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海外情報 畜産の情報 2021年11月号

EUにおける有機農業の位置付けと生産の現状

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調査情報部 国際調査グループ

【要約】

 欧州グリーンディールにおいて有機農業は、気候変動への対応、環境保全、生物的多様性の維持といった目標を達成するための重要な活動とされ、オーガニックアクションプランなどによる推進策を通じたEU全体での取り組みが開始されている。
 有機農業の畜産分野においては、細部にわたる条件が定められ、さまざまな義務が課せられている中、慣行的な畜産の実践方法とは違った飼育がなされている。
 一方、有機畜産の拡大には、有機飼料の確保や消費者の地域有機産品の認識の向上、生産量を減少させない取り組みが必要であるとの声もある。

1 はじめに

 欧州委員会は、欧州グリーンディールを政策の最優先課題に挙げており、そこで掲げられている温室効果ガス(以下「GHG」という)排出量の削減、Farm to Fork(農場から食卓まで)戦略(以下「F2F戦略」という)に代表される持続可能な食品供給の実現、生物多様性の保全といった目標を達成するためには、有機農業の拡大が必要不可欠となっている。
 一方、その実現について高いハードルがあるとの意見もある中、EUは次期共通農業政策(CAP)の枠組みの中でこのような目標を実現させる方針について合意し、欧州委員会は有機農業のアクションプランを発表するなど、実現に向けた取り組み姿勢を明らかにしている。
 これらの状況を踏まえ、EUの有機農業の現状と今後行われる取り組みなどについて、現状の有機畜産物の生産事例も含めて報告する。

2 政策の中における有機農業の位置付け

(1)欧州グリーンディール

 欧州委員会は2019年12月、EUの政策の中で最優先課題とされる欧州グリーンディールの概要を公表した。同政策は50年までに、EU域内のGHG排出量を実質ゼロとすることを目指すものである。欧州委員会は、グリーンディールの取り組みにより、30年までにEU域内のGHG排出量55%減、50年までに実質ゼロとする気候目標を設定するとともに、その他七つの政策分野においても目指すべき姿を明記することで、広範な政策分野をカバーしている(図1)。
 農業に関しては、特にF2F戦略のほか、生態系および生物多様性に関する戦略が関連している。また、21年7月にはサステナブル・ファイナンス(持続可能な資金提供)に関する新しい戦略が発表され、農業分野の気候変動対策は、投資の際に企業を評価する基準となると考えられる。
 


 

(2)Farm to Fork(農場から食卓まで)戦略における有機農業の役割

 F2F戦略は、欧州グリーンディールの中核であるとされている。欧州委員会によれば、食品の製造、加工、小売、包装、輸送が、大気、土壌、水質の汚染とGHG排出の無視できない原因であり、気候変動と環境破壊を引き起こし、生物多様性に深刻な影響を与えていることから、食料システムを持続可能なシステムにすることが急務とされている。
 このため、同戦略では2030年までに
●化学農薬の使用量とリスクおよび有害性の高い農薬の使用量を50%削減する
●肥料からの栄養素(窒素、リン)の流出を50%削減、肥料の使用量を20%削減する
●家畜と水産養殖業の抗菌性物質の販売量を50%削減する
●EUの農地面積に占める有機農業の割合を25%にする
●小売および消費レベルにおける1人当たりの食品廃棄を50%削減する
の実現を目標としている。
 気候変動への対応、環境保全、生物的多様性の維持といった目標に対し、農業分野からのアプローチは必要不可欠とされ、有機農業は、持続可能な農業を実現するためのパイオニアであると位置付けられている。

(参考)『畜産の情報』 2019年11月号「EUにおける有機(オーガニック)農業の現状〜高まる有機志向〜」(https://www.alic.go.jp/joho-c/joho05_000833.html

