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海外情報 畜産の情報 2021年9月号

新型コロナウイルス感染症関連の情報

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調査情報部
 調査情報部では世界的な新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、各国政府の対応など需給に影響を与えるタイムリーな情報を、海外情報としてホームページで随時掲載しております。
(掲載URL:https://www.alic.go.jp/topics/index_abr_2021.html
 ここでは、前月号までにご紹介したもの以降、7月末までに掲載したものをまとめて紹介いたします。

【北米】

1(令和3年7月12日付)4月の外食支出額、コロナ禍前の水準を上回る(米国)

 米国農務省経済調査局(USDA/ERS)が毎月更新する「Food Expenditure Series」によると、2021年4月の家庭内向け食品(以下「家庭内消費」という)支出額は751億米ドル(前年同月比7.3%増)(8兆4112億円:1米ドル=112円)、家庭外向け食品(以下「外食」という)支出額(注)は753億米ドル(同110.8%増)(8兆4336億円)となり、外食が家庭内消費を14カ月ぶりに上回った(図1)。
 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が拡大する前の2020年2月以前は、飲食店の売り上げが好調であり、食品支出額は外食が家庭内消費をおおむね上回って推移していた。しかし、2020年3月以降COVID-19の拡大を受けて、飲食店の営業停止や営業時間の短縮などから食品支出は家庭内消費に大きくシフトした。その後のワクチン接種の進展などから一時期に比べて感染状況は落ち着きを見せており、飲食店の営業もおおむね戻りつつある。このため、2021年4月の外食支出額は前年同月比では2倍以上、2019年(2年前)比では5.5%増となった。

(注) 飲食店で購入した持ち帰り商品などを含む。

 
 
 USDA/ERSが7月2日に公表した「Share of income spent on food in U.S. dropped 10 percent in 2020 to historic low」によると、2020年の可処分所得に占める食費の割合は8.6%(前年比1.0ポイント減)と過去60年間で最も低い水準となった(図2)。これは、外食支出額が大きく減少したことに加え、米国史上最大規模となる経済対策の一環として実施された個人への現金給付や失業保険の追加給付などにより、可処分所得が大きく増加したことが要因とされている。

 

【調査情報部 河村 侑紀】

2(令和3年7月21日付)食肉・食鳥処理の新規参入促進に向けて5億米ドルの支援を発表(米国)

 2021年7月9日、米国農務省(USDA)は畜産農家にとっての新たな市場へのアクセスを容易とすべく、また、公正で競争力を有して回復力のある市場とすべく、食肉・食鳥処理加工能力の向上に向けて米国救済計画(American Rescue Plan)資金から5億米ドル(560億円:1米ドル=112円)を拠出する食肉・食鳥処理加工能力向上支援を発表した。
 

食肉・食鳥処理加工能力向上支援

 USDAによると、補助金交付や融資などにより新たな食肉・食鳥処理施設の整備・運営を支援することで、現状の食肉・食鳥の処理・加工部門に生じている寡占化を改善する狙いがあるとされている。
 また、USDAは、食肉・食鳥処理・加工部門の競争力強化に向けた意見を幅広く募るため、利害関係者を対象とする情報提供要請(RFI:Request for Information)を実施した。そのほか、食肉処理・加工部門に関わる関係業界との会合を一般参加者も募って開催する予定としている。
 今回の発表は、バイデン大統領の競争促進に関する大統領令に基づき、USDAがより弾力性のあるサプライチェーンと、より適切なフードシステムの構築に向けて取り組む措置の一つである。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック(世界的流行)は、畜産農家や食品関係事業者、さらには、消費者にも大きな混乱をもたらし、脆弱ぜいじゃく化したフードシステムを露呈させた。そして、規模の大きさが重要視される食肉・食鳥処理システムの中で、畜産農家や食肉処理・加工部門に従事する者の収入は年々減少しているとされる。今回の発表に際し、ビルサック農務長官は、「USDAは生産者と消費者のために、フードシステムにおけるパワーバランスを取り戻し、適切かつ公平な多くの市場を構築するために予算を措置する」との目的を示した。また、「これはフードシステムを変革する千載一遇のチャンスであり、これにより畜産農家や労働者に価値を与え、消費者には手頃な価格で多種多様な価値に富む食品が提供されるようになる。さらにUSDAの予算措置は民間企業や州・地域からの資金拠出を促し、全国的な広がりとなるものと確信している」と幅広い効果の普及を表した。
 

