日本と同様、米国でも消費者は高品質な牛肉を求めている。米国の牛肉の1人当たり年間消費量は、1985〜93年の間に18.5%下落した。これは、当時、消費者が購入する牛肉の品質に一貫性がなく、牛肉が価格に見合っていないのではないかと疑問を抱くようになったことが原因とされている。これを受けて、米国の牛肉業界は安定的に高い品質の牛肉を提供するための取り組みを行い、米国農務省(USDA)は、既存の牛肉格付制度を刷新した。米国の食肉業界が実施した調査によると、消費者の食肉に対するニーズは、主に「脂肪交雑」と「柔らかさ」にあり、消費者はUSDAの「肉質等級」や「認証プログラム」の登録ブランドにより牛肉を選んでいる。米国の牛肉市場は70%以上をJBS社、タイソン社、カーギル社、ナショナル・ビーフ社という4社の大手パッカーが占め、それぞれが複数のブランド牛肉を持つが、小規模パッカーや生産者グループなども独自の牛肉ブランドを持っている。特に、近年は牛肉製品のブランド化が進み、現在では牛肉の90%以上が何らかのブランドとして販売されているといわれている。生産者やパッカーは高品質な牛肉を求める消費者の声に応え、牛肉の品質改善に取り組んできたのである。
(1)格付制度(肉質等級と歩留等級)
米国の牛肉には、米国農務省食品安全検査局(USDA/FSIS)が実施する安全検査とは別に、任意で受けることが可能な格付評価があり、農業マーケティング局(USDA/AMS)が定める牛肉格付制度に基づいて評価が行われる。この評価には、柔らかさ、風味、ジューシーさを評価する「肉質等級」、食肉として使用可能な赤身の量を評価する「歩留等級」の2種類がある。
「肉質等級」とは牛肉そのものの味わいを予測するものであり、牛の成熟度と脂肪交雑の入り方によって、八つのグレードに分類される(図1−1、1−2)。等級が高ければ高いほど、牛肉は柔らかく旨味を持ち、消費者に好まれる高品質な牛肉であるとされる。なお、それぞれのグレードはさらに細かい項目に分類され、後述するブランド牛肉プログラムの認定に用いられることになる。特に、この中でも「プライム」に位置付けられた牛肉は高値で取り引きされ、いわゆる高級牛肉として市場に出る。
一方で、「歩留等級」は、その枝肉からどれだけの小売販売されるレベルの食肉を得られるか予測するものである。これは最終的に小売店で販売可能となる肉の量の割合を推計することによって、五つのグレードに分類される。
(2)肉質等級
上述の通り、USDA肉質等級には八つのグレードがある。USDAの肉質等級を決定する検査官は、「アバンダント(豊か)」から「ディボイド(全くない)」までの10段階の脂肪交雑の度合いとAからEまでの枝肉の成熟度から評価を行うことにより、プライム、チョイス、セレクト、スタンダード、コマーシャル、ユーティリティ、カッター、キャナーの八つのグレードに分類する(図2)。検査官は、まず去勢牛、非去勢牛、未経産牛、経産牛といった牛の性別により、成熟度を大別する。
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去勢牛:大多数が成熟度AあるいはBとなり、プライム、チョイス、セレクト、スタンダードの等級に分類される。
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非去勢牛:大多数が成熟度AあるいはBとなり、プライム、チョイス、セレクト、スタンダード、ユーティリティの等級に分類される。
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未経産牛:大多数が成熟度AあるいはBとなり、プライム、チョイス、セレクト、スタンダードの等級に分類される。
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経産牛:通常は成熟度C、DまたはEとなり、コマーシャル、ユーティリティ、カッター、キャナーの等級に分類される。
そして第二段階として、生理学的観点から、胸椎およびリブアイロール(以下「リブアイ」という)を確認し、軟骨組織の骨化、筋肉部の色と肌理(キメ)を指標として成熟度を決定する。おおむねの目安としては、9〜30カ月齢の牛がA、30〜42カ月齢の牛がB、42〜72カ月齢の牛がC、72〜96カ月齢の牛がD、96カ月齢以上の牛がEの成熟度になる。
