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海外情報 畜産の情報 2022年4月号

米国農畜産業の展望 〜2022年農業アウトルック・フォーラムから〜

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調査情報部 国際調査グループ

【要約】

 米国農務省は農業アウトルック・フォーラムの中で、2022年における畜産需給の見通しを発表した。
 酪農・乳業:乳用経産牛頭数は減少傾向にあるが、1頭当たり乳量の増加により生乳生産量は増加する見通しである。しかし、世界的な乳製品の需要の高まりに鑑みると生乳の供給はひっ迫しており、乳価は前年比で上昇する見通しである。
 肉用牛・牛肉:総飼養頭数は減少傾向にある。21年には米国南部の干ばつの影響により肉用経産牛の淘汰とうたが進み、肥育牛の供給が減少することから牛肉生産量は減少する見通しである。
 養豚・豚肉:総飼養頭数と子豚出生頭数が減少傾向にあるため、豚肉生産量は減少する見通しである。中国のアフリカ豚熱からの回復による同国への輸入量減少から、米国の豚肉輸出は減少するものの、豚肉需要が強いことから豚肉輸入量は増加する見通しである。
 肉用鶏・鶏肉:種鶏卵のふ化率の低調があるが、種鶏飼養羽数を増加させることで鶏肉生産を支えており、飼料価格が上昇する中でも鶏肉生産量は増加傾向にある。労働力不足や生産費上昇から鶏肉価格は上昇する見通しである。
 採卵鶏・鶏卵:減少傾向にあった鶏卵生産量は増加に転じる見通しである。供給量が伸び悩む一方で、鶏卵需要は継続して強く、鶏卵価格は上昇を見込んでいる。韓国の生産量の回復に伴い輸出量は減少する見通しである。

1 はじめに

 米国農務省(USDA)による2022年農業アウトルック・フォーラムが2月24、25日の2日間にわたりオンラインで開催された。本フォーラムは今後の米国農業の動向を公表するものとして、毎年開催されている。2021年は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大(パンデミック)の影響を考慮して初のオンライン開催となったが、22年も同様にオンライン開催となった。
 本フォーラムでは、ヴィルサック長官による講演のほか、米国農業をめぐる情勢や今後の需給見通しなど、米国内で注目度の高いテーマについて幅広く講演が行われた。本稿では、これらの講演を踏まえ、米国畜産物の需給見通しを中心に報告する。
 なお、本稿中の為替レートは、1米ドル=116.55円(三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「月末・月中平均為替相場」の2022年2月末TTS相場)を使用した。

2 トム・ヴィルサック農務長官による講演概要

 本フォーラムの開催に当たって、ヴィルサック長官による講演が行われた。ヴィルサック長官は、米国産農畜産物の輸出促進、食肉・食鳥処理・加工能力の向上支援、食肉市場の透明性の確保および競争力強化、気候変動対策・持続可能性などについて触れ、2022年の米国農畜産業の躍進を誓った。
 

(1)米国産農畜産物の輸出促進

 ヴィルサック長官は2月、アラブ首長国連邦(UAE)ドバイを訪問し、農業貿易ミッションに参加した。本ミッションでは、米国食品関係企業から41名が参加し、現地企業と300もの商談を実施するなど大きな成功を収めたという。
 ドバイは、潜在的な可能性を持つ中東の市場で、人口拡大が見込まれるアフリカの市場への入口であるとして、ドバイへの進出の重要性を説いた。また、輸出先国の多様化も重要であるとして、2022年にはその他の外国市場への積極的な進出に取り組む意向を示した。
 また、多数のコンテナが空の状態でアジア地域に返送され、輸出に影響していることについても言及し、1月にUSDAが公表したオークランド港の処理能力向上支援を紹介した(図1)。なお、本支援では、25エーカー(10万1171平方メートル)のコンテナヤード整備費用の60%の補助、同港を経由することで生じる掛かり増し経費の負担軽減として、コンテナ1個当たり125米ドル(1万4569円)の補助が行われる。


 

(2)食肉・食鳥処理・加工能力の向上支援

 本フォーラムの開催に合わせ、食肉・食鳥処理・加工能力の向上とそれによるサプライチェーン強化および農村部における雇用・経済機会の創出に向けた新たな支援が発表された。本支援は1月にバイデン政権が発表した「より公平で、より競争力があり、より回復力がある食肉・食鳥のサプライチェーンに向けたアクション・プラン」(図2)に沿ったものであり、食肉生産能力の向上と競争性の確保を図り、食肉価格の上昇を抑えることを目的としている。今回、新たに発表された支援は以下の通りである。


