ホーム > 畜産 > 畜産の情報 > ロシアにおける食肉の生産、消費、輸出入動向
ロシアは、かつて世界最大の穀物輸入国であったが、2013年ごろから穀物生産が拡大した結果、輸出国に転じ、2017/18年度(7月〜翌6月)には世界最大の小麦輸出国となった。また、1990年代に大幅に縮小した畜産業(注1)は、2000年代後半以降の市場経済移行に沿った政府の食料自給率向上の方針を受けて養豚や養鶏を中心に回復し、生産量は増加している。近年、畜産物は自給を達成しつつあることから、ロシア政府は輸出拡大に向けて力を入れている。
一方、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大によるロシアの畜産物生産・消費への影響や、14年のウクライナ問題に端を発するEU産農畜産物の輸入禁止措置(以下「禁輸措置」という)が21年末まで継続されるなど、同国の畜産物の輸出入に関する課題は大きく、国際需給に与える影響は見通しにくい。
本稿では、ロシアの食肉生産、消費、輸出入動向などについて報告する。また、本稿中の為替レートは、1米ドル=115円(2021年10月末日TTS相場:114.67円)、1ルーブル=1.86円(同TTS相場=1.86円)を使用した(注2)。
(注1)『畜産の情報』2019年7月号「二兎を追うロシア農業〜穀物輸出と畜産物生産・輸出の拡大〜」(https://www.alic.go.jp/joho-c/joho05_000662.html)を参照されたい。
(注2)三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「月末・月中平均の為替相場」の月末TTS相場。
政府による国家プロジェクトとして、農産物を含むロシア産品の輸出拡大を支援するための「国際協業と輸出」がある。2018〜24年を対象期間としており、「工業輸出」「農産物輸出」「国際貿易物流」「サービス輸出」「国際協業と輸出を発展させるための体系的施策」という五つの連邦プロジェクトで構成されている。全体予算は9568億ルーブル(1兆7796億円)で、うち、「農産物輸出」の予算は4068億ルーブル(7566億円)と全体の4割強を占めている。また、最終年となる2024年の年間農産物輸出目標額として、450億ルーブル(837億円)を掲げている。
2020年の牛肉の輸出入状況を見ると、輸出量は中国向けの増加などから1万6127トン(前年比2.7倍)に伸びたが、輸入量は26万1351トン(同13.5%減)と減少傾向にあるものの、依然として輸入が輸出を上回っている(図3、4)。
牛肉の輸入量は、14年の禁輸措置により翌15年から大幅に減少したが、これにより生じた牛肉の供給不足は、南米からの輸入分では補完しきれず、牛肉需給はひっ迫した。
また、EAEUを除く最大の牛肉輸入先は長期にわたりブラジルであったが、ロシアはブラジル産牛肉からラクトパミン(筋肉成長促進剤)が検出されたとして、17年12月に輸入停止措置を講じた(注4)。その結果、ブラジルからの輸入量は17年の13万7164トン(総輸入量に占める割合は37.9%)から18年は7723トン(同2.2%)にまで減少した。しかし、18年11月に輸入停止措置を解除し、20年は5万1895トン(同19.9%)まで回復したものの、最大の牛肉輸入先は6万6528トン(同25.5%)を輸入したパラグアイとなった。
ロシア政府は22年1月1日から牛肉の関税割当制度(03年に導入:枠内では関税率ゼロ、枠外では関税率50%)を廃止し、27.5%の一律の関税率を導入する決定を20年11月に承認した。関税割当制度の廃止により無税で輸入される牛肉がなくなることから、輸入牛肉価格の上昇による輸入量の減少が予想されている。
(注4)海外情報「ロシア向け牛・豚肉の輸出停止に伴う現地の反応(ブラジル)」(https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_002090.html)を参照されたい。