3 有機農業推進の課題

(1)野心的な目標

 F2F戦略では、2030年に農用地のうち、25%を有機農地となるよう目標を定めている。図2の通り、有機農地は毎年増加しているものの、目標を達成するためには近年の増加ペースの4倍で有機農地を増やす必要がある。また、図3の通り、現行では有機農地のうち、有機栽培に移行しやすい永年牧草地や青刈飼料の割合が高く、移行に当たってよりハードルが高いと考えられる穀物などの耕作地の割合が慣行農地に多いことも課題になるとみられる。
 なお、同戦略の文書や21年9月に行った委員会担当者への聞き取りによると、畜産物に関する同様の目標値は設定されていない。しかし、同年9月28日に欧州議会環境・公衆衛生・食品安全委員会で拘束力のあるメタン削減目標の義務付けを求める報告書案が可決されるなど、追加的に畜産部門を圧迫するような措置が定められる可能性があり、畜産関係団体は神経をとがらせている。
 




 

(2)諸外国や農業関係団体からの懸念

 2021年9月23、24日に米国ニューヨークで開催された国連食料システムサミットで、米国は、食料安全保障と資源保全のための持続可能な生産性向上のための新たな行動連合の発足を発表した。同連合の目的はF2F戦略と重なるところがあるものの、報道によれば、米国農務省(USDA)のビルサック長官は報道陣に対し、EUの戦略は農業生産性の低下を招く恐れがあるとの懸念を示し、同連合はF2F戦略に「対抗」するものであると語ったとされている。
 また、EUの農業関係団体もF2F戦略に対し懸念を表明しており、同戦略により生産量が減少し、価格が上昇する可能性を指摘している。これについては、欧州委員会の共同研究センター(JRC)が21年7月に公表したレポートによると、包括的な影響の調査結果ではないことを強調しつつも、同戦略の目標を達成することによって、30年の家畜の飼養頭数は軒並み減少し、同年の主要な畜産物の生産量は、同戦略を行わないと仮定した場合の予測と比べ、生乳が10%強、牛肉が15%弱、豚肉が15%程度、家きん肉が15%程度といずれも減少する可能性が示されている。
 

(参考)海外情報「欧州委員会がF2F等の実施により域内生産が減少するとの予測を公表(EU)」(https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_003045.html
 

(3)有機生産推進のためのアクションプラン

 欧州委員会は2021年3月、有機生産推進のためのアクションプランを発表した。欧州委員会はこのプランにおいて、30年までにEUの農地面積に占める有機農業の割合を25%にするとのF2F戦略の目標の達成を目指して具体的な行動計画を示している。
 このプランの財源にはCAPの農村振興政策予算や、エコスキーム(直接支払いのための予算額の25%相当を財源)と呼ばれる気候変動や環境保全などに親和的な生産者に対する予算などが利用される。
 なお、欧州委員会は同プランについても、加盟国に対し戦略的な計画を策定することを推奨している。
 

(参考)海外情報「次期共通農業政策(CAP)改革案について暫定合意(EU)」(https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_002984.html
 

同プランは大きく三つに分けられている。

 ア 需要喚起と消費者の信頼醸成
 EUの有機産品のロゴの利用・認知促進により、消費者に対して有機食品の認知度を高める。また、公共機関による給食サービスやEUの学校給食スキームの食材調達において、有機産品の購入を促進することにより、需要を喚起する。
 また食品偽装対策を強化し、トレーサビリティーを強化することで、消費者の信頼を醸成する。

〇委員会が提示した先進事例
・デンマークのコペンハーゲン市は、公共食堂で使用される食材を同市周辺の2万5000ヘクタールの農地で生産された有機農産物に切り替えることに成功
・オーストリアのウィーン市は、公共食堂に使用する食材のため860ヘクタールの有機農地を都市近郊に確保
・イタリアのローマ市は、公共食堂で1日1万食の有機食品を提供
 

 イ 有機生産への移行促進と供給網の強化
 CAP地域開発予算を利用した財政支援、有機農業に関する調査レポートの発出やデータの充実、小規模生産者が多い有機生産者の組織化に関する支援(グループ認証など)、地域および小規模企業による食品加工の支援による流通ルートの短縮、有機農業ルールに沿った家畜飼料の確保(藻類などの飼料化)などが掲げられている。
 