@)食肉・食鳥処理・加工施設の新設・拡大・設備整備支援
 大手食肉会社に依存しない中小規模の食肉・食鳥処理・加工施設(独立系施設)の能力向上を図るために1億5000万米ドル(174億8250万円)を措置する。1施設当たり2500万米ドル(29億1375万円)を上限として、施設の新設・拡大、機器・機材などの設備整備を支援する。

A)学生向け人材育成支援
 米国農務省食品農業研究所(USDA/NIFA)による既存の人材育成プログラムを通じて、食肉・食鳥処理・加工を専門とする短期大学や専門学校における労働訓練を支援するため、4000万米ドル(46億6200万円)を措置する。

B)独立系施設への技術支援
 関連事業への申請、施設運営計画などに助言を要する独立系施設に技術支援を実施するため、2500万米ドル(29億1375万円)を措置する。

C)その他
 2022年夏にはさらに2億2500万米ドル(263億2375万円)の施設・設備の整備等への支援、2億7500万米ドル(320億5125万円)の独立系施設への低金利融資を行う融資制度を実施する予定である。
 

(3)食肉市場の透明性の確保および競争力強化

 今後数カ月以内にもパッカー・ストックヤード法に基づく新たな規則案を公表し、パブリックコメントを開始するとした。本件も上記アクション・プランに沿った取り組みである。
 なお、USDAは2021年6月、市場競争を阻害する不公正で欺瞞ぎまん的な行為から肉用牛、肉豚、肉用鶏の生産者を保護するために以下の3点について、新たな規則を制定することを公表済みであるが、食肉業界からは、生産者と食肉・食鳥処理・加工業者の関係性の破壊、持続可能な生産性向上の阻害、消費者需要に対応する業界の体制の破壊などにつながり得ると批判の声も上がっている。
@) 「不公正で欺瞞的な行為」などを明確化する規則
A) 「家きん生産者トーナメントシステム」(注1)に関する新たな規則
B)  訴訟時の「反競争的である証明を不要とすること」を明確化する規則

(注1) 家きん生産者トーナメントシステム
 肉用鶏業界では食鳥業者が肉用鶏生産者に委託契約を交わすことが主流となっており、肉用鶏の出荷に応じて報酬を支払う仕組みをとっている。
 報酬額は「出荷時の肉用鶏総重量」に「単位重量当たり報酬額」を乗じることで決まることが多く、「単位重量当たり報酬額」は「最低支払額」に「肉用鶏生産者の平均生産コスト」から「契約農家の生産コスト」を除した額を「最低支払額」に加えた額とすることが一般的である。すなわち、生産コストの削減を競わせるいわゆる「トーナメントシステム」が成り立っている。

 

(4)気候変動対策

 ヴィルサック長官は2月21日、ドバイにおいて、気候変動に対応したイノベーションミッション(AIM4C)(注2)に関する第1回閣僚会合に議長として参加した。AIM4Cの設立時は日本を含む34カ国と49機関等の合計83の国・機関等であったが、2月時点で140の国・機関等を超えたという。また、AIM4Cの目的の一つとして、気候変動に対応した農業・食料システムの技術革新への官民投資を2021年から2025年までの5年間で大幅に増額することを掲げており、今般、設立時に設定した投資拡大目標・見通し額である40億米ドル(4662億円)を80億米ドル(9324億円)にまで引き上げた。

(注2) 気候変動に対応したイノベーションミッション(AIM4C)
 AIM4Cは、2021年4月に米国が主催した気候サミットで米国とUAEが共同で発表したイニシアチブ(戦略)であり、同年11月に開催されたCOP26で正式に設立が発表された。
 気候変動に対応した農業・食料システムの技術革新への官民投資の大幅増額、国を超えた技術的・専門的な議論の場の提供、各国の研究成果の共有を目的としており、研究機関の基礎研究と官民による応用研究の推進、革新的製品・サービスの開発・実証・普及について、官民投資を加速することとしている。

 

