ホーム > 畜産 > 畜産の情報 > ニュージーランド酪農における新型コロナウイルス感染症の影響
NZ政府は2021年5月に21/22年度予算案を発表し、農業分野ではバイオセキュリティー関連や温室効果ガス(GHG)排出ガスに関する研究、農場管理計画関連で予算が措置されている(注3)。
(注3)海外情報「NZ政府、温室効果ガス削減対策などの来年度農業関連予算案を公表(NZ)」(https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_002960.html)を参照されたい。
一方、酪農団体であるDairyNZは、予算案は生産者にとって環境改善のための事業を加速させるものは何もないと酷評し、特に農業部門のデジタル化やバイオセキュリティーへの投資が不足していると強調している。
また、NZでは、17年ごろから牛の肺炎や乳房炎の原因となるマイコプラズマ・ボビスによる感染症が拡大していたが、NZ政府は18年に本病の撲滅に向けた取り組みに着手している。21年12月までに国内269カ所の農場で17万3732頭の牛が殺処分され、感染が確認された農場に対し総額2億940万NZドル(163億3320万円)の補償金を支出するほか、対策費用として10億NZドル(780億円)以上を費やしている。
その他、NZ政府は、トレーサビリティ制度である全国家畜識別・追跡(NAIT)制度の運用を19年12月より厳格化している。これにより、家畜売買時に家畜の移動履歴情報を確実に受け渡すこととし、登録タグのない家畜について、例外措置を受けずに輸送すれば法律違反として罰則対象としたほか、家畜盗難や管理外となった家畜の情報保持も義務付けた。
これらの対策が奏功し、21年12月の第一次産業省による酪農家を対象としたマイコプラズマなどの確認のためのスクリーニング調査で本病が確認されたのはわずか3農場と、19年8月調査時の43農場から大きく改善されている。
なお、これまでに本病のために殺処分された頭数は、NZの乳牛飼養頭数の約3%程度であり、生乳生産への影響は軽微なものとなっている(注4)。
(注4)海外情報「マイコプラズマ・ボビス根絶のため、約13万頭の牛を殺処分へ(NZ)」(https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_002227.html)を参照されたい。
DairyNZは、現金給付などの直接的な補償は実施していないが、各酪農場の経営状況を確認するほか、酪農家の収支モデルの共有やワークショップの開催を通じ、酪農家間において経営に関する情報交換を推奨するなど、酪農家へのさまざまな間接的支援を実施している。また、DairyNZは、畜産業界や政府などと共同で、より高収量の牧草の開発に対して資金提供を行っている。
さらに、DairyNZを中心とする生産者団体は、17年11月に新たな酪農業界戦略を発表している(表8)。六つの項目を設定しており、主に持続可能性に焦点を当てた内容となっている。
前述の通り乳価は堅調に推移している中で、ひっ迫した生乳需給を背景に、NZ最大手の酪農協系乳業メーカーであるフォンテラは2021年10月、21/22年度の乳価見通しを乳固形分1キログラム当たり7.90〜8.90NZドル(616〜694円)に引き上げた。このため、酪農家に支払われる額の中間値も8.40NZドル(655円)に上昇し、13/14年度の過去最高値に並んでいる。
その後、フォンテラは、同年12月に発表した21/22年度第1四半期レポート内で同年度の乳価見通しを、乳固形分1キログラム当たり8.40〜9.00NZドル(655〜702円)と、下限値を引き上げてさらに上昇させている(表9)。この結果、酪農家に支払われる額の中間値も8.70NZドル(679円)と過去最高を更新した。これらの動きに対し同社は、乳価の上昇はNZ経済に対し132億NZドル(1兆296億円)以上の貢献につながるとして、酪農部門によるNZ経済への貢献をアピールしている。
なお、フォンテラの最高財務責任者(CFO)は、NZの牛乳生産量はすでにピークに達しており、今後は横ばい状態(フラット・ミルク)になるか、減少に向かうだろうとの見立てを示している。また、NZでは環境関連規制の影響で酪農地の拡大が制限されていることに加え、一部の酪農家に農地の林地や青果用地への用途変更や、住宅開発や太陽光発電所の建設用地への転用の動きが見られることから、酪農地の増加は厳しく、今後、NZ酪農業の大きな成長は期待できない状況にある。このため、世界的な乳製品需要が年間2〜3%伸びている中、持続可能性に注力する同国の商品価値に理解を示す顧客を選別していく時期に来ていると述べている。
一方、輸出面では、NZ政府が現在交渉中、もしくはすでに締結済みで、発効待ちの状況にあるFTAについてNZ産乳製品の関税撤廃などが行われる見込みとなっている。
まず、中国とのFTA再交渉では、これまでの協定内容が維持される一方、大半のNZ産乳製品について1年以内に中国側の特別セーフガード(SSG)措置が撤廃され、粉乳へのSSGも3年以内に廃止される。これにより、24年1月1日までにNZから中国へのすべての乳製品輸出は無関税となる見通しで、輸出の追い風となることが期待されている。
タイに関しては、21年からNZ産の脂肪分1.5%超の粉乳、ホエイ、チーズ、バター、AMFなどの乳製品に課されていた輸入関税・輸入枠が撤廃されている。さらに25年にはその他の乳製品、クリーム、乳飲料、脱脂粉乳などの関税も撤廃されることとなっている。
21年10月に大筋合意が発表された英国とのFTAに関しては、チーズやバターについて、6年目に関税を撤廃(それまでの5年間は無税の関税割当を設定)されることとなっている(注5)。
(注5)海外情報「英国とニュージーランド、FTAで大筋合意(その1:英国側の措置と反応)」(https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_003088.html)および「ニュージーランドと英国、FTAで大筋合意(その2:ニュージーランド側の措置と反応)」(https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_003090.html)を参照されたい。