こうした中、2020年当初より新型コロナウイルス感染症のパンデミックが世界中を覆い、酪農乳業の世界にも大きな影響を及ぼしている。
酪農主要国においては、ロックダウンなどの緊急措置により生乳需要が一時的に急減したため、初期対応の中で生乳の廃棄という不幸な事態が散発した。一方、わが国においては、幸いにも指定団体の需給調整機能が維持されていたことから、酪農・乳業の連携と行政による緊急対策により、例外的に生乳廃棄(食品ロス)という事態は回避された。この間、わが国を含め世界に共通して見られた現象は、家庭内消費の増加が需要を下支えしたことであろう。
その後、酪農主要国においては、ロックダウンなどの解除とともに外食需要にも一定の回復が見られた。家庭内消費を含めた国内全体の需要の回復が比較的早かったばかりでなく、中国向けなどを中心とした輸出の回復により、一時的に不安定となっていた需給や価格は早期に改善・回復した(図2)。
他方、わが国は、生乳廃棄を回避する一方、業務用を中心として需要の回復が遅れていることに加え、原料用乳製品の輸出による在庫処理という手段が事実上使えないため、行政による緊急対策や生産者団体と乳業の連携による自主対策が講じられているにもかかわらず、過去最高水準となっている乳製品在庫をさらに積み上げつつある(図3)。
こうした中、22年度に向けて、関係者の努力により新たな自主対策「酪農乳業乳製品在庫調整特別対策事業」が取りまとめられるとともに、ALICによる関連対策として、本対策のうち飼料向け価格差対策を側面的に支援する「ウィズコロナにおける畜産物の需給安定推進事業」が措置された。乳製品の国際市場価格が高騰しつつある好機を捉え、これらの対策などにより乳製品在庫の積み上がりに歯止めがかかることを期待したい。