(5)持続可能性

 長官就任前の日本訪問時の出来事を紹介しつつ、消費者が気候変動に対応し、環境保護に貢献する農畜産物を求めているとして、10億米ドル(1165億5000万円)を財源にパイロット農場を設定した実証プログラムにより、温室効果ガス排出量の削減、二酸化炭素の吸収など気候変動に対応した技術革新を進めていくとした。そして、気候変動に対応した農畜産業の実施により、生産者が新たな市場に参入することができる可能性や、新たな投資を呼び込む可能性があり、収入の多様化にもつながると強調した。
 さらに、米国環境保護庁(EPA)による再生可能燃料産業への支援にも触れつつ、化石燃料の大幅削減を求められている航空産業へのバイオ燃料の活用可能性を見いだすべく技術革新に取り組んでいくこととした。

3 米国酪農・乳業の需給見通し

(1)2021年の動向

 2021年はパンデミックによる経済への影響が続き、従業員の感染などにより乳業工場においても労働力不足が生じた(図3)。また、トラック運転手の不足や港湾混雑に起因する運送費の大幅な上昇につながり(図4)、消費者価格の上昇の一因ともなった。
 



 

(2)乳用牛飼養頭数と生乳生産量

 2022年1月1日時点の乳用経産牛飼養頭数は937万5000頭(前年同日比0.7%減)と減少した(表1、図5)。また、同日時点の未経産牛(乳用後継牛)頭数も445万1000頭(同3.4%減)と減少した(表1)。22年も減少傾向が継続し、年平均飼養頭数は936万頭(前年比0.9%減)と前年を下回る見通しである(図6)。






 そのような中、21年の1頭当たり年間乳量が1万863キログラム(前年比0.7%増)と増加したことから(図7)、21年の生乳生産量は1億263万トン(同1.3%増)と増加した(図8)。22年も飼料価格の高騰による乳量減少要因はあるものの、遺伝技術の改良傾向を加味すると1頭当たり年間乳量は1万1004キログラム(同1.3%増)と増加するが、乳用経産牛の減少が影響し、生乳生産量は1億306万トン(同0.4%増)とわずかな増加にとどまる見通しである。




 

(3)乳価の見通し

 2021年の全米平均総合乳価は徐々に上昇し、第4四半期の平均乳価は100ポンド当たり20.60米ドル(1キログラム当たり52.93円、前年同期比3.9%高)と前年同期の平均乳価を超えた(図9)。
 22年の全米平均総合乳価は、生乳供給のひっ迫とそれによる乳製品卸売価格の上昇により、第1四半期には100ポンド当たり23.85米ドル(1キログラム当たり61.28円、同37.6%高)まで上昇する見通しである(図9)。しかしながら、この乳価上昇は、増加傾向にある飼料費、輸送費、燃料費、肥料費を含む生産コストによって相殺されてしまうことから、生産者の乳用牛増頭には抑制的に働くことと予測される。


 

(4)主な乳製品の卸売価格

@) バター
 2021年のバター総供給量は、乳用牛飼養頭数の減少に伴う生乳生産量の減少、COVID-19の影響を受けた一部のバター製造工場の稼働停止を受け、9月以降は前年同月を下回り、12月には18万2000トン(前年同月比13.6%減)まで減少した(図10)。一方で、世界的にバターの供給が減少し、米国のバター価格が欧州や大洋州のバター価格を下回ったこともあり、21年のバター輸出量は4万4600トン(前年比109.7%増)を記録した(図11)。米国内消費量も堅調に推移し、97万800トン(同2.4%増)と増加した(図12)。
 22年のバター卸売価格は、第1四半期から第4四半期まで徐々に低下するものの、年間平均卸売価格は1ポンド当たり2.30米ドル(1キログラム当たり591円、前年比32.8%高)と大幅に上昇する見通しである(図13)。このバター卸売価格の上昇により世界的な価格水準へと収束すること、米国内のバター需要の高まりなどを背景にバターの輸入量の増加が見込まれる。








 
A) チーズ
 2021年のチーズの米国内消費量は589万8000トン(前年比2.7%増)と増加し、需要の強さは継続した(図14)。そのため、生産量も618万トン(同2.8%増)と増加し(図15)、輸入量も14万4800トン(同13.2%増)と増加した(図16)。一方で、チーズの在庫数量は増加傾向にあり、21年最終在庫数量が65万5500トン(前年比4.0%増)と増加し、過去最高を記録した(図17)。また、21年のチーズの輸出量は、米国チーズ価格が国際水準を下回ったことを背景に、40万4700トン(同13.9%増)と増加した(図18)。









