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海外の需給動向【牛肉/豪州】 畜産の情報  2022年3月号

2021年の牛肉輸出量は36年ぶりの低水準

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肉牛生体取引価格、過去最高を記録も軟化傾向
 肉牛生体取引価格の指標となる東部地区若齢牛指標(EYCI)価格は、年明けに一段高となり1月24日には過去最高の1キログラム当たり1191豪セント(989円:1豪ドル=83円(注1) )を記録したが、その後は下落に転じている(図1)。

(注1)三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「月末・月中平均の為替相場」の2022年1月末TTS相場。


 
 現地報道によると、最近の肉牛価格の動向は、クイーンズランド州の家畜市場における牧草肥育業者の取引状況を反映しているとしている。同州の生産者団体であるアグフォースの肉牛委員会は、肉牛価格が高騰する中、農家における利益確保に向けた販売意欲の高まりなどを背景に、牛群再構築にはまだ一定の時間がかかると述べている。また、畜産調査会社であるトーマスエルダーマーケッツは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のオミクロン株の流行による食肉加工施設の稼働率低下の影響や、ラニーニャ現象による降雨で牧草の生育が良好なことによる肥育農家からの牛の需要の高さから、今後、肉牛価格は横ばい状態での推移が見込まれると述べている。

牛群再構築とオミクロン株の影響でと畜頭数は低位で推移
 牛群再構築が進められる中で、と畜頭数は低位で推移してきたが、COVID-19のオミクロン株の拡大の影響により、食肉処理施設やサプライチェーンでは、2022年の年明けから従業員の自宅隔離の増加などで労働力が不足したため、さらに減少し、同年1月の週間と畜頭数は前年よりも3割程度低い水準で推移している(図2)。このため、22年1月上中旬には、大手小売店ではサプライチェーンの混乱による品不足により、牛赤身肉の購入を1人当たり2点までに制限するなどの事態が生じた。その後、豪州政府の隔離規制の変更(緩和)などを受けて食肉加工施設やサプライチェーンの稼働が徐々に回復してきており、1月下旬時点では小売店での購入制限は解消されている。
 


 

 2021年の牛肉輸出量、主要国では韓国を除き大きく減少
 
豪州農業・水・環境省(DAWE)によると、21年12月の牛肉輸出量は7万7058トン(前年同月比9.4%減)とかなりの程度減少した(表)。また、同年の累計でも90万トンを下回る88万7679トン(前年比14.6%減)とかなり大きく減少した。現地報道によると、21年は牛群再構築が本格化して牛肉生産量が減少したことや、中国との政治的緊張を背景とした同国向け輸出量の減少などにより、牛肉輸出量は36年ぶりの低水準になったとしている。
 輸出先別に見ると、最大の輸出先である日本向けは1万6819トン(前年同月比25.5%減)と大幅に減少し、暦年累計でも23万3818トン(前年比13.2%減)となった。
 米国向けは1万5277トン(前年同月比0.5%増)とわずかに増加したものの、暦年累計では14万5025トン(前年比31.5%減)と大幅に減少した。現地報道によると、これは年間を通して牛群再構築が進む中、農家での雌牛保留意欲が高まり、雌牛のと畜頭数が減少したことで、米国向けに輸出されるひき肉など加工用牛肉の供給に影響を及ぼしたことが一因としている。
 韓国向けは、セーフガードが発動したことにより1万5181トン(前年同月比7.4%減)とかなりの程度減少したが、暦年累計では16万5053トン(前年比2.6%増)とわずかに増加した。
 中国向けは1万3805トン(前年同月比8.9%減)とかなりの程度減少し、暦年累計では14万8357トン(前年比24.6%減)と大幅に減少した。現地報道によると、中国は豪州からの輸入に代わり、南米などからの輸入を増やしてきたが、最近ではアルゼンチンの牛肉輸出規制(注2)やブラジルの非定型BSE発生事例を受け、牛肉の輸入先の多様化を図っているとしている(注3)。なお、1月末時点で対中輸出認定施設のうち10施設が輸出停止となっている。
 

(注2)海外情報「アルゼンチン、牛肉輸出制限措置を追加緩和」(https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_003065.html)を参照されたい。
(注3)『畜産の情報』2022年1月号「堅調な需要から生産量、輸入量ともに増加」(https://www.alic.go.jp/joho-c/joho05_001928.html)を参照されたい。


(調査情報部 国際調査グループ)