堅調な国内外の需要を背景に増産傾向で推移
ブラジル地理統計院(IBGE)によると、2020年の鶏肉生産量は、1377万トン(前年比1.6%増)と前年をわずかに上回った(図1)。21年1〜9月の累計(速報値)では、国内外の需要が堅調であることから、1091万トン(前年同期比7.0%増)と前年同期をかなりの程度上回り、増加傾向で推移している。中でも、本年3月の生産量は132万トンとなり、16年以降の単月生産量としては初めて130万トンを超える高い水準となった。
1〜10月の鶏肉輸出量、前年同期比9.1%増
ブラジル経済省貿易事務局(SECEX)によると、2021年1〜10月の鶏肉輸出量は、352万5425トン(前年同期比9.1%増)と前年同期をかなりの程度上回った(表)。特に9、10月の鶏肉輸出量はいずれも前年同月を2割以上も上回っており、増加傾向が顕著となっている。鶏肉輸出量は、飼料価格高により生産コストが大幅に上昇しているものの、米ドルに対するレアル安の為替相場を追い風に海外からの堅調な需要を受けて増加傾向で推移している(図2)。
輸出先別に見ると、最大の中国向けは54万9257トン(同2.5%減)と前年をわずかに下回った(図3)。同国向けは、年初に前年同期を下回っていたが、3月以降は持ち直してきている。日本向けは、35万6795トン(同7.5%増)とサウジアラビアを抜いて第2位となった。日本向け輸出量は月3万トン台で比較的安定していたが、9、10月はそれぞれ4万5000トンを超える水準に増加した。これは、日本にとって主要鶏肉輸入先であるタイからの輸入量が、同国でのCOVID-19の影響による生産減に伴い減少したためとみられる。また、サウジアラビア向けは31万4400トン(同16.3%減)と大幅に減少した。これは、サウジアラビア食品医薬品庁(SFDA)が21年5月、ブラジルの11鶏肉処理場からの輸入を停止する措置を講じたためである。一方、アラブ首長国連邦向けは、6月以降の輸出量が前年を大幅に上回って推移している。このほか、メキシコ向けも前年同期を大幅に上回っている。これは、同国政府が6月、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)外の国に対し新たに鶏肉の輸入割当を行い、ブラジルには3万トンを割り当てたためとみられる。なお、新たな輸入割当枠は無税で、骨付きおよび骨なしカット肉に適用される。
国内のトウモロコシ価格は高水準で推移
ブラジル農牧研究公社(EMBRAPA)養鶏・養豚センター(CIAS)によると、最大の鶏肉生産州であるパラナ州のブロイラー生産コスト指数(2010年1月の生産コストを100とした指数)は、高水準で推移している。同指数は、18年4月から19年9月ごろまで220ポイント前後で推移していたが、その後上昇傾向で推移し、21年5月には400ポイントを超えた。その後は400ポイント前後で推移しており、10月は前年同月比22.6%高となった(図4)。
鶏肉生産コストの約7割は飼料費が占めるが、トウモロコシの卸売価格(マットグロッソ州)は、19年10月ごろから上昇傾向で推移し、21年10月には、前年同月比35.3%高の60キログラム当たり96.0レアル(1920円、1レアル=20円)と高水準にある(図5)。これは、国内外からのトウモロコシの需要が堅調であることのほか、当該年度のトウモロコシ生産量が天候の影響などにより大幅に減少したためとみられる。
国内鶏肉価格は記録的高値を維持
サンパウロ大学農学部応用経済研究所(CEPEA)によると、ブラジルの鶏肉卸売価格(サンパウロ州、名目価格)は、同国内でCOVID-19が拡大し始めた2020年3〜5月ごろにかけて下落し、1キログラム当たり3.8レアル(84円)程度となった。その後は、堅調な需要を背景に上昇傾向で推移している(図6)。21年9月中旬には同8.57レアル(171円)と統計が開始された04年以降の最高値を更新し、その後、やや下落したものの、高水準の状況が続いている。
この要因の一つとして、国内の経済状況の悪化が挙げられる。20年の同国のGDPは、COVID-19の影響によりマイナス4.1%となった。このため、より安価な食肉である鶏肉に需要がシフトし、国内鶏肉価格の上昇につながったとしている。
(調査情報部 井田 俊二)