ホーム > 畜産 > 畜産の情報 > 豪州養豚産業の概要と近年の取り組み
ア 飼養状況
豪州の豚飼養頭数は、干ばつなどによる飼料コストの高騰などにより、2012年には肥育豚は210万頭、繁殖用雌豚は26万頭にまでに減少したが、近年は比較的安定して推移している。18年は豚肉価格の低迷と飼料価格の高騰により肥育豚の飼養頭数が232万頭まで減少したが19年では肥育豚は237万頭と回復に転じ、繁殖用雌豚は27万頭となっている(図1)。
なお、20年3月、世界的に拡大していたアフリカ豚熱が豪州の隣国であるパプアニューギニアにまで到達したが、ちょうど同時期にCOVID-19の拡大により国境が事実上閉鎖されたことで、海外からのアフリカ豚熱侵入リスクが大幅に低下した。連邦政府は、21/22年度のバイオセキュリティ関連予算である4億1450万豪ドル(364億7600万円)のうち、5860万豪ドル(51億5680万円)を養豚業界に投じている(注2)ことも奏功し、21年10月現在でもアフリカ豚熱の豪州国内への侵入を防いでおり、豪州養豚業への影響はない。
(注2)海外情報「豪州連邦政府、来年度予算案で農業関連支出を拡充(豪州)」(https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_002952.html)を参照されたい。
肥育豚はおおむね各州に均等に分布しているが、飼料穀物の調達が比較的容易なQLD州が60万7177頭と国内最大の飼養地となっており、豪州全体の26.9%を占めている(図2)。
イ 豚肉生産状況
と畜頭数および豚肉生産量は、2003年には573万頭、41万9000トンと高い水準にあったが、その後、干ばつなどによる飼料コストの高騰などによる飼養頭数の減少により、09年には450万頭、32万4000トンと、ともに大幅に減少した。その後、飼養頭数は順調に回復しており、20年は535万頭、41万9000トンとなっている(図3)。また、近年、と畜頭数に比べて豚肉生産量の伸びが大きいことから、1頭当たりの枝肉重量が増加してきていることが分かる。
年間の肥育豚のと畜頭数の動きとして、通常、2月上旬から食肉処理量が増加し、イースター休暇(4月上旬)に一時的に減少するが、晩秋から初冬(5〜6月)にかけてピークに達する。その後、冬から春(8〜11月)にかけて徐々に減少し、クリスマス前(12月)に再び増加するという傾向がある。
州別の豚肉生産割合を見ると、図2の肥育豚の飼養分布とは少し異なっている。2000年ごろからSA州の食肉加工施設の整備が進み、処理能力が向上したことで、同州の豚の飼養頭数は全国の14.3%であるものの、生産量ではQLD州に次いで2番目の22.9%を処理している(図4)。これは、VIC州西部の肥育豚が州境を超えてSA州に運ばれ、加工処理されていることを示しており、そのほかSA州の食肉加工施設には隣接するNSW州南部からの流入もあるとされている。また、近年のと畜頭数の推移を見ると、VIC州でロックダウンが実施されていた20年7〜9月ごろ、同州内の食肉加工施設でのCOVID-19のクラスター発生により、主に隣接するSA州で食肉の加工処理が行われていたことを示している(図5)。
豪州の1人当たりの年間豚肉消費量は増加傾向で推移しており、豪州農業資源経済科学局(ABARES)は、2021年度の豚肉消費量を1人当たり27.4キログラムと、2000年度比で1.5倍に増加すると予測されている(図6)。肉類の中では、豚肉は鶏肉に次ぐ消費量となるが、鶏肉は21年度で同46.9キログラムと、豚肉の1.7倍消費されており、2000年度比を見ても1.5倍に増加すると予測されている。
小売店の生鮮肉消費支出割合を見ると、豚肉は羊肉と同じく、牛肉、鶏肉に次ぐ11%となっている(図7)。豚肉は羊肉よりも1人当たりの消費量は多い(豚肉は年間27.4キログラム、羊肉は同5.4キログラム)ものの、羊肉の小売価格が高いため、支出シェアでは
また、自宅調理以外での豚肉の消費機会割合では、レストランなどの外食部門が50%と最も多く消費され、続いて学校などでの給食利用が4分の1弱を占めており、全体を見ると、持ち帰りなどの中食での利用が2割弱、自宅外での利用が8割強となっている(図8)。
豪州の豚肉需給は、消費の伸びに対して生産量が不足していることから輸入超過の状況が続いている。
まず、輸出については、近年の輸出量は年間約2万7000トンから3万5000トン程度で推移している。2020年は他国のアフリカ豚熱発生に起因する需要増加を背景に、2万9520トン(前年比9.0%増)とかなりの程度増加している(図9)。また、輸出先別の輸出量の割合では、シンガポールが35%と最も多く、次いでパプアニューギニア、ベトナムと続いている。日本にも2%(631トン)とわずかながら輸出が行われている(図10)。
豪州国内の206戸の養豚生産者(豚肉生産量の91%をカバー)を会員とする豪州養豚業界団体のAPL(Australian Pork Limited)によると、アフリカ豚熱による世界的な豚肉不足により、日本や韓国、ベトナムなど新たな市場に参入する機会が得られたとしている。特に同団体は高付加価値市場の日本に注目しており、豪州の市場ではあまり扱われない内臓などの不需要部位の利用や同国でなじみの薄いカット方法などが用いられていることから、豚1頭当たりの利益向上の可能性があるとしている。
一方、輸入量については、おおむね年間15〜20万トン程度で推移している。直近では、19年は同国産豚肉生産量の落ち込みなどを背景に19万8707トンと増加したものの、20年には14万6984トンと、15万トンを割り込む状況となっている(図11)。豪畜産調査会社であるトーマス・エルダー・マーケッツによると、これはアフリカ豚熱に関連した中国による国際的な豚肉製品需要の増加が影響しているとしている。
20年の輸入先別の輸入量の割合では、米国が55%、デンマークが23%となっており、この2カ国で輸入量全体の約8割を占めている(図12)。近年では米国とデンマークからの輸入がおおむね全体の7〜8割程度と、太宗を占める状況が続いている。