前述の通り、オホーツク管内では年間約400件の農作業事故が発生している現状にありますが、そのうち約4割が畜産に起因するものとなっています。網走農業改良普及センター(以下「普及センター」という)が管内の事故の状況を調べたところ、毎年畜産農家の約7戸に1戸で家畜に由来する事故が発生しているという、非常に残念な事実が浮き彫りになりました。しかし、農作業事故に関する情報は、機械や耕種部門に関する資料が多い一方、家畜管理作業に特化した資料が乏しい状況となっていました。
このような状況に鑑み、普及センターでは、平成30年から調査研究チームを立ち上げ、家畜農作業事故防止について、「一人でも多くの畜産農家が事故に遭わないこと」「事故は防げるという意識を醸成すること」を目標に3カ年の活動を行いました。
(1)事例調査の実施
普及センターでは、農作業安全に取り組む北海道内の農場3カ所の視察を行い、どのような取り組みがなされているかを調査しました。
A農場では、「気性が荒い」、「すぐ人に寄って来る」などの牛を「注意牛」として表示する、牛の移動時にはマニュアルに沿って複数人で行うなど作業員の安全確保を行っています(写真1)。また、従業員休憩所内の自然に目に入るところに農作業安全に関する注意書きを掲示するなど、日ごろから農作業安全に努める雰囲気づくりが行われていました。
B農場では、ミルクラインを地下に埋め込むなど配管が人に当たらないようにする、人の作業通路にもゴムマットを設置して滑らないようにするなど、農作業安全と作業の効率化が図られる作業環境が作られていました(写真2)。
また、C農場では、「事故は誰にでも起こりうるものだが、起こったときにうやむやにせず、記録に残し、同じ失敗を繰り返さないようにする」ということを実践し、事故やヒヤリハットが起きたときにはヒヤリハット報告書を作成し、当事者がその内容を見つめ直すようにするとともに、役員がリスク評価をして農場全体に周知する仕組みとしていました。
(2)ヒヤリハット事例の収集とその対策
事例調査から見えてきた対策の手がかりとして、事故事例や危険箇所の共有がありますが、一体、どのような危険が農場内にあるのかを明らかにしていくため、管内の農業者からヒヤリハットや実際に事故につながった事例のアンケートを実施しました。
その結果、
・牛がぶつかってきた。牛に飛ばされてストールに顔面を強打した。
・ロープで牛を固定しているときに引っぱられていった。
・パーラーの搾乳終了後の掃除のときに太いホースを踏み倒し、足の甲を骨折した。
など、多くのヒヤリハットや、実際にけがをしてしまった事例が分かりました。
こういった事故の情報を知ることは事故を防ぐことの第一歩となりますが、農場のどこに事故の危険性があるかは、それぞれの農場・畜舎の造りや作業手順でも異なり、自らが考えていくことが非常に重要となります。そこで、普及センターでは、農作業事故の防止に向けた「対策トレーニングシート」を作成しました(図4)。
このトレーニングシートは家族や従業員が話し合いながら、農場内や農作業での危険箇所を見つけ、その原因を探り、対策を考えて、それを行動に移していくことができるように作成されており、管内の各畜産農家での活用を呼びかけています。
(3)事故防止に向けた作業環境づくり
事例調査からは、事故を防止していくためには、意識の向上と合わせて、事故を防止する作業環境づくりの必要性も明らかとなっており、またトレーニングシート活用の目的は、農作業安全に向けた取り組みを実践していくこととなっています。普及センターでは、各農場段階の安全対策の実践を促していくために、具体的な実践事例や、事故防止に活用可能なグッズの紹介を行っており、以下、その一例を示します。
【事例1】パーラー内のハシゴが滑りやすくて危険。
→ 対策: 滑り止めテープを巻き付けました!(写真3)
【事例2】つなぎ牛舎で牛の横に入り作業したら隣の牛に蹴られ骨折。
→ 対策: 牛頭を保定し作業スペースを確保しました!(写真4)
【安全グッズ1】
チェストアーマー(バイク用として市販されている、胸部専用の保護プロテクター。牛に挟まれた・ぶつけられた時の胸部保護対策。写真5上)
【安全グッズ2】
手甲ガード・足甲ガード、骨折防止のためのプロテクター。脱着が容易で軽量(写真5下)。