(1)養豚農家戸数
MAPAによると、2020年の養豚農家戸数は8万8437戸(前年比2.4%増)と前年を上回ったものの、11年の9万3007戸から4570戸減少(4.9%減)した(表1)。
養豚農家を規模別に見ると、この10年間で小規模農家の減少度合いは大きい一方、大規模農家は増加している。また、近年の豚肉生産量の増加に伴い、20年は引き続き小規模農家戸数が減少する一方、中規模農家戸数は増加した。
(2)飼養方法
MAPAでは、養豚農家を三つの区分に定義している(表2)。2020年の養豚農家戸数のうち、非集約飼育農家が1万4598戸(全体のうち16.5%)、集約飼育農家が6万8836戸(同77.8%)、混合農家が1240戸(同1.4%)であるが、非集約飼育農家の割合は増加傾向にある(表3)。また、非集約飼育および集約飼育の要件は省令で制定されている。
(3)飼養頭数および方法
MAPAによると、豚の飼養頭数は増加傾向で推移し、2015年にはドイツを抜いてEU最大の豚飼養国となった。豚飼養頭数は07〜13年にかけて2500万〜2600万頭程度で推移していたが、14年に前年比4.2%増とやや、15年には同6.8%とかなりの程度増加した(表4)。その後も豚飼養頭数は年々増え続け、20年は3267万6000頭(同4.6%増)と前年をやや上回った。繁殖雌豚の増頭に加え、雌豚の繁殖性が向上したことにより、子豚の飼養頭数が増加し、全体の豚飼養頭数の増加につながったと考えられる。
スペイン養豚生産者団体によると、養豚の生産システムには生産サイクル全体を一つの施設で行うクローズドサイクルのシステム(表5)と、生産段階(繁殖、育成、肥育)ごとに異なる施設で飼育を行うシステムの二つのタイプがある。
飼養管理は、トウモロコシなどの穀物を個々に与える形から、バランス良く必要な炭水化物やたんぱく質、ビタミンなどを摂取することができる配合飼料を用いる形に変わりつつある。また、国内には750の配合飼料工場(このうち20%はカタルーニャ地方)があり、家畜のライフサイクル段階に合わせた配合飼料が製造されている。19年の配合飼料生産量は2625万トンであり、このうち42%に当たる1105万トンが養豚用として使用された。
なお、養豚業の多くは前述の通りインテグレーションが進展しており、飼料製造まで含まれるケースがほとんどである。そのため、インテグレーションに参加している養豚農家には、インテグレーターから飼料が供給される。
CESFACによると、養豚用向け飼料の60〜65%はインテグレーター向けに製造されており、残り20%が協同組合向けに、15〜20%が独立農家向けに製造されている 。
しかし、スペインでは主に養豚用配合飼料に用いるトウモロコシや大豆などの飼料穀物原料が国内では十分に供給できないため、輸入に頼っているのが現状である。
(4)品種
スペインで飼養される豚は、白豚と総称される三元豚がほとんどであり、スペイン白豚生産加工者協会によると、日本と同様に大ヨークシャー種、ランドレース種、デュロック種(止め雄)が中心となるが、ピエトレン種(止め雄)なども用いられている。
また、2020年12月時点で飼養されている豚の11%がイベリコ豚であり、MAPAの家畜の品種一覧には五つの品種(Entrepelado、Lampiño、Jabugo、Retinto、Torbiscal)がイベリコ豚として掲載されている(図2)。
なお、イベリコ豚については、ロイン、ハム、肩ロース、枝肉の品質基準に関する勅令(王室令第4/2014号)の下で、飼育方法や品種に基づいたクラス分けが規定されている。まず、イベリコ豚は飼育方法によって、(1)ベジョータ(De Bellota):2〜3カ月モンタネラ(ドングリと牧草だけで過ごす放牧)を行った後に、14カ月齢以上でと畜(2)セボ・デ・カンポ(De cebo de campo):放牧で飼育されるが配合飼料も同時に与えられ、12カ月齢以上でと畜(3)セボ(De Cebo):集約飼育で配合飼料により飼育され、10カ月齢以上でと畜−に分類されている。さらに、品種に基づき、製造された製品の表示に(1)100%イベリコ:イベリコ品種100%の血統を指し、両親も100%の血統のイベリコ豚(2)イベリコ:イベリコ種の血統が50%以上−が明記される。母豚が100%イベリコ種の場合には、雄豚として100%デュロック種を掛け合わせる場合が多い。なお、イベリコ種の血統比率が50%や75%の方が、成長は早いが品質が劣るため、イベリコ種100%の血統の製品が高品質とされている。
