2021年の豚肉生産量は引き続き増加の見込み
米国農務省海外農業局(USDA/FAS)の7月12日の公表によると、2020年のブラジルの豚肉生産量は前年比3.8%増の412万5000トンとされている(図11)。また、輸出が引き続き堅調であることから、21年は同3.8%増の428万トンと長期的な増加傾向が継続すると予測している。豚肉の増産は、中国でのアフリカ豚熱発生に伴う同国からの強い代替需要のほか、米ドルに対するレアル安の進行により生産者の増頭意欲が高まったためとみられる。
海外需要が堅調に推移する一方、国内の豚肉価格は、飼料価格の上昇に伴い大幅に上昇した。20年の豚肉価格(パラナ州の生体取引価格)は、11月に年初より57.9%上昇し、その後やや下落したものの依然高水準で推移している(図12)。このため、20年の国内消費量は、大幅な国内価格の上昇に加え新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大に伴う経済状況の悪化などにより前年を下回った。
2020年中国向け豚肉輸出量はほぼ倍増、3年連続で大幅増
ブラジル開発商工省貿易局(SECEX)によると、2020年の豚肉輸出量は、前年比37.2%増の90万1103トンとされ、2年連続で前年を大幅に上回った(表7)。中国をはじめ海外からの堅調な需要に加え、20年初頭から米ドルに対するレアル安が進み、その後もレアル安の状況が続いたためとみられる(図13)。
輸出先別に見ると、中国向けは、同国でのアフリカ豚熱発生に伴う代替需要により同98.8%増の49万8057トンとほぼ倍増し、3年連続で大幅に増加した。全輸出量に占める中国向けの割合は、19年より17.2ポイント増加して55.3%となった。全体の輸出量が増加する中、中国向け以外の輸出量も増加している。特にシンガポール向け(同49.1%増)、ベトナム向け(同205.7%増)、日本向け(同94.9%増)が大幅に増加した。
21年1〜6月の豚肉輸出量の実績を見ると、前年同期比18.8%増の50万497トンと増加傾向が継続している。中国向けは、同国内での豚肉生産の回復が急速に進む一方、依然として同27.0%増の28万6594トンと前年同期を上回っている。ただし、21年5月には、19年3月以来2年2カ月(26カ月)ぶりに前年同月を下回った。
近年の輸出動向を見ると、ロシアは16〜17年に全輸出量の4割程度を占める最大の輸出先であったが、17年12月〜18年10月の間、同国がブラジル産豚肉の輸入禁止措置を講じたことから、この間輸出が行われなかった。ロシアによる輸入禁止措置解除後、19年は3万5523トン、20年は101トンと同国向け輸出は回復していない(図14)。これは、ロシアの豚肉生産が増加したことやルーブル安で推移する為替相場などが背景にあるとみられる。ロシア向けが急減する一方で中国向けが大幅に増加し、同国向け輸出量は17〜20年の3年間で10.2倍となった。また、ブラジルでは、中国向け以外にもチリ、ウルグアイなどの南米向け、シンガポール、ベトナム、フィリピン、日本、韓国などアジア向けや米国向け輸出が増加した。
豚主産地の南部地域3州が口蹄疫ワクチン非接種清浄地域に
国際獣疫事務局(OIE)は5月27日、ブラジルの6地域を口蹄疫ワクチン非接種清浄地域として認定することを決定した。この結果、ブラジルにおける口蹄疫ワクチン非接種清浄地域は、認定済みのサンタカタリーナ州と合わせ5州の全域および2州の一部となった。
ブラジルでは、南部地域が最大の豚生産地で同国全体の49.5%の豚が飼養されている。今回の決定によりサンタカタリーナ州に加え、パラナ州およびリオグランデドスル州の南部地域3州がすべて口蹄疫ワクチン非接種清浄地域となった。動物性タンパク質協会(ABPA)では、今回の決定により今後、これらの州からの日本、米国、韓国、チリ、フィリピンなど世界で最も要件、基準の厳しい地域への輸出が進む可能性があるとしている
(注)。
(注)海外情報「口蹄疫ワクチン非接種清浄地域として6地域を追加(ブラジル)」(https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_002959.html)を参照されたい。
(調査情報部 井田 俊二)