 
 22年のチーズ価格は、生乳生産量の伸び悩みによりチーズ向け乳価が上昇傾向をとる一方で、チーズ生産能力の向上などにより、価格上昇は抑制されて年間を通じてほぼ横ばいに推移し、年間平均1ポンド当たり1.875米ドル(1キログラム当たり482円、前年比11.9%高)となる見通しである(図19)。


B) 脱脂粉乳
 2021年の脱脂粉乳の総供給量は世界的な生産量の減少を背景に284万9000トン(前年比1.4%減)と減少した(図20)。世界的な供給ひっ迫だけでなく、米国の価格が欧州や大洋州の価格を下回ったこともあり、輸出量は89万2500トン(同10.2%増)とかなり増加した(図21)。一方で、米国内価格として見れば上昇傾向にあったため、米国内消費量は30万1900トン(同24.0%減)と大幅に減少した(図22)。





 

 22年の脱脂粉乳卸売価格は、第1四半期以降も高値が維持され、年間平均で1ポンド当たり1.55米ドル(1キログラム当たり398円、前年比22.1%高)と上昇する見通しである(図23)。


C) 乾燥ホエイ
 乾燥ホエイの供給は世界的に減少しており、米国においても2021年の乾燥ホエイの生産量は41万9300トン(前年比2.8%減)、21年最終在庫数量は2万6400トン(同16.9%減)と減少した(図24、25)。一方、世界的なひっ迫から、21年の輸出量は22万5300トン(前年比5.2%増)と増加した(図26)。これは21年前半に輸出量が増加したものの、後半には生産量の減少および消費量の増加によって、在庫の減少とそれに伴う米国内価格の上昇が生じ、輸出量が減少したためである。
 





 乾燥ホエイ価格は、供給の減少が22年後半まで継続すると見込まれていることから、1ポンド当たり0.65米ドル(1キログラム当たり166円、前年比12.3%高)と高値で推移する見通しである。(図27)。


 

(5)乳製品の輸出入

 2021年の米国の乳製品輸出は主要輸出国の生乳生産量が伸び悩む中、世界的な乳製品需要の高まりから、乳脂肪ベースで527万トン(前年比25.4%増)と大幅に、無脂乳固形分ベースでは2319万2000トン(同8.3%増)とかなり増加した(図28、表2)。
 22年の乳製品輸出入は前述の通り、米国内のバター価格などが国際水準に収束すること、脱脂粉乳およびホエイの価格が国際水準を下回ることなどから、乳脂肪ベースでは輸出量減少および輸入量増加、無脂乳固形分ベースでは輸出量増加および輸入量減少が見込まれる。具体的には、22年の乳製品輸出量は乳脂肪ベースで499万トン(同5.3%減)と減少し、無脂乳固形分ベースで2322万4000トン(同0.1%増)とわずかに増加する見通しである。一方、乳製品輸入量は乳脂肪ベースで313万トン(同5.6%増)と増加し、無脂乳固形分ベースで258万5000トン(同1.1%減)と減少する見通しである(図29、表3)。







コラム1 米国海上輸出の現状と米国畜産・酪農業界の港湾混雑への声

 海上輸出による輸出額は牛肉87億5000万米ドル(1兆198億1250万円)、豚肉が55億米ドル(6410億2500万円)、陸上輸出は牛肉が18億米ドル(2097億9000万円)、豚肉が26億米ドル(3030億3000万円)であった。この数字だけ見ても、米国畜産業にとって、海上輸出の重要性が分かるだろう。
 海上輸出を港湾別に見ると、2021年の牛肉輸出は西海岸の港湾だけで約74%を占め、オークランド港が最も多く、ロサンゼルス港とロングビーチ港が続いている(コラム1−図1)。豚肉輸出でも西海岸だけで54%を占め、牛肉と同様にオークランド港が最も多く、ロサンゼルス港とロングビーチ港が続いている(コラム1−図2)。




 さらに、上位10港を市場別に見ると、牛肉では日本、韓国、中国、台湾、香港、インドネシアといったアジア向けがほぼ西海岸を占め、上位3港のほか、シアトル港およびタコマ港からも輸出されている。また、第4位のヒューストン港ではアフリカ向け、中南米向け、インドネシア向けが占めている(コラム1−図3)。豚肉では、アジア向けが西海岸のほか、東海岸からも多く輸出されている(コラム1−図4)。
 