 ウ 有機農業を通じた持続可能性のさらなる向上
 気候や環境に与える負荷の削減、生物多様性の向上と単収の増加、合成的な生産資材の代替品と植物保護に資する製品の開発、動物愛護の促進、資源利用の効率化が掲げられている。

4 有機農業に関する規則

(1)概要

 有機農業の制度については、欧州理事会規則(EC)No834/2007で基本的なルールが定められ、具体的な規則は関連する欧州委員会規則で定められているが、理事会規則(EC)No834/2007が改正され、2022年1月より欧州議会および理事会規則(EC)2018/848に基づく新規制度に移行予定である。当初の施行時期は21年1月の予定であったが、関連規則の制定に時間がかかったことに加え新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大の影響もあり、1年延期されている。
 新規制度での有機農業の目標として、(1)環境および気候変動対策に貢献する(2)長期的な観点で土壌を肥沃ひよく に保つ(3)生物多様性を維持する(4)環境に害を与えない(5)高い動物愛護基準を保つ(6)流通経路を短縮する(7)地域別品種を保全するなどが掲げられている。
 

(2)各種実施条件

 新しい有機農業に関する内容が同規則2018/848の中で規定されている。詳細な内容が同規則の中で定められており、有機農業の実践面における欧州議会議員およびその支持者である消費者からの高い関心がうかがわれるものとなっている。
 また、畜種別の違い、EU域内で行われている移牧や現段階で飼料自給が難しい豚や鶏の状況を反映した例外措置など、EU域内の実態に配慮した条件が定められている(表1〜5)。

 
 





 

(3)上記規則に関する欧州委員会担当者への聞き取り内容

ア 実現方法
 加盟国が各自で戦略的な計画を策定する。なお、CAPの枠組みでは各加盟国での戦略的な計画の策定は義務であり、欧州委員会が承認する必要がある一方、別の枠組み(エコスキーム)については、同委員会は調査を行い、加盟国に対して勧告はするものの、最終的な決定は加盟国が行う。

イ 支援の内容
 CAPでは、直接支払い(収入補填ほてん)と地域開発の二つの柱があり、その両方によって有機農業への支援が行われる。CAPは主として生産段階を対象とした政策である一方、有機農業を促進するには川上から川下までトータルに考えた支援が必要なことから、有機生産推進のためのアクションプランに代表されるエコスキームによる別の形の支援も行われる。
 地方政府の給食サービス機関によるグリーン調達の推進なども、その一つの例である。

ウ 飼料の供給
 たんぱく質飼料の多くを輸入に頼っているのは事実であるが、藻類による代替製品を含め、輸入に頼らない方向を実現したい。また、豚や鶏の飼料の確保は難しい問題があるが、一定期間は非有機飼料の使用を認めるなどの例外措置を認めている。

エ 関係者の有機農業に関する知識の取得について
 有機認証を受ける時点で一定の能力を有することが担保されている。また、欧州委員会としても助言サービスの提供、優良事例によるデモンストレーション、データベースなどによる知識の交換の場を提供することにより、関連知識の普及に努めていく。

オ 品種
 集約的な畜産では商業的な品種に集中しているが、粗放的な方法に適した品種が数多く存在することを調査により把握している。

カ 散布できるふん尿
 欧州理事会規則889/2008のAnnexTで定める通り、有機農地に肥料として散布できるふん尿については、集約的生産(Factory Farming)を行っていない生産者から発生したふん尿(乾燥またはたい肥化したもの、家きん由来を含む)である。

コラム1 ベルギーのワロン地域当局への聞き取り

1 概況
 ベルギーのワロン地域で有機農業を行っている生産者は2020年末時点で1901戸であり、全体の生産者数の15%を占めている。20年の1年間で85戸が新規参入した。有機農業を行っている農地は約9万ヘクタールであり、農用地全体の12%を占めている。
 当地域では、土地が広く、自家飼料の確保が容易で飼育がしやすいため、有機畜産を実践している農家の大部分は、肉用牛および酪農家である。