イベリコ豚の生ハム製品には、製品ごとに、黒(ベジョータ100%イベリコ)、赤(ベジョータイベリコ)、緑(セボ・デ・カンポ)、白(セボ)のシールで分類されている。
(5)出荷先
食農分野を専門としたフランスの投資会社の報告書によると、インテグレーション内の農家の場合には、インテグレーターが子豚や飼料の供給を行うほか、獣医サービスなどを農家に提供し、農家は生産量に応じた報酬を得て、飼育した豚はインテグレーターに出荷される。
協同組合に関しては、豚肉に特化した組合の場合には、組合が会員農家に対し、飼料や獣医療、保険、排せつ物管理などのサービスを提供するほか、豚肉や加工処理品を農家から購入し販売を行う。協同組合ごとに制度は異なるが、組合に所属する農家は、すべての生産分を組合に販売する必要はない場合がほとんどである。
(6)生産コスト
英国農業・園芸開発委員会(AHDB)が公表した2020年のEUの豚肉生産コスト比較を見ると、スペインは、EU平均(枝肉重量1キログラム当たり236円)を下回る同209円であった(図3)。調査対象国のうち、EU域内ではデンマークに次いで低い生産コストとなった。スペインは、生産費の約7割を占める飼料費が輸入原料を中心としていることにより他の比較国よりも高い一方、労働費などはEUでも低水準であることから、米国、カナダ、ブラジルには及ばないものの、価格競争力を確保している。
(7)環境問題などへの対応
養豚は、ふん尿に含まれる硝酸塩やアンモニアの大気中への排出や温室効果ガス排出など環境への影響が懸念されているため、畜産分野における最低限の環境基準がEUレベルで制定されている。スペインでは、EUの規制に基づき、2000年から見直されていなかった集約飼育養豚に関する基準を定めた省令が20年に見直されるなど、環境面の規制が強化された。
ふん尿管理に関しては、省令に基づき養豚農家に対し、フェンスと防水加工を施したふん尿池(自然または人工)の設置などふん尿管理に関する要件を課しているほか、ふん尿管理・生産計画の提出などを求めている。同計画には、かかりつけ獣医に関する情報や、施設に関する清掃・消毒・除菌計画、メンテナンス計画のほか、廃棄物管理計画など省令で定められた内容を含まなければならない。
温室効果ガスに関しては、養豚分野からの排出削減に向け、小規模自家消費型の豚舎を除く新規の豚舎に対し、大気、水質および土壌汚染の管理を目的とした「統合的汚染予防および制御に関する指令(96/61/EC)」の下で制定されている「利用可能な最善のテクニック」の採用を省令で義務付けている。また、一定規模以上の養豚場に対して、粗タンパク質含有量を減らした多段階給餌システムの採用や、少なくとも月1回は豚舎のふん尿層を空にすることなどが義務付けられている。
環境問題などへの対応は、EU・国レベルでの環境規制への準拠に加え、企業レベルで持続可能性戦略を制定し取り組みを行う企業もある。
(8)生産量
MAPAによると、2020年の豚肉生産量は約500万トンとなった(図4)。豚肉生産量のうち、直接消費向けが46%(約229万トン)、加工用向けが54%(約272万トン)であった。EU全体の豚肉生産量が過去5年で5%減少した一方で、スペインの豚肉生産量は過去5年で15%増加した。
スペインの養豚産業の成長理由として、ドイツの農業専門調査会社は、
(1)インテグレーションが進展し、効率性が大幅に向上したこと
(2)人や家畜の密度が低く、豚の生産を拡大する際に十分な土地が残っていたこと
(3)規模に応じた農家間の距離などの要件により豚群の衛生管理が適切に行われたため、養豚産業の拡大に対して社会からの容認が得られやすかったこと−などを挙げている。
スペイン国家統計局によると、20年の豚肉加工品(ハム、肩肉、骨付き肉)の生産量は冷蔵品が74万7800トン(前年比11.5%減)と前年をかなり大きく下回った一方で、冷凍品が39万4500トン(同47.4%増)と前年を大幅に上回った(図5)。
冷蔵品は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に伴うロックダウンが実施された20年には大幅に減少したが、冷凍品は、EU域外輸出に後押しされて増加傾向にあり、今後も成長が見込まれている。