 
 その中で、西海岸の港湾への輸入コンテナ数量が急増している一方で、輸出コンテナ数量が減少し、70%以上のコンテナが空の状態でアジアに返送された。これは港湾や陸上輸送の混雑から遅延が発生している中で、米国からアジアへの輸送費がアジアから米国への輸送費の10倍まで高騰したことを受け、数日分の拘留料や滞船料の支払いのリスクを避けて空の状態でアジアに返送する海運会社が増加したためである。
 米国畜産・酪農業界は、主要港における生産性がこの数カ月間低下していることを危惧している。これまではコンテナ処理が迅速に行われていたが、現在は労働力不足、トラック不足、設備・スペース不足などの理由により、処理速度が落ち始めているという。また、米国輸出業者は遅延期間の不透明性からコンテナ滞留料や滞船料の支払いを輸送費に転嫁することが難しくなり、輸出業者や商社が負担することも多かったという。
 そして何よりも、遅延期間の不透明性は輸出機会を奪っている。輸出先への到着遅延が顧客喪失につながっており、特に、保存期間の短い冷蔵品の取り扱いが難しくなっている。実際に、冷蔵牛肉の確実な輸入が困難であると判断した韓国など豪州産冷蔵牛肉の輸入に切り替えた市場もあるという。
 米国産乳製品も輸出機会の喪失に苦しんだ。21年は欧州やニュージーランドの生乳生産が奮わなかった中で、東南アジア、中東、北アフリカの市場シェアを伸ばせなかった。米国畜産・酪農業界からは、空の状態ではなく、貨物が積載されたコンテナを輸送する海外運送会社へのインセンティブの付与、トラック1台当たり重量を増加することによるトラック運転手不足への対応、港湾へのインフラ投資といった要望の声が上がっている。

4 米国畜産・食肉の需給見通し

(1)パンデミックによると畜への影響の現状

 パンデミックの影響によって2020年に複数の食肉処理・加工施設の稼働が止まり、特に同年3〜5月は大幅に減少したが、現在と畜頭数は、パンデミック前の水準にまで戻ったと言える。22年1月から2月中旬における牛の1日平均と畜頭数は平日で約11万7000頭、土曜日で約5万3000頭であり、パンデミック前の19年第1四半期の水準を超えている(図30)。
 また、22年1月から2月中旬における豚の1日平均と畜頭数は平日で約45万7000頭、土曜日で約19万2000頭であり、パンデミック前の19年第1四半期の水準を超えている(図31)。



 

(2)肉用牛・牛肉の需給見通し

@) 飼養頭数
 2022年1月1日時点の牛総飼養頭数は乳用種を含めて9190万頭(前年比2.0%減)と減少した。また、経産牛は乳用種を含め3950万頭(同2.0%減)、そのうち肉用種は3013万頭(同2.3%減)といずれも減少した(図32、表4)。
 さらに、21年の子牛出生頭数も3509万頭(同1.2%減)と減少した(図33)。肉用繁殖後継牛頭数も561万頭(同3.3%減)、そのうち22年内分娩予定頭数も341万頭(同2.8%減)と減少しており(表4)、牛総飼養頭数は22年のうちにさらに減少する見通しである(図32)。
 22年1月1日時点の肥育仕向け予定頭数は4023万頭(前年比1.6%減)と減少した。そのうち、フィードロット飼養頭数は1469万頭(同0.2%増)とわずかに増加したが、フィードロット外の飼養頭数は2554万頭(同2.6%減)と減少した(図34)。米国南部における干ばつの影響により、一部地域の牧草在庫がひっ迫したことからフィードロットへの導入が進んだものと考えられる。繁殖後継牛あるいは肥育仕向けの動向にも注視が必要であるものの(注3)、22年後半に見込まれる干ばつからの回復に伴う牧草育成状況の改善も相まって22年の年間肥育頭数は減少する見通しである。

(注3) 現在米国では、干ばつの影響で牧草供給が減少傾向であることから(1)肥育適正期でない牛がフィードロットに導入される(2)繁殖後継牛に回さず肥育に仕向けられる雌牛がフィードロットに導入される―という状況にある。

 肥育頭数の減少は生体輸入の増加につながるが、主要な生体輸入元であるメキシコおよびカナダにおいても牛肉供給が比較的ひっ迫していることから、生体輸入が急増することはなく、22年の生体輸入頭数は200万頭(前年比11.1%増)程度を見込んでいる。







