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話題 畜産の情報  2022年2月号

酪農を支える人材育成の視点から全酪アカデミーを設立

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一般社団法人全酪アカデミー 理事長 北池 隆

1.はじめに

 図1は乳用牛を飼養しているいわゆる酪農家戸数と生乳生産量の推移を表しており、赤色の棒グラフが示すように全国の乳用牛飼養戸数は、年4〜5%の割合で減少しています。また、青色の棒グラフは生乳生産量についても同様に減少傾向となっており、戸数と比べると、その減少割合は小さくなっています。その理由は、酪農家一戸当たりの乳用牛の飼養頭数が増加していることや、乳用牛の改良、飼養管理の改善などで一頭当たりの乳用牛の生産する乳量が増加しているためです。
 さらに3ページの表を見ていただければ、酪農において経営を離脱される方と新規に就農される方との差は、北海道に比べて都府県の方が大きいことが分かります。新規就農者とは文字通り新たに酪農を始められる方のことです。その中に、区分して新規参入者の数を内数で表に入れています。新規参入者とは農家出身ではない方が新たに酪農を始めた場合や農家の子弟の方が独立して新たに酪農を始めた場合を言います。現在、新規就農者の多くは酪農家の子弟の方々が親の跡を継ぐ、いわゆる親元就農で、その数も都府県は北海道に比べて少なく、新規参入者の数は、さらに少ない状況にあります。年間数名となっている都府県の新規参入者を拡大させていくために必要なサポートシステムを作ることが、一般社団法人全酪アカデミー(以下「全酪アカデミー」という)を設立した主たる目的です。さらに、将来的には牧場の従事者、酪農ヘルパーなど酪農を支える人材の育成にも取り組んでいきたいと考えています。



2.就農支援プログラムの概要

 プログラムは図2に示す通りで、酪農経験のない方でも新規に就農していただけるように、研修期間を3年間に設定しています。まず、人材発掘のところで触れている通り、酪農家になることを明確に目指している人を募集し、選抜試験を行い、全酪アカデミーの従業員として採用します。採用後は全酪アカデミーから一定の給与が毎月支払われるので、その間は経済的に心配することなく安心して研修に取り組める体制を採っています。酪農には(1)栄養管理(2)繁殖・分娩管理(3)搾乳管理(4)健康管理(5)飼料生産(6)飼料調整などいろいろな部門があり、さらにそれらの部門がお互いに関連し影響を与えるために多くのことを学ぶ必要があります。1年目は、全国酪農業協同組合連合会(以下「全酪連」という)の関連牧場において、各部門の実際の仕事・技術を学びながら、座学で基本的な理論や生乳取引、畜産に関連する法令、経営計画の策定方法、経営管理の実践などを学んでいただきます。座学や技術研修の講師を務めるのは全酪連の職員ですが、全酪連は酪農技術研究所をはじめ酪農に関する多岐にわたる分野で事業を展開しており、分野ごとの専門家が丁寧に最新の情報を提供します。2年目からは実際の酪農現場で実践研修を行います。実践研修中も引き続き新しい酪農の技術や理論の研修、優良・先進酪農経営の見学などを行いながら、技術や経営管理のノウハウを学んでいただきます。実践研修の期間は2年間あるため、複数の研修牧場でさまざまな飼養管理形態を実際に経験し、就農に向けての情報を集めながら、事業の流れの表に盛り込んでいるような就農準備を進めて、就農していただく運びです。

3.研修生の募集状況

 全酪アカデミ ーの機構図を図3に示しています。全酪アカデミーは大きく分けると正会員と賛助会員で成り立っています。正会員は、全酪連と一般社団法人全国酪農協会の2団体で両団体とも酪農専門の全国組織で、全酪アカデミーの運営と実務を担っています。賛助会員は当法人の事業目的に賛同した農業団体の方々で、令和4年1月15日現在31団体に加入していただいています。各県や地域の酪農業協同組合や農業協同組合の方々で、人材発掘、実践研修を行う契約農場の確保、就農地の確保、就農者の受入体制の整備などにご協力をいただく方々です。
 研修生の募集は、(1)賛助会員からいただく情報(2)農業求人イベントにブースを出展して、参加者への説明(3)農業系求人サイトを通じた募集などを行っています。
 全酪アカデミーでは昨年9月から継続して研修生の募集を行っています。現在一組(夫婦と子ども1人の家族)の方を採用し、研修を開始しました。

4.おわりに

 全酪アカデミーは、より多くの方々のご協力を得て、できるだけ早く日本全国を網羅できる体制の整備を進めていきたいと考えています。併せて、就農後のフォローアップ体制の確立も重要な課題であり、この点についても全国各地に担当者を配置している全酪連と賛助会員の方々のご理解と協力を得て、実施していく予定です。
  最初に触れた通り、全国の酪農家戸数は大幅に減少しており、重要な食料である牛乳乳製品の安定的な供給、農地の有効利用、農村地域の活性化の観点からも新しい酪農家の育成は急務であると考えています。酪農家の子弟の方々とともに、酪農に興味があり酪農をやってみたい方々が酪農を始められる一助となるように、全酪アカデミーはきめ細かなサポート体制の構築を目指していきたいと考えています。 

(プロフィール)
  昭和57年農林水産省へ入省、生産局畜産部、内閣府食品安全委員会、独立行政法人家畜改良センターなどで勤務。
   平成30年から全国酪農業協同組合連合会に勤務、令和3年8月から一般社団法人全酪アカデミーの理事長に就任。