これまでに発表されたUSDAによる取り組みおよび支援措置

 USDAは7月初旬、いわゆる「Build Back Better(より良い再建を)」構想を通じて、重要なサプライチェーンの強化に総額40億米ドル(4480億円)以上を措置する計画を発表した。同計画はバイデン政権が掲げた「独占と戦い、経済全体の競争を促進する」という公約の一環であり、今後数カ月の間にも、同構想の下で追加措置を行う予定とされている。なお、これまでにUSDAが発表した同計画に基づく支援は以下の通りである。

(1)食肉・食鳥処理加工能力向上支援 【5億米ドル】
 食肉・食鳥処理加工業における競争力のある新規参入を促進するために、補助金、融資および技術支援により、新たな食肉・食鳥処理施設の整備・運営を支援する。これにより、食肉・食鳥分野における寡占化を改善し、畜産農家に販売先の選択肢を与え、公正な価格での取引に資することとする。

(2)小規模・超小規模食肉・食鳥処理施設の体制強化 【1億5520万米ドル】
① 小規模・超小規模施設における食肉加工能力の強化(5520万米ドル)
 「食肉・食鳥検査準備助成(MPIRG:Meat and Poultry Inspection Readiness Grant)プログラム」に5520万米ドル(61億8240万円)の予算を措置し、確実な検査・食品安全基準を維持しつつ、食肉・食鳥の処理・加工能力と効率の向上を支援する。

(注1) 詳細は、「【海外情報】米国農務省、食肉および食鳥処理施設の能力向上に5520万米ドルを投入(米国)(令和3年7月14日発)」を参照。

② COVID-19に影響を受けた小規模・超小規模施設への緊急支援(1億米ドル)
 1億米ドル(112億円)の予算を措置し、COVID-19による影響により大規模施設に出荷できなかった家畜を受け入れた小規模・超小規模施設に対して、処理・加工などに係るコストの増加分を支援する。

(3)家族経営の畜産農家のための条件の公平化 【制度整備】
① パッカー・ストックヤード法を強化し、競争力のある市場の再構築
 パッカー・ストックヤード法は公正で競争力のある市場を確保し、食肉業界の大企業による不正行為から農家を守るために作られた法律である。同法を効果的に執行するため、以下の3点について規則を制定する。
 @)畜産農家に対する不公正で欺瞞ぎまん的な行為、不当な優遇、不当な偏見といった同法における違反行為の明確化
 A)新たな「家きん生産者トーナメントシステム」による鶏肉処理に対する抑圧的な慣行の排除
 B)同法に基づき訴訟を起こす際、訴訟当事者が競争に害を及ぼすことを証明する必要がないことの明確化

(注2) 詳細は、「【海外情報】米国農務省、生産者や消費者の利益確保に向けた法律の強化に着手(米国)(令和3年6月24日発)」を参照。

② 畜産農家による新たな市場へのアクセス向上および収益力促進に係る計画の策定
 競争力強化に関する大統領令に基づき、地域の食肉流通システムへの支援などによって畜産農家が市場にアクセスする機会を増やす計画を策定する。さらに、小売業の市場への集中などが家族経営に与える影響を分析し、主要市場における取引の透明性と説明責任を強化する政策を提案する。これらの取り組みにより、畜産農家は売買方法の選択肢を増やすことができ、一部の偏った加工業者や流通業者のみに依存せずに済むようになる。

③ 「Product of the USAラベル」の全面的な見直し
 米国内の畜産農家が消費者を欺くような外国企業と競争しなくても済むように、米国産基準の執行を強化した米連邦取引委員会(FTC)の決定を受け、2021年7月1日にUSDAが発表した製品ラベル「Product of the USAラベル」を全面的に見直し、ラベル表示に関する新しい規則を制定する。

