(1)パンデミックによると畜への影響の現状
パンデミックの影響によって2020年に複数の食肉処理・加工施設の稼働が止まり、特に同年3〜5月は大幅に減少したが、現在と畜頭数は、パンデミック前の水準にまで戻ったと言える。22年1月から2月中旬における牛の1日平均と畜頭数は平日で約11万7000頭、土曜日で約5万3000頭であり、パンデミック前の19年第1四半期の水準を超えている(図30)。
また、22年1月から2月中旬における豚の1日平均と畜頭数は平日で約45万7000頭、土曜日で約19万2000頭であり、パンデミック前の19年第1四半期の水準を超えている(図31)。
(2)肉用牛・牛肉の需給見通し
@) 飼養頭数
2022年1月1日時点の牛総飼養頭数は乳用種を含めて9190万頭(前年比2.0%減)と減少した。また、経産牛は乳用種を含め3950万頭(同2.0%減)、そのうち肉用種は3013万頭(同2.3%減)といずれも減少した(図32、表4)。
さらに、21年の子牛出生頭数も3509万頭(同1.2%減)と減少した(図33)。肉用繁殖後継牛頭数も561万頭(同3.3%減)、そのうち22年内分娩予定頭数も341万頭(同2.8%減)と減少しており(表4)、牛総飼養頭数は22年のうちにさらに減少する見通しである(図32)。
22年1月1日時点の肥育仕向け予定頭数は4023万頭(前年比1.6%減)と減少した。そのうち、フィードロット飼養頭数は1469万頭(同0.2%増)とわずかに増加したが、フィードロット外の飼養頭数は2554万頭(同2.6%減)と減少した(図34)。米国南部における干ばつの影響により、一部地域の牧草在庫がひっ迫したことからフィードロットへの導入が進んだものと考えられる。繁殖後継牛あるいは肥育仕向けの動向にも注視が必要であるものの
(注3)、22年後半に見込まれる干ばつからの回復に伴う牧草育成状況の改善も相まって22年の年間肥育頭数は減少する見通しである。
(注3) 現在米国では、干ばつの影響で牧草供給が減少傾向であることから(1)肥育適正期でない牛がフィードロットに導入される(2)繁殖後継牛に回さず肥育に仕向けられる雌牛がフィードロットに導入される―という状況にある。
肥育頭数の減少は生体輸入の増加につながるが、主要な生体輸入元であるメキシコおよびカナダにおいても牛肉供給が比較的ひっ迫していることから、生体輸入が急増することはなく、22年の生体輸入頭数は200万頭(前年比11.1%増)程度を見込んでいる。
A) 牛肉生産量
2021年の牛肉生産量は1267万2000トン(前年比12.8%増)と増加したが、前述の肥育頭数の減少および牧草育成状況の改善に伴うフィードロット導入頭数の減少により、22年の牛肉生産量は1241万7000トン(同2.0%減)と減少する見通しである(図35)。また、等級の高い牛肉の需要が高まることなどの理由から、と体重量は増加する傾向にある。
B) 肥育牛平均価格
このように、肥育牛供給の減少および牛肉需要の高まりから、肥育牛価格にも影響が生じている。2021年の主要5地域の肥育牛平均価格は100ポンド当たり122.4米ドル(1キログラム当たり314.5円、前年比12.8%高)と大幅に上昇した。この状況が継続することから、22年の肥育牛価格は100ポンド当たり137.5米ドル(1キログラム当たり353.3円、同12.3%高)と15年以来の高値となることが見込まれる(図36)。
C) 牛肉輸出量