牛肉に対して豚肉は、輸出量が輸入量を上回って推移しており、2020年の豚肉輸出量は12万9581トン(前年比2.4倍)となった(図5)。このうち、EAEU域内への輸出は全体の26.4%を占めるが、同年はベトナム向け輸出が大きく伸び、全体の37.6%を占めている。これは、ベトナム国内で発生したアフリカ豚熱に伴う同国での豚肉供給不足の影響とみられている。
なお、中国はロシア産豚肉の輸入を解禁しておらず、ベトナムは同国が承認したロシア国内の企業で製造された豚肉のみの輸入を認めている。
一方、20年の豚肉輸入量は6387トン(同91.9%減)と激減した(図6)。これは、20年に関税割当制度が廃止され、25%の関税に一本化されたこと(注5)が影響したとみられている。このうち、EAEU域内からの輸入は全体の36.5%を占めている。豚肉輸入量は、米国や欧州からが中心となっていたものの、牛肉輸入と同様に禁輸措置などの影響から減少傾向で推移している。
(注5)『畜産の情報』2019年7月号「二兎を追うロシア農業〜穀物輸出と畜産物生産・輸出の拡大〜」(https://www.alic.go.jp/joho-c/joho05_000662.html#title4)を参照されたい。
家きん肉は、近年の生産拡大に伴い輸出が拡大しており、2020年の家きん肉輸出量は29万4817トン(前年比40.4%増)と初めて輸出量が輸入量を上回った(図7、8)。このうち、EAEU域内への輸出は全体の21.0%を占めている。輸出量が輸入量を上回ったことから、家きん肉はロシアの内需をほぼ賄うことが可能となったことを示している。
20年の家きん肉輸入量は22万8853トン(同0.6%増)となった。このうち、EAEU域内からの輸入は全体の59.1%を占めている。家きん肉輸入量は13年をピークに減少に転じたが、これは禁輸措置による欧米諸国からの輸入停止が影響している。
ロシアの畜産物生産は、牛肉を除きここ3〜4年で国内需要をほぼ満たせる水準に達しており、輸出にも注力し始めている。そのため、大手食肉企業などが輸出に取り組みはじめた結果、2020年の食肉輸出量はコロナ禍にありながら前年よりも大幅な増加となった。この輸出増の主な要因は中国市場の開放によるものだが、19年にアフリカ豚熱による豚肉供給不足からベトナムがロシア産豚肉の輸入を開始したことも影響しており、今後もベトナムは有望な市場になると見込まれている。その他にもアジア、中近東、北アフリカが有望な市場と見られており、輸出志向の企業は、これらの地域の消費特性調査を開始している。今後は、特定の地域に狙いを絞ったり、付加価値製品の輸出割合を拡大させたりすることが必要になると予想されている。
一方で、食肉業界は生産量を現在の2〜3倍まで拡大できると考えているが、牛肉と家きん肉の輸出量の多くが中国向けであるため、中国がCOVID-19の再拡大などにより、突如、国境閉鎖を行った場合、すぐに販路を切り替えることが出来ないなどの課題がある。 一方で、気候条件、水資源、土地資源を考えれば、長期的にはロシアにはアジア全体に食肉を輸出できる潜在的な力があるとされている。
食肉産業における国家機関と実業界の対話を支援する全国食肉協会実行委員会によると、21年の輸出量は拡大傾向を維持し、輸入量を上回ると見込まれている。中国、韓国、日本、フィリピンといったアジア市場を開拓できれば、24年には輸出量は金額ベースで今の3倍となる15億ドル(1725億円)まで拡大する可能性があるとされている。
また、ロシア農業省は20年10月、ロシア産農産物輸入国の食の
ロシア政府は、非原料品輸出を30年までに19〜20年比で70%拡大するというプーチン大統領が設定した目標到達のため輸出支援を行っており、21年は輸出企業への支援金として連邦予算から前年比30%増となる960億ルーブル(1786億円)を拠出することとなっている。
2021年10月時点で、日本向けに輸出が可能な食肉は加熱済み偶蹄類(牛・豚など)製品および加熱済み家きん肉製品のみとなっている。なお、加熱済み偶蹄類製品と加熱済み家きん肉製品の日本向け輸出認証をそれぞれ3社が取得しており、19年には日本のスーパーマーケットでロシア産ハムが販売された。
家きん肉に関しては、近年ロシア各地で断続的に鳥インフルエンザが発生していることから、輸出は難航している。また、アフリカ豚熱も断続的に発生しているため、日本向け輸出の課題になるとみられている。