業界の反応
 全米肉牛生産者・牛肉協会(NCBA)(注3)は、USDAの支援措置の発表を受けてプレスリリースを発出し、肉用牛農家が抱えた深刻な問題に迅速に対応したとしてバイデン大統領とビルサック農務長官に謝意を表明した。NCBAのレイン副代表は、「われわれの最優先課題は、生産者のビジネス環境を向上させることであり、バイデン大統領とビルサック長官が「Product of the USAラベル」の改善のほかにも、地域の処理・加工能力の向上に向けた支援など生産者に影響を与える最重要課題に対してリーダーシップを発揮し、迅速に行動してくれたことに感謝したい。今回の支援措置は、安定した牛肉のサプライチェーンの確保、生産者の収益性向上につながる重要なステップである」と述べた。
 一方で、北米食肉協会(NAMI)(注4)は同日、今回の支援措置について否定的な声明を発表した。NAMIのポッツCEOは、「パッカー・ストックヤード法」に関連する規則制定を求めた大統領令は、生産者や消費者に意図しない結果をもたらすことになるだろう。市場への政府の介入は、パンデミックにより経済的な困難が見られる中で、消費者の食費を上昇させることになる。そして、訴訟の門戸を開くことになり、畜産農家が家畜を自由に販売することができなくなる。今回、USDAが発表した取り組み・提案はこれまでにも繰り返し検討され、そして却下されてきた。また、食肉・食鳥市場は市場構造が問題なのではなく、労働力不足やCOVID-19のパンデミックに起因する課題が問題となっているのだ。これらの業界が直面する問題について、われわれは政府と議論し、協力することが可能だ」と述べた。


(注3)肉用牛生産者のための全国団体。米国の肉用牛生産に係る経済的、政治的、社会的利益を促進。

(注4)米国の牛肉、豚肉、七面鳥などの処理・加工業者と流通関係業者を代表する業界団体。食肉・食鳥業界に影響を与える法律、規制などの最新情報や分析結果を会員に提供するほか、業界を代表した政策提言を行う。


【調査情報部 国際調査グループ】

【オセアニア】

(令和3年7月14日付)2021/22年度の生乳生産見通し、収益は改善も生産は伸び悩み(豪州)

 豪州の酪農業界団体であるデイリー・オーストラリア(DA)は6月30日、最新の酪農の生産見通しとなる「Situation and Outlook Report」を公表した。これによると、2021/22年度(7月から翌6月)の生乳生産量は88億〜89.7億リットル(906万〜924万トン相当、前年度比0〜2%増)とわずかに増加が見込まれている。
 2020/21年度は、前年度の干ばつから一定の降雨により放牧環境が改善され、飼料価格も低水準で推移した。また、中国を中心とした乳製品の輸入需要により、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による国際相場への影響を最小限に抑えられたことで生産者支払乳価も高い水準で推移した。この結果、酪農生産者の88%で経営黒字が見込まれ、そのうちの63%では黒字幅が過去5カ年度平均を上回るとされている。
 2021/22年度については、引き続き高い乳価水準が予想される一方、記録的な牛肉価格の高騰(注1)に伴い、一部の酪農生産者は乳用牛を食肉用に転用するなど頭数規模の縮小が行われているほか、COVID-19に伴う入国制限による労働力不足などから生乳生産量の伸び悩みが指摘されている。
 

(注1)詳細は、『畜産の情報』2021年6月号「肉牛取引価格が900豪セントを超え、過去最高を記録」(https://www.alic.go.jp/joho-c/joho05_001665.html)を参照されたい。
 

 DAが行った最新の全国酪農生産者調査(NDFS)(注2)では、調査対象となった酪農生産者の64%が酪農業の将来について肯定的に感じており、2004年調査開始時以降で最低となった2019年調査時から30%上昇したとされている。また、80%の酪農生産者が自身の経営を前向きに捉え、経営の黒字が見込まれている。
 こうした状況を背景に、酪農生産者による農場への投資が活発化している。調査対象となった酪農生産者の91%が過去2年間に投資を行ったほか、88%が今後2年間に投資を行う意向を持っているとされ、特に機械化やかんがい設備などが投資対象の上位に挙げられている。これらの投資が加速する一因として、COVID-19に伴う労働力不足を機械化で補うためとされている。
 

(注2) NDFS(全国酪農生産者調査):DAにより2004年から毎年実施され、豪州の酪農生産者の行動や意識を包括的に把握することを目的としている。毎回、約1000人の酪農生産者が無作為に選ばれ、2月から3月にかけて電話によるインタビューが行われる。
 

 一方で、酪農生産者における今後の期待と収益性の向上は、乳牛頭数の拡大や生乳生産量の増加とはつながっていないとの見方もある。DAは、NDFSでは現状の経営規模を維持するとの意向を持つ酪農生産者の割合が、規模拡大を目指す者の倍以上となっていることをその要因に挙げており、酪農生産者が成長よりも事業の統合や負債の返済を重要視しているためとしている。また、干ばつなどの気候条件に対する継続的な懸念や、労働力確保への不安もあり、中でも飼養頭数500頭以上の酪農生産者の50%弱と飼養頭数規模を拡大させている酪農生産者の32%が、今後6カ月間の労働力の確保に懸念を抱いているとしている。


【調査情報部 廣田 李花子】