畜産 畜産分野の各種業務の情報、情報誌「畜産の情報」の記事、統計資料など

ホーム > 畜産 > 畜産の情報 > ピンチをチャンスに〜コロナ禍に挑む飛騨牛復興プロジェクト〜

話題 畜産の情報  2022年4月号

ピンチをチャンスに〜コロナ禍に挑む飛騨牛復興プロジェクト〜

印刷ページ

飛騨農業協同組合 営農部 販売戦略課 課長 橋本 直幸

1.はじめに

 飛騨農業協同組合(以下「JAひだ」という)は、平成7年4月に岐阜県飛騨地域1市2郡15市町村(当時)を管内とした6JAが組織の基盤強化と経営安定、ひいては地域社会に貢献することを目的に合併し、誕生しました。また、6年後の13年9月には旧益田郡内4JAと合併し、飛騨地域1市3郡20市町村(当時)に及ぶ岐阜県内でも有数の組合員数、資金力、営農施設などを有する組織体となりました。JAひだの位置する飛騨地域は岐阜県北部にあり、東に乗鞍岳をはじめとする北アルプスや御岳、西に白山連峰を望む高い山々に囲まれています(図1)。ここでつくられる米、野菜および果物などは昼夜の大きな気温差、冷涼な気候などにより飛騨特有の自然の恵みを受けて育てられています。


 
 特に、長い年月をかけて作り上げられた血統や優れた生産技術が織り成す飛騨牛は、地域産業の要となっており、今や「Hida Beef」として海外でも認知され、わが国を代表する和牛ブランドの一つとなっています。その肉質は、きめ細やかでやわらかく、網目のような霜降りと豊潤な味わいが特徴です。5年に一度開催される和牛のオリンピックとも言われる「全国和牛能力共進会」で日本一の称号を獲得しています。観光産業が盛んな飛騨地域の観光資源としての役割も果たしており、飛騨牛の生産状況は表1の通りとなっています。
 しかし、令和2年に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大により、緊急事態宣言が発出され、飛騨地域においても同年3月以降観光客の足が遠のき、5月には高山市観光客入込者数が前年同月比96.8%減と大幅に落ち込みました。あれから2年経ち、廃業という選択肢が頭をよぎる危機的な状況から脱出する兆候が少しずつみられるものの、観光客は依然として元に戻らない状態が続いています(図2)。



2. コロナ禍における取り組み〜クラウドファンディングの目的、取り組みなど〜

 COVID-19の影響により、飛騨牛は行き場を失ったため、生産者や小売店は多大な影響を受け、JA飛騨ミート(以下「飛騨ミート」という)でのセリ価格は令和2年4月の去勢A5等級取引単価は、前年同月比38%安となりました(図3)。そこで、JAひだ、十六総合研究所、飛騨信用組合の金融機関とネット通販・ECコンサルティング会社(株式会社ヒダカラ)、などが連携するとともに、高山市、飛騨市、下呂市、白川村の後援により、「#おうちで飛騨牛」プロジェクト実行委員会を立ち上げ、飛騨牛の復興のために業界の垣根を超え、かつスピード感を持って取り組みました(表2)。これは、畜産農家や精肉業者を食べて応援することによりALL飛騨で地元ブランドを守りたいとの考えに至ったことから、クラウドファンディング(注)を活用し、飛騨牛の流通促進を図ることがねらいとしてあったためです(図4)。具体的な支援内容としては、支援をいただいた方には、支援金によりリターン品を設定し、1万円の方には飛騨牛1キログラム以上の福袋、2万円の方には飛騨牛の塊肉1.5キログラム以上、30万円の方には飛騨牛のステーキ・焼き肉食べ比べセットを2回定期便として発送することとしました。






 その結果、ゴールデンウイークを含む12日間で支援者1万人から支援総額1億1437万円を集め、当初の目標金額である1000万円の10倍強となるご支援をいただきました。この結果、国内最大のクラウドファンディングサイト「CAMPFIRE」において、私たちが取り組んだプロジェクトが令和2年に掲載された1万3000件のプロジェクトの最高位となる総合賞1位を受賞し、同アワードが開始された平成29年以来、食品部門での初の最高位受賞となりました。さらには、「みんなで飛騨牛、飛騨路で飛騨牛、おうちで飛騨牛第2弾」(期間:令和3年7月29日〜8月31日、支援額:2007万円)を実施するなど、新たな飛騨牛のファンを獲得するとともに、中長期的な消費拡大を図ることができたのです。

(注)クラウドファンディングとは、「群衆(クラウド)」と「資金調達(ファンディング)」を組み合わせた「インターネット上のプラットホームを介して不特定+の人々から資金を調達する」ことを指す造語。主に購入型、寄付型、様式型、ファンド型、融資型、ふるさと納税型の6種類に分類される。本稿で紹介しているのは購入型で、実現したい夢や活動をプロジェクト化して資金を募り、プロジェクトを支援した人がモノやサービスのリターンを得られる仕組み。支援者はリターン品やサービスを購入するイメージで支援することができる。

3.取り組みによる成果

 クラウドファンディングによる成果については、まず枝肉相場の回復の一助となったことが挙げられます。令和2年、東京市場よりも早く相場が回復したことにより、生産者の生産意欲の復活につながったものと考えられます(図5)。また、クラウドファンディングのリターン品の設定により、滞留していた特に観光業向けの高級部位の在庫が解消されました。さらに、リピーターによる飛騨牛の消費拡大も挙げられます。コロナ禍による巣ごもり需要もあり、令和2年度のJAひだのネット販売実績は前年度の4倍にまで拡大しました。他精肉店においても、リピーター、定期購入につながりました。この結果、飛騨地域の生産者・精肉店は1軒も廃業せずに営業を続けています。
 この他にも、支援者からいただいた支援金の一部を令和4年度鹿児島県で開催される第12回全国和牛能力共進会に参加する県内の学生(将来の飛騨牛の担い手)へ活動資金として寄付する予定としています。

4.おわりに

 今回の取り組みを通じて、飛騨牛ファンが全国に多く存在していることを実感し、生産者、精肉店、関係団体共に改めて安全安心でおいしい飛騨牛を消費者の方にお届けするために日々こだわり、高みを目指し生産、流通、販売に取り組む重要性を再認識しました。また、支援者の方からいただいた「おいしかった」というメッセージはわれわれにとって、何よりの原動力であり、最高の支援であると感じました。
 当JAでは、飛騨ミートとの連携によって米国への初輸出を令和3年9月に実現させました。これは飛騨ミートが加工する部分肉の賞味期限をこれまでの真空包装・4度保管で60日から100日に延長することにより、低コストの船便で冷蔵牛肉を輸送することが可能となり、価格競争力を向上することが期待できます。4年3月には米国でのプロモーションも予定しており、飛騨牛の販路拡大に取り組んでまいります。

(プロフィール)
 平成7年4月 飛騨農業協同組合 入組(本店)
   11年4月 荘川支店 営農生活課
   18年4月 飛騨農協協同組合 本店
 令和2年4月 現職