 
A) 牛肉生産量
 2021年の牛肉生産量は1267万2000トン(前年比12.8%増)と増加したが、前述の肥育頭数の減少および牧草育成状況の改善に伴うフィードロット導入頭数の減少により、22年の牛肉生産量は1241万7000トン(同2.0%減)と減少する見通しである(図35)。また、等級の高い牛肉の需要が高まることなどの理由から、と体重量は増加する傾向にある。
 

B) 肥育牛平均価格
 このように、肥育牛供給の減少および牛肉需要の高まりから、肥育牛価格にも影響が生じている。2021年の主要5地域の肥育牛平均価格は100ポンド当たり122.4米ドル(1キログラム当たり314.5円、前年比12.8%高)と大幅に上昇した。この状況が継続することから、22年の肥育牛価格は100ポンド当たり137.5米ドル(1キログラム当たり353.3円、同12.3%高)と15年以来の高値となることが見込まれる(図36)。

 
C) 牛肉輸出量
 2021年の牛肉輸出量は156万4000トン(前年比16.8%増)と大幅に増加した(図37)。日本、メキシコ、カナダ、台湾への輸出量は減少したが、韓国および中国への輸出量が増加した(表5)。特に、中国への輸出量は24万5000トン(同354%増)と大幅に増加しており、牛肉輸出量全体の増加の要因となった。中国における米国産牛肉の需要の高まりは、食生活の変化、米国産牛肉の輸入制限政策の変更によるものだと考えられる。その結果、牛肉輸出量全体の中国への輸出量は20年の4.0%程度から21年には15.7%にまで増えた。
 一方で、22年の牛肉輸出量は、牛肉生産量の減少が輸出に抑制的に働き、148万3000トン(同5.1%減)と減少する見通しである(図37)。さらに、牛肉価格の上昇が外国市場における価格競争力の低下を招き、豪州やブラジルなどの輸出志向の国における牛肉生産量の増加により、競争の激化が見込まれる。

 

 
D) 牛肉輸入量
 2021年の牛肉輸入量は151万8000トン(前年比0.2%増)と豪州産牛肉の輸入量減少がカナダ、メキシコ、ブラジル産牛肉の輸入量増加によって相殺された形である(図38、表6)。特に、ブラジル産牛肉はこれまで中国が主要市場であったが、ブラジル国内における非定型BSEの確認により、中国による一時輸入停止措置がとられた結果、米国市場に多くのブラジル産牛肉が仕向けられたものと考えられる。
 一方で、22年の牛肉輸入量は152万9000トン(同0.7%増)と21年と同水準の見通しである(図38)。特に、21年に輸入量が急増したブラジル産牛肉については、中国への輸出が再開していることから輸入量の増加は見込まれない。また、豪州においては干ばつからの回復により、22年後半には牛肉生産量が増加する可能性が高く、注視が必要である。
 


 

(3)養豚・豚肉の需給見通し

@) 飼養頭数
 2021年12月1日時点の豚総飼養頭数は7420万頭(前年比4.0%減)と減少し、17年以来最も少なくなった(図39、表7)。一方で、同日時点の繁殖母豚頭数は618万頭(同0.1%増)と前年とほぼ同水準となった(図40、表7)。これはCOVID–19による影響や生産費上昇などに伴い、豚1頭当たり平均利益が安定しておらず、生産者が豚の増産に慎重な姿勢を示した結果、21年の分娩頭数が減少したためだと考えられる(図41)。22年の第1、2四半期においてもこの傾向は続く見通しである。







 
A) 豚肉生産量
 2021年の一腹当たり平均産子数は第1、2四半期には減少したものの、第3、4四半期には増加に転じた(図42)。従って、22年の豚肉生産量は、生産者による分娩・生産計画の影響を受けることになるが、前述の通り、22年の分娩頭数は上半期が減少傾向であり、下半期には増加傾向に転じるものの、22年全体として減少する見通しである。そのため、豚肉生産量も21年の1255万2000トン(前年比2.2%減)から22年の1241万9000トン(同1.1%減)とさらなる減少が見込まれる(図43)。




B) 豚肉輸出量
 2021年の豚肉輸出量は318万9000トン(前年比3.4%減)と減少した(図44)。これはアフリカ豚熱の発生の影響を受け、豚肉の輸入需要の高まりを見せていた中国が徐々に生産を回復し始めたこと、他の主要豚肉生産国との競争が激化したことなどによる。この傾向が継続することから22年の豚肉輸出量も309万トン(同3.1%減)と減少する見通しである(図44)。
 

