飼養頭数は減少も生乳生産は微増
米国農務省全国農業統計局(USDA/NASS)の「Milk Production」によると、2021年8月の乳用経産牛飼養頭数は前年同月比1.1%増の948万頭となった(図16)。飼養頭数は20年6月を底に拡大傾向で推移していたが、本年5月の950万9000頭をピークに3カ月連続で減少している。USDAの「Livestock, Dairy, and Poultry Outlook」によると、飼料コストの高騰などによる収益の低下に加え、現在、牛肉の価格が高騰しているため乳牛の
淘汰が進んでおり、今後も飼養頭数の減少は続くと分析されている。
一方、8月の生乳生産量は、前年同月比1.1%増の854万6000トンとなった(図17)。飼養頭数が減少傾向にある中で、乳牛1頭当たり乳量の増加が生乳増産を支えてきたが、8月は猛暑の影響で1頭当たり乳量が前年同月比減となって相殺され、飼養頭数の増加分の増量にとどまった。
チーズ、バターの在庫量は引き続き高水準
USDA/NASSの「Cold Storage」によると、2021年8月のチーズの期末在庫量は64万8053トン(同3.7%増)となり、8月としては過去最高を記録した(図18)。COVID-19対策の緩和に伴う外食産業および小売業の高い需要などから、チーズ生産量が増加し、在庫は前月から取り崩したものの、引き続き高水準となった。
一方、8月のバターの期末在庫量は16万6448トン(同1.2%減)となり、26カ月ぶりに前年同月を下回った(図19)。これは、労働力不足により乳製品工場の稼働率が低下し、バターの生産量が減少したことに起因している。現地報道によると、カリフォルニア州では乳製品工場の労働力不足に加え、トラック運転手の不足もあり、バター生産量が減少したとされている。しかし、バター在庫量は、COVID-19流行前の2019年時の水準を大きく上回っている。
港湾の混乱により一部品目でやや減少するも全体の輸出は好調
2021年7月の乳製品輸出量は、世界経済の回復と米ドル安を背景に比較的好調に推移した。
品目別に見ると、バター(前年同月比81.8%増)、チーズ(同25.9%増)などの増加が顕著となった(表10)。
脱脂粉乳は、メキシコ、中国向けが増加し、1〜7月の累計では前年同期を上回ったものの、主要市場である東南アジア向けが減少したことで、7月の輸出量はやや減少(同3.1%減)した。アメリカ乳製品輸出協会(USDEC)は、東南アジア地域における新型コロナウイルスのデルタ株の流行や輸出価格の上昇などが減少の一因としながらも、米国内の輸出港における物流の混乱によるところが大きいと分析している。
一方、チーズは、7月の輸出実績としては過去最高を記録し、中でも中南米向けが好調となった。USDECは、南米での新型コロナウイルスワクチン接種の進展、各国の経済活動の再開およびメキシコや中米での観光客増加を背景に、比較的安価な米国産チーズの需要が増加したことを要因として挙げている。現在、経済回復に伴う物流の急増などにより、米国西海岸を中心とする輸出港で混乱が起き、物流が滞留しているが、陸路輸送や南部の港の利用が可能な中南米向け輸出については、この影響を受けていないことも大きな要因である。また、オリンピック後の在庫補充などにより日本向けも増加するなど、中南米以外の国・地域からの需要も高くなっている。
ホエイは、中国向けなどを中心に1〜7月の累計では前年同期を上回ったものの、7月の輸出量は前年同月を下回った。USDECは、たんぱく質含有量を高めたWPC(たんぱく質濃縮ホエイ)の生産量が増加したことで、ホエイの生産量が減少したことを反映したものと分析している。
(調査情報部 上村 照子)