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国内の需給動向【令和2年の農業物価指数】 畜産の情報 2021年10月号

令和2年の農業物価指数

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 農林水産省が令和3年7月29日に公表した「令和2年 農業物価指数―平成27年基準―」について、概要を以下の通り紹介する。
 農業物価指数とは、農業における投入・産出の物価の変動を表すもので、農産物価格指数と農業生産資材価格指数の2種類がある。農産物価格指数は、農家が販売する農産物の生産者価格に関する指数であり、農業生産資材価格指数は農家が購入する農業生産資材価格に関する指数である。なお、農業物価指数は、基準年の平成27年を100とした数値となっている。
 令和2年は、農産物価格指数(総合価格指数(以下「総合」という))は111.0、農業生産資材価格指数(総合)は101.8となっており、10年間の推移を見ると、いずれも上昇傾向にある(図25)。農産物価格指数(総合)は平成28年以降、農業生産資材価格指数(総合)は30年以降、100を上回って推移しており、上昇幅は、農産物価格指数(総合)が農業生産資材価格指数(総合)を上回っている。

【農産物価格指数】畜産物は前年からわずかに低下

 農産物価格指数(総合)(注1)は、畜産物、米などの価格が下落したものの、果実、野菜などの価格が上昇したことにより、前年比1.6%上昇し111.0となった(図26)。
 畜産物の指数は、肉用牛や和子牛などの価格が下落したことから、同2.1%低下の102.0となった。

(注1)農産物価格指数(総合)の算出に用いる類別のウエイトは、全体を100とした場合、米は22.73、いもは2.13、野菜は25.82、果実は10.97、花きは5.02、畜産物は29.00などとなっている。


 畜産物のうち肉用牛を見ると、前年はいずれも100を上回ったのに対し、令和2年は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響により、いずれも下回った(図27)。前年からの騰落率が最も大きかったのは乳用肥育(交雑種)で、同11.7%低下の89.8となった。また、めす肥育和牛は同11.0%低下の93.5、去勢肥育和牛は同9.8%低下の95.9、乳おす肥育(ホルスタイン種)は6.4%低下の99.0と、いずれも平成28年以降初めて100を下回る結果となった。
 月ごとの指数の動向を見ると、COVID-19の影響によるインバウンド需要や外食需要の減退などによる枝肉卸売価格の下落により、4月には、めす肥育和牛が77.0、去勢肥育和牛が74.8、6月には乳用肥育(交雑種)が79.4まで低下した(図28)。その後、緊急事態宣言解除後の経済活動の再開や輸出の回復などに伴う枝肉卸売価格の上昇に伴い、12月にはめす肥育和牛が111.3、去勢肥育和牛が113.0、乳用肥育(交雑種)が101.4まで上昇し、動きの大きい1年となった。一方、乳おす肥育(ホルスタイン種)は、他品種に比べて枝肉卸売価格の下落が緩やかだったことから、指数も緩やかな低下傾向で推移した。





 肥育用乳子牛および和子牛の指数を見ると、近年、子牛価格の上昇などにより上昇傾向にあったが、2年はCOVID-19の影響により肉用牛同様、いずれも前年を下回った(図29)。前年からの騰落率が最も大きかったのは肥育用乳用(交雑種)で、同15.1%低下の107.0となった。また、和子牛(おす)は同11.9%低下の104.4、和子牛(めす)は同11.2%低下の103.7、肥育用乳用おす(ホルスタイン種)は同7.4%低下の115.6となった。
 月ごとの指数の動向を見ると、肉用牛に連動するものになっており、黒毛和種や交雑種の肉用子牛価格が、COVID-19の影響による枝肉卸売価格の下落に伴い低下し、年末にかけて枝肉卸売価格の上昇に伴い上昇したため、肥育用乳用(交雑種)、和子牛(おす)、和子牛(めす)の指数も同様に推移した(図30)。なお、肥育用乳用おす(ホルスタイン種)は、近年の生産頭数の減少などにより、乳用種の肉用子牛価格が堅調に推移したことから、指数の振り幅はほかの品目と比べて小さくなった。

 

 肉豚の指数は、COVID-19の影響による巣ごもり需要が旺盛となったことなどから、同5.7%上昇し97.5となった(図31)。
 枝肉卸売価格は、と畜頭数が減少する夏場に上昇し、と畜頭数が増加する秋に下落する傾向がある。指数も同様の傾きとなり、2年の月ごとの指数の動向を見ると、おおむね例年と同様の傾向で推移した。2月および3月の指数は暖冬の影響で増体が進み供給量が増加したため枝肉卸売価格が下落したことから前年同月より低い水準であったが、その後、COVID-19の影響による巣ごもり需要が高まったことから枝肉卸売価格が前年を上回る水準で推移したことに伴い、指数も4月以降はいずれの月も前年同月を上回って推移した。
 なお、平成28年以降で100を上回ったのは29年のみで、これは、豚流行性下痢(PED)の発生により出荷頭数が減少したことなどから枝肉卸売価格が例年より高い水準であったことによると考えられる。