C) 豚肉輸入量
 2021年の豚肉輸入量は53万5000トン(前年比30.5%増)と大幅に増加し、2003年以来の高水準となった(図45)。これは米国内の豚肉需要の高まりだけでなく、中国からの豚肉輸入量の減少により、他の主要豚肉生産国による米国市場への参入が増加したためである。この傾向の継続と米国内の豚肉生産量の減少を受け、22年の豚肉輸入量は59万4000トン(同11.0%増)とさらなる増加を見込んでいる。

 
D) 肥育豚価格
 2021年の赤身率51〜52%の生体ベースの肥育豚価格は豚肉生産量の減少のほか、労働力不足、サプライチェーンの混乱、インフレによる影響も受け、100ポンド当たり67.29米ドル(1キログラム当たり172.9円、前年比55.8%高)と大幅に上昇した(図46)。22年においては、豚肉生産量が減少するものの、輸出量の減少や輸入量の増加により、国内流通量が増加することから、肥育豚価格は100ポンド当たり65.00米ドル(1キログラム当たり167.0円、同3.4%安)と低下する見通しである(図46)。

 

(4)肉用鶏・鶏肉の需給見通し

@) 鶏肉生産量
 2021年の鶏肉生産量は、20年後半から21年前半にかけて飼料価格が上昇した影響で生産量が伸び悩み、2036万1000トン(前年比0.7%増)とわずかな増加にとどまった(図47)。その後、飼料価格の改善が生産量増加のさらなる後押しとなるが、肉用種鶏卵のふ化率が比較的低い状況にあるため、22年の鶏肉生産量は2063万2000トン(同1.3%増)とわずかな増加にとどまる見通しである(図47)。
 

A) 肉用種鶏飼養羽数
 2021年の肉用種鶏飼養羽数は年間を通じて前年を上回り、種鶏100羽当たり産卵数もほぼ前年を上回ったが、ふ化率が前年を下回ったため、導入羽数が伸び悩んだ(図48、49)。22年においてもふ化率の低水準が継続する見通しであり、種鶏飼養羽数の増加により、導入羽数の維持を図るものと見込まれる。
 



B) 鶏肉輸出
 2021年の鶏肉輸出量は334万トン(前年比増減なし)と2年間の横ばいが続いたが、22年には335万トン(前年比0.1%増)と前年並みの見通しである(図50)。米国産鶏肉の第一位、第三位の輸出先であるメキシコ、中国においては、鶏肉輸入が増加すると予測されており、輸出量の増加に働く可能性があるが、米国内の鶏肉価格の上昇により、価格競争が激化すると見込まれる。


C) 丸鶏卸売価格
 2021年の丸鶏卸売価格は、労働力不足やインフレの影響もあり1ポンド当たり1.01米ドル(1キログラム当たり259.5円、前年比38.3%高)と大幅に上昇した(図51)。22年においても1ポンド当たり1.13米ドル(1キログラム当たり290.4円、同11.7%高)とかなり大きく上昇し、過去最高値を記録する見通しである(図51)。

 

(5)採卵鶏・鶏卵の需給見通し

@) 鶏卵生産量
 2021年の総鶏卵生産量は92億3000万ダース(前年比0.7%減)と減少したが、22年は94億3000万ダース(同2.2%増)と増加に転じる見通しである(図52)。

 
A) 鶏卵価格
 2021年の食用鶏卵の価格は変動が激しく、1ダース当たりの鶏卵卸売価格は第1四半期の1.28米ドル(149.2円)から第2四半期の0.94米ドル(109.8円)まで低下、その後、第3四半期で1.20米ドル(139.9円)、第4四半期で1.35米ドル(153.6円)まで上昇した(図53)。この激しい価格変動により、生産者が鶏卵生産に慎重な姿勢を示した結果、22年1月1日時点の採卵鶏飼養羽数は3億2600万羽(前年比0.2%減)と減少傾向を示した(図54)。今後、供給量が伸び悩む一方で、鶏卵需要の高まりが継続することから、22年の1ダース当たりの鶏卵卸売価格は1.32米ドル(153.3円、同11.3%高)と上昇する見通しである。