2021年の牛肉輸出量は156万4000トン(前年比16.8%増)と大幅に増加した(図37)。日本、メキシコ、カナダ、台湾への輸出量は減少したが、韓国および中国への輸出量が増加した(表5)。特に、中国への輸出量は24万5000トン(同354%増)と大幅に増加しており、牛肉輸出量全体の増加の要因となった。中国における米国産牛肉の需要の高まりは、食生活の変化、米国産牛肉の輸入制限政策の変更によるものだと考えられる。その結果、牛肉輸出量全体の中国への輸出量は20年の4.0%程度から21年には15.7%にまで増えた。
一方で、22年の牛肉輸出量は、牛肉生産量の減少が輸出に抑制的に働き、148万3000トン(同5.1%減)と減少する見通しである(図37)。さらに、牛肉価格の上昇が外国市場における価格競争力の低下を招き、豪州やブラジルなどの輸出志向の国における牛肉生産量の増加により、競争の激化が見込まれる。
D) 牛肉輸入量
2021年の牛肉輸入量は151万8000トン(前年比0.2%増)と豪州産牛肉の輸入量減少がカナダ、メキシコ、ブラジル産牛肉の輸入量増加によって相殺された形である(図38、表6)。特に、ブラジル産牛肉はこれまで中国が主要市場であったが、ブラジル国内における非定型BSEの確認により、中国による一時輸入停止措置がとられた結果、米国市場に多くのブラジル産牛肉が仕向けられたものと考えられる。
一方で、22年の牛肉輸入量は152万9000トン(同0.7%増)と21年と同水準の見通しである(図38)。特に、21年に輸入量が急増したブラジル産牛肉については、中国への輸出が再開していることから輸入量の増加は見込まれない。また、豪州においては干ばつからの回復により、22年後半には牛肉生産量が増加する可能性が高く、注視が必要である。
(3)養豚・豚肉の需給見通し
@) 飼養頭数
2021年12月1日時点の豚総飼養頭数は7420万頭(前年比4.0%減)と減少し、17年以来最も少なくなった(図39、表7)。一方で、同日時点の繁殖母豚頭数は618万頭(同0.1%増)と前年とほぼ同水準となった(図40、表7)。これはCOVID–19による影響や生産費上昇などに伴い、豚1頭当たり平均利益が安定しておらず、生産者が豚の増産に慎重な姿勢を示した結果、21年の分娩頭数が減少したためだと考えられる(図41)。22年の第1、2四半期においてもこの傾向は続く見通しである。
A) 豚肉生産量
2021年の一腹当たり平均産子数は第1、2四半期には減少したものの、第3、4四半期には増加に転じた(図42)。従って、22年の豚肉生産量は、生産者による分娩・生産計画の影響を受けることになるが、前述の通り、22年の分娩頭数は上半期が減少傾向であり、下半期には増加傾向に転じるものの、22年全体として減少する見通しである。そのため、豚肉生産量も21年の1255万2000トン(前年比2.2%減)から22年の1241万9000トン(同1.1%減)とさらなる減少が見込まれる(図43)。
B) 豚肉輸出量
2021年の豚肉輸出量は318万9000トン(前年比3.4%減)と減少した(図44)。これはアフリカ豚熱の発生の影響を受け、豚肉の輸入需要の高まりを見せていた中国が徐々に生産を回復し始めたこと、他の主要豚肉生産国との競争が激化したことなどによる。この傾向が継続することから22年の豚肉輸出量も309万トン(同3.1%減)と減少する見通しである(図44)。
C) 豚肉輸入量
2021年の豚肉輸入量は53万5000トン(前年比30.5%増)と大幅に増加し、2003年以来の高水準となった(図45)。これは米国内の豚肉需要の高まりだけでなく、中国からの豚肉輸入量の減少により、他の主要豚肉生産国による米国市場への参入が増加したためである。この傾向の継続と米国内の豚肉生産量の減少を受け、22年の豚肉輸入量は59万4000トン(同11.0%増)とさらなる増加を見込んでいる。
D) 肥育豚価格
