画像印刷物を送付した40名の回答者のすべてから有効な回答を得た。
(1) 赤身型−しもふり型の判別について
2−(2)における設問1)の結果、すなわち各画像を「赤身型」「しもふり型」のいずれかに判別させた回答について、脂肪含量を要因に含めたモデルに関し解析した各効果の検定結果を表2に示す。
回答者の性別、年齢層および評価順序は牛肉画像の「赤身型」「しもふり型」の判別に有意な影響を及ぼさなかった(P>0.05)一方、脂肪含量はこの判別に有意な影響を及ぼした。そこで、推定したモデルにおける脂肪含量と回答者の判定の関係を図に表すとともに、「しもふり型」と判定される確率が0.5となる、すなわち「赤身型」「しもふり型」と判定される確率が等しくなる脂肪含量を求めた(図2)。
その結果、脂肪含量が増加するにしたがって「しもふり型」と判定される確率が増加し、脂肪含量が14.1%に到達するとその確率は0.5を超えた。このため、「赤身型」「しもふり型」の判定を分ける脂肪含量の境界値は14.1%であると推定された。
続いて、同様に各画像を「赤身型」「しもふり型」のいずれかに判別させた回答について、画像解析によって得られた脂肪面積割合を要因として解析した各効果のtype3の検定結果を表3に示す。
回答者の性別、年齢層、および評価順序は牛肉画像の「赤身型」「しもふり型」の判別に有意な影響を及ぼさなかった(P>0.05)一方、脂肪面積割合は、脂肪含量と同様に、この判別に有意な影響を及ぼした。そこで、推定したモデルにおける脂肪面積割合と回答者の判定の関係を図に表すとともに、「しもふり型」と判定される確率が0.5となる、すなわち「赤身型」「しもふり型」と判定される確率が等しくなる脂肪面積割合を求めた(図3)。
その結果、脂肪面積割合についても、脂肪含量と同様に、増加するにしたがって「しもふり型」と判定される確率が増加し、脂肪面積割合が0.189に到達するとその確率は0.5を超えた。このため、「赤身型」「しもふり型」の判定をわける脂肪面積割合の境界値は0.189であると推定された。
これらのモデルの予測精度について、モデルからの予測値と回答者からの回答データから算出した実測値の関係から検証した(図4)。
その結果、脂肪含量、脂肪面積割合のいずれを説明変数として用いた場合であっても、構築したモデルは回答者における牛肉画像の「赤身型」「しもふり型」判定をよく説明していた。「しもふり型」と判定した確率のモデルからの推定値に関する決定係数は、脂肪含量を説明変数として用いた場合には0.8092、脂肪面積割合を説明変数として用いた場合には0.8922であり、脂肪面積割合を説明変数として用いた方が予測の精度が高いものと考えられた。本研究で用いたサンプルにおける脂肪含量と脂肪面積割合の相関係数は r=0.967と極めて高いが、脂肪含量が15%未満の16サンプルに限れば相関係数はr=0.605と必ずしも高いものではなく、これが説明変数として脂肪含量を用いた場合と脂肪面積割合を用いた場合の「しもふり型」と判定した確率の予測精度の違いの原因と考えられた。
(2) 「確実に赤身型と言える」もしくは「確実にしもふり型と言える」判定について
2−(2)における設問2)の結果、すなわち各画像を「赤身型」「しもふり型」「どちらとも言えない」から選択させた回答について、「赤身型」と判定した回答を「確実に赤身型と言える」=「1」、「どちらともいえない」「しもふり型」と判定した回答を「確実には赤身型と言えない」=「0」と置いたデータについて、脂肪含量を説明変数としたモデル、および脂肪面積割合を説明変数としたモデルで、(1)と同様の方法で解析を行った。
併せて、2−(2)における設問2)の結果、すなわち各画像を「赤身型」「しもふり型」「どちらとも言えない」から選択させた回答について、「しもふり型」と判定した回答を「確実にしもふり型と言える」=「1」、「どちらともいえない」「赤身型」と判定した回答を「確実にはしもふりと言えない」=「0」と置いたデータについて、脂肪含量を説明変数としたモデル、および脂肪面積割合を説明変数としたモデルで、(1)と同様の方法で解析を行った。