2 飼料
 肉用牛経営については、草地放牧および冬季はサイレージや干し草などの飼料を与えているため、有機飼料の確保に問題はない。一方、酪農経営については乳牛に与えるたんぱく質原料を確保できないことから、中国から輸入されている遺伝子組み換えではない大豆かすに頼る必要がある。
 肉用牛の飼料として使用される原料のうち、6割を欧州域内から調達できている一方、酪農の飼料については、2割しか欧州域内から調達できていない。有機農業の目的を考慮すると、地域内調達がエネルギー削減などからも望ましいので努力している。
 「地域内調達」の考え方については実施主体により解釈が異なる。例えば、ワロン地域では「地域=ベルギー国内」とみなしているが、フランダース地域では「地域=EU」とみなしている。
 当地域で利用されている複数の飼料工場は有機認証を受けているが、混入を防ぐために慣行栽培の飼料を製造した後、機械などを清掃してから有機農法の飼料を製造している。飼料の保管については、倉庫内で仕切りを設けて分別している。原料についても当地(ワロン地域)の原料を有機飼料用に優先的に利用している。

3 繁殖
 繁殖に用いる精子を提供する動物は有機飼育されている必要はないが、牛の交配については人工授精ではなく、原則、自然交配である。ベルギー原産の肉用牛ベルジアン・ブルー種は人が介助した分娩が必須となるが、ワロン地域で有機飼育されている品種については、ワロン政府のルールにより3割は自然分娩にゆだねるよう定められている。
 また、生まれた子牛は母牛の母乳で育てられる。粉ミルクの使用も認められているが、利用は限定的であり、乳量の少ないヤギで利用されることが多い。

4 動物衛生、治療
 予防に力を入れ、耐病性のある品種や個体を選別して飼育するようにしている。それでも体調不良となった動物には、最初に化学合成されたものではない薬品を使用し、回復しなかった時は次に抗生物質などを使用する。なお、薬品を処方した場合には酪農であれば2〜4日間は治療を受けた牛の生乳は出荷しないなどの措置がとられる。また、何度も処方せざるを得なかった場合、有機ではないカテゴリーで販売されることになる。

5 移動
 家畜の長距離輸送は禁止されているが、ベルギーは小さな国なので問題はない。一方で、以前は町ごとにと畜場があったが、現在は衛生基準が厳しくなり、と畜場が集約されているため、輸送距離が伸びる傾向にある。

6 有機畜産の生産量
 酪農については、(有機に転換した)1年目の乳量は確実に減少する。一方、放牧地の転換を進めていくことにより、草地の質が向上していくことから、生産量も増加する傾向にある。また、生産量増加とともに乳質も向上する傾向にある。肉用牛の増体については、特段の違いは見られない。

7 ふん尿処理
 有機畜産と慣行畜産との間でふん尿処理に特段の違いはない。両者の違いは処理時に化学合成資材を利用できるかどうかである。ただし、草地に散布する場合、一般的な規則として1ヘクタール当たり窒素量換算で年間170キログラムに制限されている。
 処理方法は生産者によって異なり、ふんとわらを混ぜて堆肥にしたり、尿を分離してタンクにためてスラリー処理したりする生産者もいれば、そのまま液肥として草地に散布している生産者もいる。

8 同一生産者における有機および非有機の家畜の飼育
 ベルギーでは同一の敷地内で家畜の有機飼育と非有機の飼育を同時に行うことはできない。

コラム2 有機バイソン飼育農家

 COVID-19感染防止措置による制限の中、有機畜産(肉用バイソン飼育農家)を行うLeroy氏の牧場を訪問し、話を聞く機会を得た。バイソンは、いわゆる肉用牛ではないが、ウシ目ウシ科に分類され、同牧場は食肉用として商業的に飼育・出荷しており、EUの有機認証を受けていることから当該牧場を肉用牛農家に準じるものとして紹介したい。