2021年の赤身率51〜52%の生体ベースの肥育豚価格は豚肉生産量の減少のほか、労働力不足、サプライチェーンの混乱、インフレによる影響も受け、100ポンド当たり67.29米ドル(1キログラム当たり172.9円、前年比55.8%高)と大幅に上昇した(図46)。22年においては、豚肉生産量が減少するものの、輸出量の減少や輸入量の増加により、国内流通量が増加することから、肥育豚価格は100ポンド当たり65.00米ドル(1キログラム当たり167.0円、同3.4%安)と低下する見通しである(図46)。
(4)肉用鶏・鶏肉の需給見通し
@) 鶏肉生産量
2021年の鶏肉生産量は、20年後半から21年前半にかけて飼料価格が上昇した影響で生産量が伸び悩み、2036万1000トン(前年比0.7%増)とわずかな増加にとどまった(図47)。その後、飼料価格の改善が生産量増加のさらなる後押しとなるが、肉用種鶏卵のふ化率が比較的低い状況にあるため、22年の鶏肉生産量は2063万2000トン(同1.3%増)とわずかな増加にとどまる見通しである(図47)。
A) 肉用種鶏飼養羽数
2021年の肉用種鶏飼養羽数は年間を通じて前年を上回り、種鶏100羽当たり産卵数もほぼ前年を上回ったが、ふ化率が前年を下回ったため、導入羽数が伸び悩んだ(図48、49)。22年においてもふ化率の低水準が継続する見通しであり、種鶏飼養羽数の増加により、導入羽数の維持を図るものと見込まれる。
B) 鶏肉輸出
2021年の鶏肉輸出量は334万トン(前年比増減なし)と2年間の横ばいが続いたが、22年には335万トン(前年比0.1%増)と前年並みの見通しである(図50)。米国産鶏肉の第一位、第三位の輸出先であるメキシコ、中国においては、鶏肉輸入が増加すると予測されており、輸出量の増加に働く可能性があるが、米国内の鶏肉価格の上昇により、価格競争が激化すると見込まれる。
C) 丸鶏卸売価格
2021年の丸鶏卸売価格は、労働力不足やインフレの影響もあり1ポンド当たり1.01米ドル(1キログラム当たり259.5円、前年比38.3%高)と大幅に上昇した(図51)。22年においても1ポンド当たり1.13米ドル(1キログラム当たり290.4円、同11.7%高)とかなり大きく上昇し、過去最高値を記録する見通しである(図51)。
(5)採卵鶏・鶏卵の需給見通し
@) 鶏卵生産量
2021年の総鶏卵生産量は92億3000万ダース(前年比0.7%減)と減少したが、22年は94億3000万ダース(同2.2%増)と増加に転じる見通しである(図52)。
A) 鶏卵価格
2021年の食用鶏卵の価格は変動が激しく、1ダース当たりの鶏卵卸売価格は第1四半期の1.28米ドル(149.2円)から第2四半期の0.94米ドル(109.8円)まで低下、その後、第3四半期で1.20米ドル(139.9円)、第4四半期で1.35米ドル(153.6円)まで上昇した(図53)。この激しい価格変動により、生産者が鶏卵生産に慎重な姿勢を示した結果、22年1月1日時点の採卵鶏飼養羽数は3億2600万羽(前年比0.2%減)と減少傾向を示した(図54)。今後、供給量が伸び悩む一方で、鶏卵需要の高まりが継続することから、22年の1ダース当たりの鶏卵卸売価格は1.32米ドル(153.3円、同11.3%高)と上昇する見通しである。
B) 鶏卵輸出
2021年の鶏卵・鶏卵製品輸出量は殻付き換算で3億9200万ダース(前年比14.0%増)と大幅に増加した(図55)。これは高病原性鳥インフルエンザの発生により国内需給がひっ迫した韓国への輸出量が増加したためだと考えられる。22年の鶏卵・鶏卵製品輸出量は3億5500万ダース(同9.5%減)と韓国の回復に伴い減少する見通しである。