繁殖雌牛のと畜頭数は増加傾向
米国農務省全国農業統計局(USDA/NASS)の「Livestock Slaughter」によると、2021年9月の牛と畜頭数は273万2100頭(前年同月比0.9%減)と前年をわずかに下回ったものの、月間頭数は高水準で推移している(図1)。と畜頭数に占める繁殖雌牛(経産牛、以下同じ)の頭数は、21年3月から7カ月連続で過去3カ年平均よりも多い水準で推移している(図2)。USDAでは、飼料に対する懸念や国内の一部地域で干ばつが続いていることに加え、酪農部門の収益の低下が繁殖雌牛と畜頭数の増加要因と分析しており、今後もこの傾向が続くと予測している。
牛肉価格・肥育牛価格は高水準で推移
米国農務省経済調査局(USDA/ERS)の「Livestock and Meat Domestic Data」によると、2021年9月の肥育牛価格は、前年同月比20.1%高の100ポンド当たり124ドル(1キログラム当たり314円:1ドル=115円
(注))となった(図3)。21年初めから牛群が縮小傾向にある中、繁殖雌牛のと畜頭数増加により今後の供給頭数の減少が見込まれることが、肥育牛価格の上昇につながっているとみられる。また、国内外からの高い需要を反映して、21年9月の牛肉卸売価格は、前年同月比42.7%高の100ポンド当たり314.81米ドル(1キログラム当たり798円)と高値で推移している(図4)。通常、牛肉価格が高い水準にある場合、繁殖肉牛農家は生産水準を維持しようとするが、繁殖雌牛のと畜頭数が増加している現状から今後は供給がひっ迫し、牛肉価格がさらに上昇すると予測する現地報道もある。
(注)三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「月末・月中平均の為替相場」の10月末TTS相場。
8月の輸出量は過去最高を記録
米国農務省経済調査局(USDA/ERS)の「Livestck and Meat International Trade Data」によると、2021年8月の牛肉輸出量は、14万7192トン(前年同月比21.3%増)となり、単月の輸出量として過去最高を更新した(表)。輸出先別に見ると、中国向けが前年同月比で約5.7倍の2万6934トンとなり、輸出増をけん引している。USDAは、米中経済貿易協定の第一段階合意により2020年3月から中国市場への障壁が取り除かれたことで米国産牛肉の輸出量が増加している中、豪州からの供給量が減少していること、また、中国国内の旺盛な需要が続いていることで、さらに堅調に推移したと分析している。また、輸出先首位である日本向けは、3万4997トン(同10.4%増)となった。21年3月に日米貿易協定に基づくセーフガードの発動により関税が38.5%に引き上げられていたこともあり、1〜8月の累計は前年同期比2.5%減となっているものの、同協定に基づき21年度の関税が4月17日から25%にまで引き下げられたことでその後は順調に増加している。また、米国食肉輸出連合会(USMEF)は、日本国内の旺盛な小売需要に対応するため、米国産チルド牛肉の輸入が増えていると述べている。一方、同2位である韓国向けは、昨年8月の輸出量が多かったことから3万1004トン(同9.0%減)となったが、韓国国内の高い需要により1〜8月の累計では、前年同期比18.1%増となっている。その他、国内経済の回復が見られるメキシコ向けの増加もあり、この4カ国で輸出全体の7割強を占めている。
(調査情報部 上村 照子)