1 バイソン牧場概要
 同氏は、バイソンの繁殖肥育一貫経営と観光農園(牧場ガイドツアー、バイソン・レストラン、バイソン肉の販売、雑貨販売など)を経営し、放牧地150ヘクタールで200頭を飼育している。従業員は農場部門で2名、観光農園部門で4名(配偶者を含む)を雇用している。
 1998年に22頭のバイソンを米国から空輸し経営を開始した(現在では動物衛生上の規制により輸入は不可能)。経営を始めたきっかけは、米国のバイソン牧場で働いていた際に、野性味を残すバイソンの気質に魅せられ、これを欧州に導入することでニッチなニーズをつかむことができると考えたためとしている(コラム2−写真1)。
 この試みは成功を収め、2013年には米国にも進出し、モンタナ州でバイソン牧場を開き、ベルギーから当該牧場へのツアーも企画している。牧場には、ツアー客用の宿泊施設もある。

2 バイソンについて
 野生の気質を残していて神経質なところがあり、取り扱い方法を確立するまで飼育成績は安定しなかった。放牧地の移動時や出荷時に電気ショックや大きな声で脅かすようなことをすると興奮状態になり、時には時速50キロメートルで疾走することもあるため扱いには注意を要する。
 また、と畜時にもストレスを与えると肉に内出血による斑点が付きやすく、大幅に価値が下がるため、大きな音などをたてずに、ゆっくりと押し込むように通常の肉牛より丁寧な扱いをする必要がある(コラム2−写真2)。




3 飼育方法
 飼料はすべて自家栽培の牧草であり、特に播(は)種を行わず、自然更新により草地を維持している(コラム2−写真3)。一方、土壌は酸性傾向が進むため、石灰などの散布によるpHの維持などが必要である。
 過放牧による草地の荒廃により炭素排出量が増加するため、草地への負担を軽くし、牧草が根絶やしになる前に牛を移動させることによって、牧草の根が深く土中に伸びるように育て、炭素の貯留量を多くしている。
 11月〜翌3月は舎飼いしているが、干し草についても自家栽培のものを供給し、外部飼料は塩以外、一切与えていない。
 牛群を六つに分けて飼育しており、一番若い群れでは子牛と母牛を一緒にしている(コラム2−写真4)。また、繁殖のために一つの群れに2〜3頭の種付け用の雄牛を配置している(まき牛)。当然、雄牛の間で争いが起こるが、そういった自然の習性下での飼育が、妊娠率を高めるとみている。まき牛の年齢は3歳から15歳までと幅広い。
 有機畜産のルールでは、雄牛の去勢は禁止されていないが、当牧場では肥育される雄牛の去勢は行っていない。肥育雄牛は、比較的若齢の2年程度で出荷するため、去勢を行わなくてもそれほど肉質に問題を生じることはないとのこと。また、同年齢程度であれば雄と雌の肉質にそれほど大きな個体差はない。
 出産時期は3〜8月で、出産介助は行っておらず、自然分娩に徹しており、1年1産で回している。繁殖雌牛は平均すると3歳から15歳ぐらいまで出産を行うが、23歳で出産する高齢牛もいる。
 バイソンは病気になることは少なく、特段の薬剤投与は行っていない。







 
4 出荷および販売先
 近隣のと畜場を利用し、出荷時の生体体重は500キログラム程度である。と畜場関係者と良い関係を築いていることから、バイソンの受け入れに対して難色を示されたことはない。
 販売先は有機食肉に力を入れている大きな食肉卸がメインとなるが、その他食材にこだわりを持つレストランなどからも多くの注文が寄せられており、注文に対して出荷が追いついていない状況である。

5 おわりに

 欧州委員会はグリーンディールの目標達成に向けた施策を立て続けに打ち出している一方、有機農業をはじめとする持続可能な農業促進のための予算を確保し、新しい有機農業に関する規則を見直し、有機農業のさらなる拡大を図りつつある。
 今回は、コロナ禍による各種制約から文献および飼育分野に焦点を当てた調査となったが、環境や持続可能性に配慮した農業として有機農業はますます重要性を増していくと思われる。
 一方、聞き取りの結果では、牛については比較的参入のハードルが低いものの、豚や鶏については解決すべき問題が残っていると思われる。有機という言葉の響きは聞こえが良いが、有機が一般的となりつつあるEUでも、その推進の裏には多くの課題があることも事実である。

(平石 康久(JETROブリュッセル))