設によっては改修可能な範囲で機器を導入できる場合もあるため、この機器を参考にするよう伝えています。
 また、地域内では、規模拡大による飼養頭数の増加に伴い、これに対応するためフリーストール牛舎の建設が進んでいますが、地元組合員に対してはつなぎ方式による家族労働を基本とする場合、搾乳舎のモデルとして参考にしてほしいと推進しています。

3 研修生の受け入れ体制

 研修生の確保対策は、コロナ禍以前はJAと共に新・農業人フェアなど、さまざまなイベントに参加しながら人材確保に取り組んでいましたが、現在は北海道農業担い手育成センターなどと連携しながら、関係機関を通じた就農希望者の確保に当たっています。特に前述の研修施設は、家族経営をモデルにした施設規模・研修内容なので、就農希望者も自分達の営農・生活スタイルに照らし合わせた上で研修先を選択しており、現在は3組の妻帯者と単身女性1名、学生1名の研修生が在席しています。受け入れに当たっては、妻帯者の場合、近隣の生活環境が保育園・学校など、子育てに適しているかを事前に確認していただくことにしており、特に女性の意見を重要な判断材料としています。
 また、地元の保育園・小中学校が組織する「学校区コミュニティースクール」と連携し、教諭や生徒が教育的な視点から酪農を学ぶ拠点として位置付けています。さらに、別海町の乳製品を消費財として取り扱っている生活クラブ生協連合会を窓口として、生産者にとっては「消費者との交流の場」、消費者にとっては、「酪農を知るための援農体験の場」として主に首都圏に所在する同生協組合員を受け入れています。
 新規就農希望者の研修は3年間とし、1年目は搾乳、哺乳を中心に粗飼料収穫、草地の維持管理作業など実地作業を中心に取り組み(写真2)、最終年には実地研修として、目指す経営スタイルに見合った放牧酪農を経験するなど、さまざまな基本的酪農手法を学びます。
 

 学生を対象に短期実習生も受け入れており、日本獣医生命科学大学をはじめ、北海道内外の動物専門学校による学外実習の施設として活用し、研修生の一組が同大学の卒業生であり、就農を目指し日夜研修に励んでいます。例年数多くの学生が実習に訪れ、実際の酪農現場を目で見て体験し、感じたことを広く発信していただき、卒業後の進路選択として、酪農業界を目指してほしいと願っています。
 実地研修の他、獣医師、人工授精師、削蹄師など技術者からの専門知識を習得するとともに、JA職員および系統連合会職員や普及員による座学講座も並行して行っています。
 研修時間は、会社の就業規則に基づき1日8時間労働としています。時間割は、早朝5時から8時、日中9時から11時とし、休息後、夕方は15時から18時の間で作業に当たり、交代制で20時から夜間の見回りを行っています。この間、朝晩の搾乳、哺乳、給餌、除ふん作業、人工授精・獣医治療の立会など、ローテーションを組みながら夫婦を基本として作業に当たっています。特に研修生の中には子どもたちもいることから、家族の時間を大切にするため早朝と夕方の作業は分娩など、緊急時以外は時間厳守で行っています。

4 今後の課題

 当牧場は、株式会社、農地所有適格法人、認定農業者、JA中春別正組合員の資格を有しています。近年当地域でも生産者の規模拡大により就農候補地の確保が難しい現状にあります。
 従来、就農候補地の選定は、組合員の営農中止に係る申出がJAにあり、JAは近隣組合員に跡地利用として隣接する組合員への農地分散か、または、就農候補地とするかを確認し、就農候補地として決定した場合は、研修生の就農場所として関連事業を活用しながら進めていきます。しかしながら、近年は農地分散方式が主流を占めており、研修生を円滑に就農させるためには何らかの仕組みが必要になっています。現在JAおよび関係機関と協議を重ねながら、農地所有適格法人として離農跡地、共同牧場農地を取得し、会社全体の粗飼料収穫地および研修生の現地研修の場として活用するとともに、将来に向け就農希望者に分譲するなど具体策を検討しています。
 以上の通り、酪農専業地帯でも酪農家戸数の減少に歯止めがかからず、規模拡大による生乳生産量は確保できるものの、酪農家戸数の減少は地域の衰退につながり、コミュニティーの維持と地域経済に大きな打撃となります。このような状況の中で、地域の中心となるJAと連携しながら、この地を就農の場所として選択した研修生のためにも、就農に向けて「相談窓口・酪農研修・就農地確保・営農開始」の流れを確立するとともに、酪農分野の担い手育成確保対策を行うことで、持続可能な地域づくりに貢献できるよう、事業の推進に取り組んでいます。

(プロフィール)
1961年2月 北海道別海町生まれ
1979年4月 JA中春別 入組
購買部長、営農部長、生産部長を歴任
2016年10月 JA出資法人(株)なかしゅんべつ未来牧場設立在職中に専務取締役就任
2017年3月 JA中春別 退職