・コラーゲンの結合状態:牛は加齢によりコラーゲンが密に結合し、食肉としては非常にかみにくく硬くなる。
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軟骨組織の骨化:若い牛に見られる脊椎に沿ったボタン状の軟骨が加齢とともに骨化する。
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筋肉部の色と肌理(きめ):若い牛は赤身部分の組織は肌理(きめ)が細かく、明るいピンク寄りの赤色だが、加齢とともに肌理(きめ)が粗くなり色が濃くなる。
こうして成熟度の決定後、脂肪交雑をその量から評価して肉質等級を決定する。
(3)歩留等級
歩留等級とは、以下の四つの主要部を検査して、小売販売される規格まで成形が施された食肉(BCTRC:Boneless closely trimmed retail cuts)の歩留まりを予測するものである。BCTRCの割合を計算式に当てはめて計算して得られた結果により、五つの等級に分類される(図3−1、3−2)。
・リブアイの脂肪の厚さ
・KPH(腎臓・骨盤・心臓の脂肪)の割合
・リブアイの赤身部分の割合
・HCW(温と体の重量)
(4)肉質等級別の牛肉生産量
USDAの公表データによると、牛肉の肉質等級別の生産量と全等級に占める割合は、プライム級が2015年度(前年10月〜当年9月。以下同じ)の9億3698万ポンド(42万5005トン、全体の5.1%)から、20年度には21億4952万ポンド(97万5007トン、同10.3%)まで2倍程度に増加している(表1、図4)。同じくチョイス級も、15年度の131億5953万ポンド(596万9063トン、同71.9%)から、20年度には155億5956万ポンド(707万4042トン、同74.5%)まで増加している。すなわち、20年度には肉質等級の上位2等級で等級全体の84.9%を占めるまでに至っている。高品質な牛肉に対する消費者の需要の高まりを背景に、その需要に応えるための生産者による生産技術の向上、肉用牛業界全体による肉用牛の遺伝的能力・品質の向上への努力が分かる。
(5)ブランド牛肉プログラム
USDA/AMSはこれらの肉質等級と歩留等級といった等級分けのみならず、USDA発信の認証プログラムとして、「USDAテンダーネスプログラム」「プロセス検証プログラム」などを実施しており、これらのプログラムに認証されるとUSDAのラベルを使用することが可能になる(図5)。また、食肉販売促進の一環として、認定アンガスビーフ(CAB)や認定ヘレフォードビーフ(CHB)などのブランド牛肉のほか、ホルモン剤非投与牛肉や抗生剤非投与牛肉、給餌方法や動物福祉に配慮した牛肉などに対しても認証を実施している。
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USDAテンダーネスプログラム:
USDA/AMSが業界と協力して開発したシステムによって、牛肉の柔らかさを評価する。牛肉のカット部位が一定の基準値を満たし、「柔らかい」または「非常に柔らかい」と評価された牛肉は、USDA認証製品として、ラベルを使用して広告、販売することが可能となる。2013年、カーギル社がUSDA/AMSから初のプログラム認証を受けたことでも知られる。
・プロセス検証プログラム:
牛肉の生産・処理加工プロセスの中で、給与飼料や牛の移動記録など、食肉事業者側から示された検証してほしい点をUSDA/AMSが評価する。ただし、検証してほしい点について、検証・監査が可能であることが条件となる。本プログラムは米国外の生産者や事業者も申請することが可能であり、アイルランド政府食糧庁(Bord Bia)が定める牧草給餌牛肉(飼料の80%に牧草を使用し、ホルモン剤の不使用、抗生剤の制限、年間6か月以上の放牧などを認証)が知られる。
以上のような認証プログラムを活用して成功を収めているブランド牛肉の一つが、いわゆる高級牛肉として売り出されているCABである。CABは1978年に誕生したUSDA/AMS初の認証プログラムを経た牛肉として知られている。