その結果、「確実に赤身型と言える」判定および「確実にしもふり型と言える」判定に対しても、脂肪含量および脂肪面積割合は統計的に有意(P<0.05)な効果を有していた。具体的には、脂肪含量および脂肪面積割合が増加するに従って「確実に赤身型と言える」と判定される確率が低下した。脂肪含量および脂肪面積割合が増加するに従って「確実にしもふり型と言える」と判定される確率が上昇した。これらの解析結果から、「確実に赤身型と言える」判定の境界となる脂肪含量および脂肪面積割合、「確実にしもふり型と言える」判定の境界となる脂肪含量および脂肪面積割合を求めた。
(1)の結果も含めると、脂肪含量については、一般消費者が「確実に赤身型」であると判定するためには11.6%を下回る必要があり、「赤身型」「しもふり型」の境界は14.1%
(注)、「確実にしもふり型」と判定するためには14.6%を上回る必要があるものと推定された。また、脂肪面積割合については、一般消費者が「確実に赤身型」であると判定するためには0.15を下回る必要があり、「赤身型」「しもふり型」の境界は0.189
(注)、「確実にしもふり型」と判定するためには0.207を上回る必要があるものと推定され、一般消費者が牛肉を「赤身型」と判定する脂肪交雑の度合いを推定することができた。
(注)(1)の分析結果
(3) 総合考察
日本食品標準成分表2020年版(八訂)においては、「リブロース」「赤肉」の脂肪含量は和牛肉において40.0%、乳用肥育牛肉において17.8%、交雑牛肉において32.3%、輸入牛肉においては9.1%であり、前節で示した基準による推定を行う場合は、輸入牛肉以外の乳用肥育牛肉を含めたすべてが、少なくとも「赤身型とは言えない」ということとなる。また、熊本系の褐毛和種における「赤身を強調した」「赤毛和牛『評価基準』」策定において、肉質については「BMS No2〜4」、粗脂肪含量の実測値として10〜30%程度までが含まれることが要件とされている(守田、2017)が、前節の結果からは、「赤身を強調した」基準で評価されているものであっても、一般消費者においては「しもふり型」であると認知される可能性が高いと考えられる。このように、黒毛和種以外の牛肉を「赤身型」を差別化要素として消費者に訴求しようとしても、消費者の「赤身型」に対する認知とはずれが出てしまうという、「背景と目的」で指摘した「認知価値と提供価値のギャップ」に当てはまってしまう可能性がある。
脂肪面積割合については、一般消費者が「確実に赤身型」であると判定するためには0.150を下回る必要があり、「赤身型」「しもふり型」の境界は0.189、「確実にしもふり型」と判定するためには0.207を上回る必要があるものと推定された。深谷ら(2019)によれば、格付BMS.Noが3の牛枝肉切開面のロース芯においても脂肪面積割合は0.2を上回っているとともに、BMS.Noが2の場合であっても脂肪面積割合のみでは0.1を少し上回るものから0.3を大きく上回るものまでレンジが極めて広い。これらの数値を前節の結果に単純に当てはめた場合、BMS.Noが3であっても一般消費者は基本的には「しもふり型」と認識するものと考えられるとともに、BMS.Noが2であってもすべてが「赤身型」と認識されるとは限らないと考えられる。他方、BMS.Noは脂肪面積割合のみでは正確に判定ができず、粗ザシや小ザシの程度を表す「あらさ指数」や「新細かさ指数」といった脂肪交雑の形状に関する画像解析形質(口田、2015)をモデルに含める必要があることが明らかになっている(深谷ら、2019ほか)。一般消費者における「赤身型」「しもふり型」の判定においては、図4で示した通り、脂肪含量よりも実際の外観である脂肪面積割合を説明変数として用いる方が推定の精度が高いが、より消費者による判定を精度高く推定するためには、BMS.Noの推定と同様に脂肪交雑の形状に関するパラメータも含める必要がある。