中国・韓国向けの増加が過去最高の輸出量記録に貢献
米国農務省経済調査局(USDA/ERS)の「Livestock and Meat International Trade Data」によると、2021年12月の牛肉輸出量は13万613トン(前年同月比1.0%増)となった。これにより、21年の年間牛肉輸出量は156万3564トン(前年比16.8%増)と過去最高を記録した(表1)。
同年の輸出量を輸出先別に見ると、前年に引き続き首位の日本向けは37万4842トン(同0.1%減)で前年並みとなったものの、第2位の韓国向けが35万6444トン(同17.9%増)と大幅に増加した。これについて米国食肉輸出連合会(USMEF)は、韓国では小売需要について、店舗での販売に加えて電子商取引による販売も伸びていること、また、米韓自由貿易協定に基づく関税率が引き下げられたこと(発効前関税率40%→22年10.7%)を要因としている。また、第3位である中国向けは、米中貿易協定第一段階合意により市場アクセスが拡大し、24万5421トン(同約4.5倍)と大幅に増加した。
一方、牛肉輸入量については、21年12月は12万3785トン(前年同月比30.3%増)となった(表2)。メキシコとブラジルからの輸入量は12月としては過去最高を記録した。ブラジルからの輸入増は、豪州からの輸入量が減少する中で、中国が非定型BSEの発生により一時的にブラジル産牛肉の輸入を停止したことやEUの小売チェーンが放牧地造成などの環境問題からブラジル産牛肉を敬遠したことで、それらが米国向けに回された結果とみられている。
また、21年の年間牛肉輸入量は151万8408トン(前年比0.2%増)となった。輸入先別に見ると、豪州は、同国での牛群再構築に伴う牛肉生産量の減少から18万7459トン(同37.7%減)と大幅に減少した。一方で、隣国のカナダとメキシコからの増加に加えて、上述の通りブラジルからの輸入量が急増したことで、豪州分の減少を相殺する形となった。米国では、ブラジルからの生鮮牛肉の輸入が20年に解禁されたことで、21年を通して牛肉輸入量の増加が続いた。
オミクロン株の拡大で食肉処理が停滞
米国農務省全国農業統計局(USDA/NASS)の「Livestock Slaughter」によると、2022年1月の牛と畜頭数は269万9000頭(前年同月比1.6%減)と前年同月をわずかに下回った(図1)。現地報道によると、食肉処理場の労働者に新型コロナウイルスのオミクロン株感染が広がったことなどで、工場稼働率が低下したことなどが要因とされている。
同じくUSDA/NASSの「Cattle on Feed」によると、22年1月のフィードロット導入頭数は199万9000頭(同1.2%減)、出荷頭数は177万3000頭(同3.1%減)となった。この結果、22年2月のフィードロット飼養頭数は1219万9000頭となり、前年同月を0.8%上回った(図2)。現地報道によると、USDAが1月に公表した22年1月1日現在の牛の総飼養頭数は減少したものの、食肉処理場の稼働率が低かったことなどで、出荷されずにフィードロットにとどまったものとされる。
需要増により卸売価格が高騰
米国農務省農業マーケティング局(USDA/AMS)によると、2022年1月の牛肉卸売価格(カットアウトバリュー
(注1))は100ポンド当たり282.54米ドル(1キログラム当たり726円:1米ドル=116.55円
(注2)、前年同月比30.4%高)と大幅に上昇した(図3)。昨年の4月以降、高値で推移している価格状況について米国の食肉処理産業は、経済回復に伴う食肉需要の急増や新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行(パンデミック)に起因する供給網の混乱、さらに、労働力不足と輸送コストの上昇を反映したものであると主張している。
一方で、バイデン政権は22年1月、食肉処理産業は寡占状態にあり、パンデミックを利用して不当に利益を搾取しているとして、食肉処理加工業の競争促進のため、新たな独立系の食肉処理場への助成金や融資などを含む措置を発表している。
(注1)各部分肉の卸売価格を1頭分の枝肉に再構築した卸売指標価格。
(注2)三菱UFJサーチ&コンサルティング株式会社「月末・月中平均の為替相場」の2022年2月末TTS相場。
USDA/NASSの「Cold Storage」によると、22年1月の牛肉の期末在庫量は24万800トン(前年同月比0.4%増)と高い水準となった(図4)。現地報道によると、牛肉価格が1月に高騰したことで、部分肉の購入が控えられて在庫に滞留したとの見方や、アジア地域への輸出に向けて太平洋側の倉庫に積み増しされているとの分析も出ている。
(調査情報部 上村 照子)