 ブロイラーの指数はCOVID-19の影響による巣ごもり需要が旺盛となったことなどから、同1.9%上昇し、99.0となった(図32)。
 鶏肉生産量は、消費者の根強い国産志向や健康志向などを背景に増加傾向で推移している。鶏肉は、部位により仕向け先が異なることから、主にテーブルミートに仕向けられるもも肉と、総菜やチキンナゲット、ソーセージなど主に加工・業務利用の多いむね肉で価格動向は異なる。国内の生産拡大により需要を上回る供給が続いたことなどから、令和元年の卸売価格が前年を下回ったことに伴い、元年のブロイラーの指数も前年を下回った。2年に入っても同様の傾向が続き、月ごとの指数は前年同月を下回って推移していたものの、もも肉はCOVID-19の影響による巣ごもり需要で量販店を中心に引き合いが強かったこと、むね肉は加工用および量販店需要が好調であったことなどから、卸売価格が前年を上回って推移したことに伴い、指数も5月以降はいずれの月も前年同月を上回って推移した。

 
 生乳の指数は同0.5%上昇し、106.1となった(図33)。基準年となる平成27年から5年連続の上昇となった。また10キログラム当たり全国年平均価格は1055円となった。
 農業物価統計調査(平成27年から令和元年の各年確報)における生乳の総合乳価は、生乳取引価格から集送乳経費や手数料を控除し、加工原料乳生産者補給金などを加算したものであり、酪農家の受取乳価であると考えられる。総合乳価は、平成19年度以降の配合飼料価格の高騰もあり、20年度に飲用・乳製品向けいずれも生乳取引価格が引き上げられ、その後も上昇して推移している。


 鶏卵の指数は、同1.4%上昇し81.3となった(図34)。
 近年の鶏卵の需給動向を見ると、鶏卵を使用したデザートやマヨネーズなどの加工向けを含めた旺盛な需要を背景に鶏卵の生産拡大が進み、需要を上回る供給が続いたことから、鶏卵の指数は28年以降いずれの年も100を下回って推移している。
 令和2年は、COVID-19の影響により、業務・加工用の鶏卵の需要が大幅に減少したことから卸売価格は低水準で推移したが、月ごとの指数の動向を見ると、1〜4月において前年同月を大きく上回ったことから、年全体で見ると3年ぶりに前年を上回る結果となった。

【農業生産資材価格指数】飼料は前年からわずかに上昇

 農業生産資材価格指数(総合)(注2)は、近年上昇傾向にあり、令和2年は、元年10月の消費税率引き上げなどの影響により、農機具、賃借料および料金などの価格が上昇したものの、畜産用動物、光熱動力の価格が下落したことにより、前年比0.1%低下し101.8となった(図35)。
 農業生産資材のうち畜産用動物の指数も同様に近年は上昇傾向にあったが、2年はCOVID-19の影響により前半の肉用牛子牛の価格が下落したことなどが影響し、同10.3%低下の106.4となった。前年からの騰落率が最も大きかったのは肉用牛子牛(乳用交雑種)で同27.3%低下の105.4となり、その他の肉用牛子牛(繁殖用)(去勢)(乳用肥育交雑種)もいずれも前年から低下した。一方、肉用専用種の初生びなや卵用鶏の大びななどは上昇し、それぞれ同1.7%上昇の103.0、同3.9%上昇の104.9などとなった。

(注2)農業生産資材価格指数(総合)の算出に用いる類別のウエイトは、全体を100とした場合、畜産用動物は5.88、肥料は10.35、飼料は19.25、光熱動力は9.12、農機具は18.82、賃借料および料金は10.56などとなっている。


 
 飼料の指数を見ると、同0.6%上昇の97.9となった。なお、平成28年以降は飼料価格の下落などにより、いずれの年も100を下回っている。飼料費が畜産の経営コストに占める割合は高く、繁殖牛(子牛生産)は39%、肥育牛は31%、肥育豚は62%、ブロイラー経営は60%、生乳は北海道で41%、都府県で48%、採卵経営は58%となっている(注3)
 飼料のうち配合飼料について見ると、令和2年は同0.5%上昇の97.9となった。平成28年は米国でとうもろこしが豊作だったことと併せ、海上運賃の下落や為替の円高傾向などにより配合飼料価格が下落したことから指数も低下し、29年も前年を下回った。その後は、配合飼料価格の上昇により、前年を上回って推移している。令和2年を品目別に見ると、肉用牛肥育用は同0.8%上昇の99.3、幼豚育成用は同0.1%低下の96.1、若豚育成用は前年同の97.1、ブロイラー用(後期)は前年同の95.1、乳用牛飼育用は同1.1%上昇の100.3、成鶏用は同0.8%上昇の95.7となった(図36)。配合飼料価格は、為替や海上運賃、飼料穀物の国際相場の動向により変動する。2年は、4月以降、COVID-19の拡大の影響などに伴うシカゴ相場の下落などにより、配合飼料価格も下落傾向で推移したが、10月以降、中国向け輸出の増加や南米産の作況悪化懸念などによるシカゴ相場の上昇などにより、配合飼料価格も上昇したことから、年全体では前年を上回る結果となった。

(注3)資料:農林水産省「飼料をめぐる情勢」
 畜産経営コストに占める飼料費の割合は、令和元年度畜産物生産費調査および令和元年営農類型別経営統計から算出。繁殖牛(子牛生産)は子牛1頭当たり、肥育牛および肥育豚は1頭当たり、生乳は生乳100キログラム(乳脂肪分3.5%換算乳量)当たり、養鶏(ブロイラー経営、採卵経営)は1経営体当たり。

 
(畜産振興部 前田 絵梨、酪農乳業部 小木曽 貴季)