B) 鶏卵輸出
 2021年の鶏卵・鶏卵製品輸出量は殻付き換算で3億9200万ダース(前年比14.0%増)と大幅に増加した(図55)。これは高病原性鳥インフルエンザの発生により国内需給がひっ迫した韓国への輸出量が増加したためだと考えられる。22年の鶏卵・鶏卵製品輸出量は3億5500万ダース(同9.5%減)と韓国の回復に伴い減少する見通しである。

コラム2  米国産牛肉のロイン系以外の部位・食用副産物(バラエティーミート)の輸出と新たな外国市場の開拓

 国・地域による味覚、嗜好しこう性、食文化の違いを理解することは牛肉輸出を進めるにあたって重要である。米国食肉輸出連合会(USMEF)は、生産された肉用牛の価値を最大限に引き出すとともに、米国内消費者の需要を踏まえたサーロイン、フィレ、リブロースといったロイン系部位を使ったステーキや挽肉を使ったハンバーガーを手頃な価格で提供することにもつながるとして、ロイン系以外の部位や食用副産物(バラエティーミート)の輸出に力を入れている。
 2021年においては部分肉ベースで牛1頭当たり284.4キログラムのうち43.9キログラム(約15.4%)が輸出された。輸出額にすると、牛1頭当たり1789米ドル(20万8508円)の牛肉のうち407米ドル(4万7436円)(約22.8%)輸出されたことになる。
 この輸出を支えているのが米国内で需要の高いロイン系部位ではなく、ロイン系以外の部位とバラエティーミートである。例えば、生産される牛肉のうち、ロイン系以外の部位として、ともばらの約95%、カルビ(バラ肉)の約85%、外ももの約42%、ハラミの約31%などが輸出されている(コラム2−図1)。バラエティーミートにも国によって大きな需要があり、牛1頭当たりタン0.8キログラム、ミノ・ハチノス・センマイ1.7キログラム、レバー3.0キログラムなどが輸出されている(コラム2−図2、表)。



 
 
 また、USMEFは新たな外国市場の開拓も進めている。今、中国の牛肉需要が高まり、米国は中国向けの牛肉輸出量を大きく伸ばしているが、バーベキューイベントなどの取り組みのほか、e-コマースによる販売量を伸ばすために、米国産牛肉の処理・調理を行うシェフや牛肉加工業者の訓練に取り組んでいる(コラム2−図3)。米国牛肉業界は、米国産牛肉の輸出量が過去10年間で161%増加している中南米市場も非常に重要視している(コラム2−図4)。
 



 コロンビアではUSMEFが精肉店プログラムを実施している。コロンビアでは近代的な小売店が普及しておらず、精肉店による販売が国民に根付いている。そこで、米国産牛肉の輸出とセットで、適切なコールドチェーン管理、適切な加工技術、消費者に売り込む方法などの訓練を提供している。さらに、牛肉の取り扱いについて約50項目、マーケティングについて約30項目のチェックリストを作成し、精肉店の売り上げにも貢献している。これらの取り組みはコロンビア企業から高い評価を得ている。
 世界の牛肉需要の高まりが米国産牛肉の躍進を後押ししているところもあるが、近年の好調な米国産牛肉の輸出動向を見ると、牛肉の輸出量を伸ばすためには、他国の文化、サプライチェーン、業界の動向などを理解した上で、効果的なプロモーション活動に臨むことが重要であることがわかる。

5 おわりに

 2021年はパンデミックにより明らかになったサプライチェーンの脆弱性の影響が続いた1年間であった。港湾混雑やトラック運転手不足などのサプライチェーンの混乱は米国農畜産業にも大きな影響を与えた。労働力不足も深刻であり、食料サプライチェーン全体で労働力を確保するために長期的な対策が必要になるだろう。さらに、国連食料システムサミットやCOP26が開催され、気候変動への対応と持続可能な農畜産業に向けた取り組みなど大きな課題が具体化された時期でもあった。しかし、米国畜産業界は気候変動、持続可能性への対応について、生産者にかかる負担を軽減すべく、技術革新や投資拡大に前向きに取り組んでいる。
 22年は世界的なたんぱく質需要の高まりがある中で、米国政府や業界が一丸となって取り組んでいる農畜産物輸出の動向は、他の主要生産・輸出国の動向とともに注視が必要だろう。また、インフレを背景に食料価格が上昇している中で、米国政府が強く推進する食肉・食鳥サプライチェーン強化についても進捗しんちょくが待たれる。今後、山積みとなる課題に米国政府と業界がどのように立ち向かうか注目したい。

(岡田 卓也(JETROニューヨーク))